第3話:勇者をつくろう
辺境にある王都は、パンダリア大陸の北西の端に位置する。
北と西は海に面しており、魔物のいない頃の沿岸部は漁港としての賑わいを見せていた。
王城からも、遠く海が望むことができ、今では人の住まなくなった漁村のなごりがポツポツと見つけられる。
そして東と南は高い山脈に守られており、魔物からの侵攻を防いでくれているかのようだ。
二十年前にこの辺境の地に逃れてからは、どういうわけか魔王軍の侵略は鳴りを潜めている。おかげで、パンダール王国はどうにかその命脈を保てていた。
レイモンド=オルフェンは、宰相の執務室の窓辺に立ち、はるか遠くに見える海を眺めていた。
海の色は暗く、寂しいうねりを繰り返している。
「考え事ですか?オルフェン閣下」
ふいに後ろから聞こえた声にレイモンドは振り返った。
背後には、執務室のドアを開けて中をうかがう少年の姿があった。
「ノックしましたが、返事がなかったものですから……」
そう言って微笑む少年は、宰相補佐官のノウル=フェスだ。
フェスは、王都の臣下の中で最年少の十六歳である。
レイモンドは、自分の補佐官を選ぶ時に、できるだけ年少である事を重視した。気弱な自分の言うことでも聞いてくれそうだ、というのがその理由の一つである。
その期待通り、フェスは忠実で、人当たりが良く、そしてとても頭の回転の速い聡明な少年だった。ついでに言えば、美少年としてもなかなかの評判である。
「ああ。フェスか。うん、入りたまえ」
レイモンドはそう言って、自分に与えられた椅子に腰掛けた。
宰相の椅子ともなると、身体がめり込むほど柔らかく、レイモンドはその感触にまだなじめない。
「例の勇者を探す、という件をお考えだったのですか?」
「勇者の件もだけど、もう一つ気になる事があってね」
「差し支えなければ、お聞かせ願えますか? 何か力になれるかも知れません」
少年補佐官は、まっすぐに言った。微塵の不純物も含まないさわやかな声だ。
「うん。実は昨日、街の酒場へ行ったんだ」
レイモンドはそこで見た、仕事もなく昼間から酒を飲んでいる男達の話をした。
もちろん、キュビィも一緒だったとは言えないので、そこは伏せた。
「彼らは魔物に追われて仕事を失った者達ですね。酒に酔って騒動を起こしたり、犯罪の温床になっているという話を聞きます」
「王国としても頭の痛い問題なんだ。何か解決策はないかと思ってね。」
そういって、レイモンドは顔をなで、大きく息をつく。
「やはり、仕事を与えるのが一番だと思います。そういう話でしたら、商工大臣のヴァート様に相談してみてはいかがですか?」
――商工大臣トッシュ=ヴァート……。
その名を聞いたとたん、レイモンドの顔が微妙に曇った。
フェスは敏感に察知したのか、不安な顔になった。
「あの、何か気に障る事でも申し上げましたか?」
あわてて、レイモンドは手を振る。
「いやいや、違うんだ。彼とはあまり面識がないものだから」
レイモンドはとぼけたが、実はヴァートとは昔からの顔見知りである。
パンダール王国には、貴族や城で働く者の子弟が通う王立学校があるのだが、レイモンドとヴァートは、そこでクラスメートだった事がある。
つまりは良く知った仲なのだ。
しかし、それでもレイモンドがヴァートを敬遠するのには理由がある。
ヴァートの父親は先代の宰相だったのである。
パンダールの慣習どおりならば、本来、宰相はヴァートがなるはずだった。
ところが、キュビィの気まぐれでレイモンドが宰相になったばっかりに、ヴァートは一段下の役職になってしまったのである。なお、先代の商工大臣には男子がなかったので、たまたま空いたポストにヴァートが収まっていた。
「何となく、会いにくいんだよな」
「でも、それでは、問題は解決しませんよ」
――ぐ……、確かにそうなんだ。
フェスの正論に、レイモンドは言葉を返せない。
「しょうがない。会ってみるか。」
レイモンドは息をつくと、フェスの屈託のない笑顔に見送られ、執務室を後にした。
実はレイモンドがヴァートに会いたくない理由は、宰相の座の問題だけではない。
ヴァートの嫌味な物腰も苦手だった。
「これは、宰相閣下。わざわざ足をお運び頂き、ありがとうございます」
