19
柔らかすぎる感触に違和感を覚えて、ルウィーシアは目を覚ました。
薄っすらと目を開ければ、見たこともない豪華な天蓋が視界に入り、余計に混乱した。ロザリアの家の寝台ですら、もっと質素だと言うのに。
「気がついたか」
随分と小綺麗になりさっぱりとしたようなエンデが、寝台の横で椅子に座ってくつろいでいた。彼女が手に分厚い本を持ち、その後ろで薄い帷帳が風に揺れて斜陽を浴びている様に、ルウィーシアはまだ夢の中なのではないかと思った。
エンデは本を閉じ、ルウィーシアの頬に手を伸ばした。
「大丈夫か?」
「わからないわ。エンデはどうして綺麗になっているの」
「……ここの風呂を借りた。家主に『流石に小汚すぎ』と言われて」
苦笑するエンデは今まで見たこともないような穏やかな表情だった。次第に記憶が鮮明になってきた。ルウィーシアはくしゃりと自分の髪を掻き上げて頭を押さえた。
「いやよ……嘘よ……ロザリアは生きているのよ……」
「すまない。もしかしたら、私に出会ったせいかもしれないな」
自嘲気味に呟かれたエンデの言葉の意味が、ルウィーシアにわからなかった。
部屋の扉が開かれた。入ってきたのは、初老の男だった。
「目が覚めたみたいだね」
ルウィーシアを見て、穏やかな口調でその男は言った。その男には見覚えがあった。ポートマンの屋敷の二階で微動だしなかった、あの男だった。今は顔色が悪い以外は普通に動き、話している。
「ロザリアでは、君に申し訳ないから、ポートマンに変わってきたよ」
「やめてよ! 聞きたくないわ! 早くロザリアに会わせて!」
叫ぶルウィーシアに、男は僅かにたじろいだが、すぐに表情を引き締めた。彼もまた、エンデと同じようにルウィーシアの寝台の横について、頭を抱えるルウィーシアの両手をそっと掴み、下ろさせた。有無を言わさぬ強さだった。
「駄目だ。聞いてくれ。僕の名前はヴィント。レアンから来た、エンデの親友だ。君の親友、ロザリアは亡くなっていた。だから僕が彼女をここまで連れてくることが出来た」
「ああ……あああ……っ」
「辛いかもしれないが、わかって欲しい」
「ああ……あんたが、あんたがロザリアを乗っ取って、乗っ取って殺したのね……」
「そうじゃない。僕が見つけたときには小舟に縛り付けられた状態で死んでいた」
「そんなわけないわよ! だって彼女は旅に出たのよ! どうしてそんな状態なのよ!」
「そこまでは僕にもわからない。あくまで借りているだけなんだ、彼女の身体を」
「嘘よ、嘘よ……嫌だ、嫌よ」
理解も納得も出来ずに、ルウィーシアは泣き続けた。ヴィントは彼女に言い聞かせる。
「君が望むなら、エンデと君をあの島に連れて行こう。そこにきっと君の親友もいるはずだ。もしかしたら、会えるかもしれない」
「……会え、る? どうして? 死んでしまったんでしょう?」
「あそこは死者の魂が集まる場所だ。そこに君の親友ロザリアの魂は必ずあるだろう。絶対に会えるとは言い切れないが」
「そんな世迷い言、どう信じろって言うのよ……早くロザリアに会わせてよ……さっきのロザリアでもいいから、いいから……」
話が突拍子もない上に、ルウィーシアは錯乱しており、話がちっとも進まない。
ヴィントはどうしたものかと眉を寄せていると、それまでずっと黙って見ていたエンデが、すぱんと小気味良い音でルウィーシアの頭を叩いた。突然の事にヴィントは目を丸くした。
「ちょっと、エンデ!」
しかし、エンデはそれには構わず、強い口調でルウィーシアを叱咤した。
「いい加減、泣くのをやめろ。しっかりしろ。お前は島を出たんだ、大人として」
「こんな事なら出なかったわよ!」
「結果論だ。お前はあの時、出たくてたまらなかったから、私に交渉したんだ」
エンデは寝台で座ったままのルウィーシアを掛け布ごと抱えた。突然のことにルウィーシアは暴れるし喚くが、おかまいなしにエンデは部屋から出ようとした。
「ヴィント、ロザリアを寝かせている部屋まで案内しろ」
「嘘だろ、エンデ」
「いいや、本当だ。わからないなら、わからせる」
エンデの目は強かった。
「いつまでも泣いていては話が進まない」




