17
縛り付けられて小船で流され、どうすることも出来ずに彷徨した。
すぐにも死ねず、飢えと乾きに苦しみ続けた。レアンの海は荒れることはなかった。穏やかな風を帆に受けて、船は外へ外へと進んでいった。
苦しみがどれほど続いたか。このまま何も出来ずに干からびて死ぬのかと意識が薄らぎ出したときに、不意にヴィントは温かい光に包まれた気がした。
気がつくと、レアンの海岸に立って海を見ていた。
辺りを見回すと、横にはエンデが立っていた。エンデは楽しげに海の先を指差し、無邪気に笑っていた。何を言っているかは聞き取れなかったが、なんだか心地よさを感じていた。
不意に名前を呼ばれたかのような気がした。
振り向けば、女が立っていた。誰だかはわからないが、懐かしさがこみ上げてきた。女はヴィントに語りかけてきた。
『ヴィント、あなたはどうしたい?』
女の言葉に思いついたのは、とても単純な答えだった。
「世界が見たかった。すべての世界が……見たい」
すると女は言った。
『あなたの身体はもうすぐ終わる。その代わり、魂に自由を授けよう』
その瞬間。
ヴィントは大空を舞っていた。まるで風になったかのようだった。眼下には青い海が広がる。なんて世界は広く美しいのだろう。世界の端から端まで全てが見渡せた。
余すところなく見た。一年以上かけて、世界中の空を飛び回り、魂だけで見尽くした。それを魂に刻み込んだ。しかし唯一、あの島だけは遠くからでしか見えなかった。
ある時、一人の男と出会った。男は岬から転落して死にかけていた。ヴィントは男から強い意志を感じ取り、目が離せなくなった。
暫くした後、男は息を引き取った。ヴィントは迷ったが、自分の魂をその男の身体に移した。
その男の名はポートマンといった。世界地図を作ることに人生のすべてを賭けていた。
ヴィントはポートマンの夢を叶えるべく、地図の続きを描き上げた。世界の端であろうと、ヴィントには見渡す力があった。ここに『完璧な地図』が作られた。
「ポートマンとして生きた。そして、その地位を使って、魂ですらいけなかったあの島へ行こうとし続けた」
「……」
「信じる信じないは、エンデ次第だけど」
「……信じるさ」
エンデは手で目を覆った。
「レアンならそんなことだってあるさ。あそこは女神に守られた大地。だからきっとここまで来れたんだ」
おかしそうに笑い、声が震える。
「実は何年も前から二人して同じ場所にいたんだな、ヴィント」
「本当に馬鹿みたいだね、エンデ」
再会を喜ぶ二人に、ルウィーシアは叫んだ。
「ふざけないで! ロザリアよ! 何がポートマンとして生きたよ! その子はロザリアよ! わけのわからないことを言わないで!」
激昂する彼女の話はもっともだった。
「どうしてロザリアがここにいるのよ。どうしてロザリアにそう言わせるのよ!」
その問いに、ヴィントは顔を伏せて、自身の手のひらを見つめた。
「この子は、海の上で死んでいたよ。それを僕が、ポートマンが拾った。僕と同じく小舟に繋がれて……あまりにも無残だったから……」
その言葉は最後までルウィーシアに届いたか、定かではないが、ルウィーシアは足元から崩れ落ち、そのまま気を失った。




