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フィクション 沖縄戦  作者: 冬乃 兎
6/6

2020年

2020年 五月二九日 自衛隊中央病院

 仕事に戻って一ヶ月が過ぎようとしていた

 悪夢の事故から立ち直るには十分な時間も

 正に悪夢だった

 どう考えても長い夢を見ていた

 時々、思い出す

 彼らはどんな人生を送り、どんな死に方をしたのだろう

 でも、彼らとの関わりは本当は無かった事

 考えても仕方が無い

 「屋上に行きましょうか?そろそろですよ」

 看護師たちと共に屋上へと向かう

 今日はブルーインパルスが東京上空を飛ぶ日になる

 平和な空とは言い切れないけれど、少なくとも戦時中では無い

 白い帯を引いてTー4の編隊が上空を通過していく

 何気にスマートフォンで撮影する自分があまりにも滑稽に思えたが、それでも滅多に無い機会で心が躍っていた

 過ぎ去ったブルーインパルスに想いを託して宿直室に戻って簡易ベッドに滑り込むとなんとなく無意識に撮影した動画を見てみた

 そのあと、静止画を見ていて涙が溢れてきた

 1944年の彼らがそこにいた

 なんとなく記録として時々撮影していた写真がそこにあった

 「夢だと思っていた…夢じゃ無かった…じゃ、彼らは?」

 誰にも悟られないように、俺はまくらを噛んで布団の中で泣いていた


2020年 七月二五日 新宿Ksシネマ

 指定の座席についてポップコーンをむさぼっていると彼女が隣に座った

 昨年は合う事も出来ず、今年は日本が最悪な状態で帰国していた間は俺は入院中なうえ、感染症が専門の彼女は早々に海外へ行かねばならずやっと合えたのがたった今

 デートとして彼女が選んだのがこの映画だったわけだ

 今日が封切り

 上映がはじまり彼女の手を握る

 俺の肩の上に彼女の頭が乗った

 『生きていた…』

 スクリーンの中に年は重ねたけれど、面影の残る顔が映し出される

 『そうか…彼女は亡くなったのか…疎開中に…』

 テロップが読めないほど涙が溢れる

 『あの言葉を…覚えていてくれたんだね…ありがとう』

 映画を見終えて外に出ると青空が広がっていた

 ハンカチを手渡され涙をぬぐった

 「浮気はダメだって言ったでしょ!ねぇそう言ったよね?何度も!」

 「チョット待ってよ…あれは、浮気とは言わないでしょうに…それは、あんまりじゃないですか?そうじゃなくて、俺は七五年間ずっとあなたを愛していたって事でしょ?」

 「いえ、浮気です。若い娘に夢中になってました。わたしはあなたが送られる時代の二〇年前に来てしまってずっとあなたを待ち続けていたのに、あなたは浮気しました。わたしはあなたを想い続けていましたが五歳年上になってますので若い娘にはかないません」

 これはそういう事です

 爆撃機を打ち落とした際の爆風は時と場所を越えるワームホールを作り出し俺と小梅ちゃんをタイムスリップさせた

 位置の差なのか到達する時間の差なのかは分からないけれど、その際に飛ばされる時間が20年程ずれてしまい、一五歳年下の小梅ちゃんは五歳年上の小鈴さんになってしまったという事だった

 猛君はタケルさんになっていたが、ワームホールに巻き込まれた訳ではなく、死亡した事になっていたため戸籍を偽って現代にいる

 ヤフー株で相当もうけたけれど、小梅ちゃんに俺が話して諭したように歴史を変えるような事が無いようにひっそりと暮らしてきたそうだ

 空を見上げて彼女が呟いた

 「結局、あなたは歴史を変えなかった…過去を変えたいとは思わなかったし、変えない方を選んだ…それで、良いのよね?」

 「俺なんかが歴史に手を加えるなんておかしいだろ?でも、君が生きていて良かった」

 真っ昼間に交差点の信号待ちでキスをする中年カップルに視線が集中した

 その時

 大型電光掲示板にニュースが映し出される

 「先ほど首相官邸に零戦らしき飛行機が突入し総理大臣を含む自民党の主立った国会議員の殆どが死亡したと思われます。」

 「過去の歴史は変えなかったけど、未来は変えてしまったみたいね…」

 青ざめて電光掲示板を見つめ続ける俺に、彼女が天使のキスを…

ミライに乗っていて過去に飛ばされた俺は未来を変える事になってしまった


FIN

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