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フィクション 沖縄戦  作者: 冬乃 兎
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2019年

2019年 十二月五日 二子玉川駅近く マンションの一室


 午前十時 スマートフォンの着信音が鳴り響く

 夜勤を終えシャワー中だった俺だが、電話をとるためにバスルームから出る

 エアコンでの暖房は間に合わず寒い

 「もしもし、おやじか?夜勤明けなんだけど」

 面倒くさそうな声になっているのは自分でも判る

 「中村医師が亡くなられた。当分は日本へは帰れないから、お前の方でお悔やみの手配を頼みたい」

 悲しみを隠しきれない声が胸に突き刺さった

 「わかった…おふくろと相談してやっとく」

 「すまん」

 用件だけ言うと電話は切れた

 リモコンでテレビのスイッチを入れると中村医師のニュースが流れている

[アフガニスタンの東部ナンガルハル州の州都ジャラーラーバードにおいて、車で移動中に何者かに銃撃を受け負傷。治療の為にパルヴァーン州バグラームにあるアメリカ軍のバグラム空軍基地へ搬送される途中で死亡しました。]

 紛争地帯で医療活動をしていれば想定内の事態だとは思う

 夫婦で【国境なき医師団】なんてやってるバカおやじとおふくろも当然同じ事

 けれど、俺は中村医師の影響で今の職場にいる

 心に大きな穴があいてそこを風が吹き抜けていく

 「おふくろ…中村医師のお悔やみの件なんだけど…おやじから今電話があって…」

 年末の調整で一時帰国しているおふくろに連絡を入れる

 「小鈴さんとやっておくから、あんたは自分の仕事に集中していなさいよ。告別式が決まったら連絡入れるから」

 「でも、おやじが…」

 「男は何の役にも立たんから任せとけばええんよ」

 電話が切れた

 感情が高まると関西弁が出るおふくろ

 『まじかよ…』

 役立たずは頭を抱えたままベッドに滑り込んで眠りに落ちた

 『小鈴さん…よろしく…』


 早瀬小鈴は俺のフィアンセである

 外科医でありながら感染症の研究で学位を取り、現在は医学ジャーナリストとしても活躍中

 おそろしく頭が切れるお姉さんというイメージでありながら俺の前ではまるで少女のような天使のような優しい女性だ

 『おふくろ…小鈴さんまだ、婚約者なんだけど…良いのかなぁ…』

 俺は夢うつつの中で小鈴さんにこうべをたれた

第三外科壕


「先生!」

 手術を終えたあと急激に倦怠感に襲われて眠りに落ちていた

 痩せているという表現では表しきれないやつれ方をした少女の動脈は意外に縫合がしやすいくらいしっかりしていて上手く処置が出来た

 感染症を起こさないように綿密に消毒はしたが新型コロナウイルスに感染している身としては通常の感染症よりも気になる事が多いが、何も無い事を願うばかりだ

 そして問題なのは目が覚めた今の現状である

 怪我人で第三外科壕は満杯である

 三密とかいうレベルでは無い

 ただ、医師の俺が寝ている間にどこから湧いたか判らない看護師たちがテキパキと怪我人の治療をこなしている

 的確な上に迅速である

 俺よりもはるかに…

 「先生は熱があるみたいですから奥のベッドで休んでいて下さいね。重傷者が来たら起こしますから」

 『あんたらは、おふくろか?小鈴さんか?』

 どうやら、「先生!」って呼ばれて起こされたのは、『ここで寝ていられたら邪魔!』という事だったみたいだ…

 ここでも役立たずは頭を抱えてベッドに滑り込む


 それからの一週間は熱との闘いだった

 少女の容態は気にはなっていたけれど、関節痛と咳に体力を奪われ立ち上がる事すら難しかった

 しかし、第三外科壕の食事は意外とおいしく、そしてバランスが良かったため乗り切れた

 十日後の夕方には根治し完全に回復していた

 COVID19のウイルスが完全に体内から無くなったという保証は出来ないが手術後の容態が気になり少女の病室へ行く事にした

 なぜか胸がドキドキする

 なぜって事も無いか?

 実のところ負傷したあの少女は小鈴さんに良く似ていたのだ

 彼女の仕事上の都合で、ほぼ1年間逢う事が出来なかった婚約者と、うり二つの少女

 『おっさん…この気持ちはヤバいよ…やめとけ!』

 と、自分を抑えながら病室へ行くと少女が目覚めた

 「先生…ありがとうございました。」

 「いいから、起き上がらずに安静にしていて下さいね」

 起き上がって向き合い礼を言う少女は眩しかったが新型コロナウイルスが完全に消滅しているとも言えないので会釈だけしてその場を立ち去った

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