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船は王都のあるフォーン大陸の港町に向かって進んでいった。
ルウィーシアにとっては初めての長期の船旅で不安もあったが、一日中海を見ているだけでも飽きはしなかった。大陸の港町を想像してみる。高い山々を、何処までも続く草原を、そして誰も見たことのない宝島に思いを馳せる。
ロザリアは今どこを旅しているのだろうか。心躍る旅の想像はいくらでも出来た。
また、ルウィーシアは時間を見つけては、エンデにレアンのことや、他の土地の話をせがんだ。エンデの話はまるでおとぎ話を聞いているように楽しかったし、そこからまたロザリアとの旅の妄想が際限なく膨らんでいくのだった。
中でもルウィーシアが興味を惹かれたが、レアンの永遠の命の話だった。
レアンに住む者たちは、その魂を神様によって守られているらしい。その身体が死を迎えても、魂を物――人を模ったものや、大切に使い続けたものなど――に移して、新たな生を受けることが出来る。やがて神の加護を受け、再びレアンの地で肉体を持って生まれ変わる。そうして魂はレアンの中で永遠に輪廻転生を繰り返す。それがレアン人の『永遠の命』だった。
自分の汚らわしい肉体から何かに移ることが出来て、そして望む限り生きることが出来る。ロザリアとずっと一緒にいられることも出来る。ルウィーシアはそのおとぎ話のような話に、すっかり魅了されたのだった。
二人一部屋の狭い船室で地図を広げ、ルウィーシアは持ってきたパウゴをちびちびと齧りながら、記された港町と宝島を何度も指でなぞった。
「港に着いたら、どうやって宝島に行くの? その後は自分たちで船を探さなきゃならないの?」
ルウィーシアはエンデに尋ねた。革袋に入った水を一口飲みながら、エンデが返した答えは意外なものだった。
「いや、一度港町から、北上して王都へ行く。王立研究所に行く」
「え? 研究所? それってなに? 宝島は?」
「簡単に言うと、学問を勉強して世界の謎を解き明かす場所だ。宝島に行くためにもまずはそこに向かう」
「ふーん。そこって学者さんがいる場所ってこと? そもそも、そんなところに私たちみたいな旅人が入れるの?」
ルウィーシアは自分の服を摘んで眺めながら戸惑った。
風呂に入って身体を清めたとしても、持っている服は長旅で着回していた為、持ってきた時よりもだいぶ汚れてしまっていた。エンデに至ってはルウィーシアの服よりも更にくたびれ汚れ、まるで野良犬のようだった。とてもそんなところにいけるような服装ではない。ルウィーシアはそう思った。
しかし、エンデはそういうことは全く気にしていないらしい。
「研究室につてがある。そこからポートマンの私設した捜索隊の船に乗せてもらう。それが一番手っ取り早い」
それを聞き、ルウィーシアは眉を寄せた。
「え? 嘘でしょう? エンデが学者さんの知り合いがいるなんて全然想像出来ないわ。そんな見栄張らなくて良いのよ」
「お前、結構ひどい奴だよな」
エンデはぼさぼさになった髪を掻きながら半眼でぼやいた。
しかし、話を聞けば、どうやら本当につてがあるどころか、なんとエンデは研究所の出入りも許可なく出来るそうだ。ただそれ以上の詳しい理由を聞いてみても、「まぁいいじゃないか」と誤魔化すばかりで、はっきりと答えてはくれなかった。
エンデは聞かれなければルウィーシアに色々話してはくれなかった。レアンから来たというエンデはやはり謎が多かった。
ロナを発って約半月。船は王都に一番近い大陸の港町に到着した。
この港町は世界中からの物資が集まり、そして王都へ続く大街道もあるため、海からの物資や人だけではなく、陸からも人が集まる大都市――少なくともルウィーシアにとっては――であった。立ち並ぶ商店の他に、所狭しと露天商が立ち並ぶ。そこを人々が押し合いへし合いで歩くのだ。
見たこともない異国の品々、見たこともない大勢の人々、空が狭くなるほどの高い建物の多さに、ルウィーシアは目眩も感じつつも、弾む心が隠せずに端から端まで見て回った。元々この港町で宿を取る予定らしく、エンデもはしゃぐルウィーシアを止めず彼女の好きにさせていた。
その日は商店の建ち並ぶ仲見世通りにある、安宿の三階の一室で休むことになった。
ロナ島の夜と違って、夜空に星の光は見えないけれど、下を見れば眩いばかりの街の灯りが広がっていた。満足気に干しパウゴを齧る。鳴り止まない喧騒を宿の窓から見て、ルウィーシアは夢見心地で初めての大陸の夜を過ごしたのだった。