「よしてくれよ、トッシュ」
「いえいえ、こんなむさ苦しい商工大臣の部屋にお越し頂けるとは、恐縮の極みにございます」
ヴァートはいんぎんに挨拶をした。
しかし、その顔に笑顔はない。いや、笑顔だが、目が笑っていないのだ。あくまで儀礼的なものだ、という前提が嫌でも見て取れた。
「で、用はなんだ?」
コロッとヴァートの態度が変わって素に戻る。
ふざけてやっているように見えるが、本人はいたって普通なのだろう。彼は学生時代からそうだった。
「うん。ちょっと相談があるんだ」
そう言ってレイモンドは勧められた椅子に腰を落とした。
「ふむ。内容による」
ヴァートはレイモンドと同じ二十五歳だが、特徴のない童顔のレイモンドと比べると、見た目はヴァートの方が年長に見える。かと言って老けている訳ではなく、彫りの深い端正な顔立ちと、落ち着いた雰囲気が彼をそう見せていた。
「実は……」
レイモンドは同い年の商工大臣に、酒場での一件を話した。
ヴァートは目を閉じて聞いている。
「何か、彼らに斡旋できる仕事はないものだろうか?」
「無理だな。」
間を空けず、ヴァートは冷たく言い切った。
あまりの突き放し方に、レイモンドは絶句する。
「え?」
「考えたらわかるだろう。そもそも、なぜ彼らに仕事がないのだ?」
「それは、魔物のせいだ。魔物に職場を追われたのが原因だ」
それを聞くと、ヴァートは冷ややかに笑った。
「その通り。畑になる野も、木を切る森も、魚を取る海も、すべて魔物の住みかとなった。もう人間のものではない」
レイモンドはため息をついた。もう次に言う言葉は分かっている。
「つまり、魔物をどうにかしなければ、彼らの仕事はない、という事だな?」
「そういう事だ。せいぜい勇者様探しを頑張る事だな。」
ヴァートはそう言うとまた嫌味な笑いをした。
やっぱりこの男は好きになれない。
宰相であるレイモンドには、彼を商工大臣の職から解くように女王に願い出るだけの権限がある。
ヴァートがこれだけ高飛車な態度をとるのは、レイモンドに含むところがあるのか、あるいは見くびっているのか。どちらにしても、レイモンドにとっては、そんな事を考えるだけで面倒だった。
「そうか。忙しいところを、邪魔したな」
レイモンドはできる限り平静にそう言って商工大臣の部屋を出た。
レイモンドが次に向かった先は、軍務大臣グゼット=オーアの部屋だった。
もう一つの懸案事項、勇者を探す、という件について意見を聞きたかった。
「よう、レイか。どうした?」
オーアは三十歳の筋骨たくましい青年だ。腕の太さは、痩身のレイモンドの太もも程もある。短く刈り込んだ銀色の髪が、その快活さをより印象深いものにしている。
レイモンドとは幼馴染で、大臣の中でも、特に親しい。
レイモンドは挨拶をすると、勇者が見つからなくて困っている事を打ち明けた。
「誰も名乗り出ないのでは、前に進みません。何か集めるための良い方法はありませんか?」
そうは言ってもなあ、とオーアは天井を仰いだ。
「王都の衛兵を集めるのなら簡単だが、いかんせん魔王を倒す、というのはあまりにも壁が高すぎるからな。」
――やはり問題はそこか……。
酒場の男達もそう言っていた事がレイモンドの頭に浮かんだ。
「さりとて、魔王討伐の兵士を送り込む、と言っても、今は王都の防衛をする兵士を雇うだけで精一杯だ」
「ずっと兵隊を雇うとなると金が掛かりますからね」
レイモンドはため息混じりに言った。
「ずっと兵隊を雇う……?」
オーアがピクリと反応した。
「そうか、常備軍か」
「どうかなさいましたか?」
「うむ。常備軍がだめならば、傭兵はどうだろうか」
「傭兵……って何ですか?あと常備軍って?」
長い平和が続いていたパンダール王国には傭兵という概念がない。レイモンドが知らないのも無理はない話である。傭兵がないのだから、城にいる兵は常備軍だ、という区別もされなかった。
「傭兵は、戦争になった時に雇う兵士の事だ。パンダールより古い時代にはあったらしい」
「なるほど。では常備軍とは、今の兵隊のように、ずっと雇われている兵士の事ですね?」
「まあ、そんな所だ。もし傭兵を使えるならば、資金は少なくて済む」
