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そして、第二十一回目の『ポートマンの大嘘』への航行が始まった。
捜索船は、ロナ島から出てきた時に乗った商船よりも一回り小さい帆船だった。
大きすぎる船では強い風で転覆の危険があったからだ。大中小それぞれの三角帆を持つ機動力に長けた最新鋭の船、そしてこの国で最も腕の立つ船乗りたち。しかし、そんな船でも島への航海は順風満帆とはいかなかった。
悪天候に次ぐ悪天候。何度も体験しているはずのこの船の船乗りたちも、島に近付けば近付くほど、常軌を逸した現象に怯えていった。
「次はなんだ。何が来るんだ」
「吹雪は嫌だ。やめてくれ」
どれだけ正確に進路を取ろうとも、戻される、流される、そのたびに船が転覆しかける、いつの間にか別の場所にいる。まるで島を守る何かに拒まれているかのようだった。
度重なる異常現象と命の危機にルウィーシアは生きた心地がしなかった。
「もうだめよ。きっとこの船は沈むんだわ。もう戻りましょうよ、エンデ」
「戻らない。私はあの島に行く」
「やはり無理だ。このままでは転覆してしまう……!」
ヴィントですらこの航海を諦めかけた。しかし、エンデの強い意志は一度たりとも折れることはなかった。
エンデはヴィントを鼓舞した。
「行ける。私は絶対にあの島へ行く!」
そのとき、見張り台から歓喜の声がした。
「見える! 見えた! 島だ!」
奇跡のような瞬間だった。
渦巻くような積乱雲の隙間から、淡く光る島が見えた。距離はそう遠くない。
しかし、またも四方から吹き荒れる風が船を襲った。
帆は風を力にするどころか、柱が折られないようにしている他なく、必死にしがみついていなければ海に投げ出されるようだった。ルウィーシアは寝かされているロザリアが心配になり、転がりながら船室に駆け込んだ。
船室には唸りを上げた嵐の音だけが響く。ルウィーシアは冷たいロザリアの身体を強く抱きしめた。本当にぬくもりなんてものはなかった。自分はなんて恐ろしいところへ来てしまったのだろうかと悔やんだ。
一方、外では船員たちがエンデを必死に止めていた。彼女は上陸用の短艇で島へ行くと言い出したのだ。確かにこのままこの帆船で進むことは不可能ではあるが、短艇では容易く転覆するのは目に見えていた。それは無謀すぎる。ヴィントは止めた。しかし、エンデは一切引かなかった。
「私を信じろ! 絶対に辿り着かせてやる!」
その言葉に誰もが「この女はいかれている!」と嘆いた。
結局、折れたのはヴィントだった。船長とエンデ、ヴィントは命知らずにも短艇で出ることになった。
「ルウィーシアはどこだ?」
エンデはルウィーシアの姿が見えないことに気付いた。
「さっき、船室に降りて行ったよ。あの寝たきりの子がいる」
船員からそれを聞くと、濡れた髪をかき上げて、エンデは船室に入った。
船室ではルウィーシアがロザリアを抱いて泣いていた。
「ルウィーシア、行くぞ」
「行くってどこによ! もう帰りましょうよ!」
「『宝島』だ! ロザリアも連れて」
「冗談でしょう?」
「本気だ。なんのためにここまできた?」
「好きで来たんじゃないわ!」
「お前はここまで望んで来たんだろう?」
「こんな事になるなら宝島なんて行きたくなかった!」
「こんな事ってなんだ? この悪天候か? ロザリアの死か?」
エンデは、ロザリアにしがみつくルウィーシアの手を掴んだ。
「お前はあの島に行きたくて、ここまで来たんだろう」
「……わからないわ」
ルウィーシアは泣き腫らした目で、縋るようにエンデを見た。
「なんで、どうしてこんなことになっているの?」
エンデは何か言いたげに口を開くが、その言葉を飲み込み、ロザリアからルウィーシアを引き離した。
「……お前が嫌でも、ロザリアは連れて行くぞ」
「どうして!」
「彼女を弔ってやる為だ。もしお前が行きたくないと言うのなら、ロザリアとお前はここでお別れだ。今はヴィントがいることで保っているが、ヴィントがいなくなればこの子は途端に朽ちていく。二度も無惨になるのはあまりにも可哀想だ」
「……」
「お別れを言うか、一緒に来るか、選ぶんだ」
エンデは片手でロザリアを抱き上げて、ルウィーシアに迫った。ルウィーシアは床にうずくまって泣いて叫んだ。
「選べるわけないじゃない! 選択肢になっていないのよ!」
「……」
「行くわよ……行けばいいんでしょう……それしか、ないじゃない……」
「そうか……」
小さく呟くと、エンデはもう片方の手でルウィーシアの手を引いた。