「でも、そんな金だけで雇われた者がちゃんと戦ってくれるんでしょうかね? ましてや相手は魔物ですよ」
レイモンドがそう言うと、オーアはむう、と呻って腕組みをした。
「正直、分からん。なんせ、はるか昔の文献に出てくるだけだからな。それにそんな頃には魔物なんていなかったろうしな」
「確かにそうですね」
レイモンドは肩をすくめた。
「それに……」
と言って、オーアは難しい顔をした。
「昔から思っているんだが、どうして魔物たちは、この最後の王都を攻めて来ないんだと思う? その気になれば、いつでも攻め取れるはずだ」
確かにそれはレイモンドにも長年の疑問だった。
その理由として考えられている一般的な説は、この辺境の王都に移ってから王国が専守防衛を心がけてきたからだ、というものだった。魔王は、王国に反攻の意思が無いものと見て、攻めて来ないのだ、という主張である。
レイモンドは、あまりにも都合が良すぎる解釈に思えるため、この説をあまり支持していない。
オーアもうなずいた。
「オレも納得できん。だが、もしその説が本当だったとしたら、表立って兵を出すのは危険な気もする」
「反撃の意思あり、と見れば、魔物がこの王都になだれ込んでくるかも知れない、という訳ですか」
レイモンドには、魔王がどんなつもりなのか想像もできないが、軽々しく兵を動かすのは、確かにリスクはある。
「今までも反撃の兵を起こそうという議論はあったが、王都を危険に晒す、という意見に押されて頓挫したままだ」
もちろんそれ以外にも、費用の問題など、諸々の事情がある。
キュビィは先王は何もしなかった、と罵ったが、恐らく先王は先王でそれなりの理由があったのだろう。
「ま、だからオレは、あのお嬢さんの『勇者探し』はなかなか大胆で、面白いと思ってる」
「そうなんですか?」
レイモンドは驚いた。あの勇者探しに支持者がいたとはあまりに意外だった。
「王国の表立った反撃とは見せずに、魔王を討つ。なかなか考えられているよ」
オーアは愉快そうに笑った。
もちろん、キュビィはそこまで考えているはずもないが、楽しそうなオーアを見て、レイモンドは苦笑する。
「笑い事じゃありませんよ。毎日追求される身にもなって下さい」
オーアはさらに豪快に、がははと笑った。
「お前は相当やられてるらしいな。しかし、それだけ頼られている、ってのも宰相冥利に尽きるじゃないか」
レイモンドの頭に、子猫のようにすがる、か細くいたいけな少女の姿が思い起こされた。
――レイ。わらわを一人にするな。お前までいなくなったら、わらわは……。
――頼りにしておるぞ。……レイ。
レイモンドの脳裏に、少女のはかなげな声がこだまする。
痛々しいほどの決意を含んだ声。
――魔王を倒す事は避けては通れんのだ。わらわはその運命を受け入れると決めた。
13歳の女王の悲痛な決心は、レイモンドの胸をまたやわらかく締め付ける。
無意識のうちにレイモンドは真顔になっていた。キュビィに対する忠誠心というのか、妹に抱く愛情というのか。そうした思いが心に広がっていった。
「ええ。陛下にご信頼いただいているのは、嬉しい限りですよ」
はにかむように言うレイモンドの顔つきを見て、オーアはまた大声で笑った。
「お帰りなさい、オルフェン閣下…………」
宰相の補佐官であるフェス少年は、最後まで言い終わらないうちに、静かに執務室を退出した。
レイモンドの表情から、考え事に夢中になっているという事を読み取り、邪魔にならぬよう気を回したのだった。
レイモンドの頭にはいくつか引っ掛かっている事があった。
無意識のうちにドスっと椅子に腰を落とし、ブツブツとつぶやく。
酒場、魔物、仕事、傭兵、専守防衛、勇者……。
色々な鍵となりそうな言葉が頭に浮かんでは消え、そして繋がったかと思えば、また消えた。
――何か思いつけそうだ……。何だろう……。
ぼんやりと見える『何か』の、輪郭のはっきりしない形を探る。
浮かんでくる言葉も、関係があるものなのか、無いものなのか判然としない。さながら、粉々に割れた壺を、破片を組み合わせて元に戻そうとするような、歯がゆい感覚。
夜更けまで執務室で唸っていたレイモンドは、やがて紙を取り出すと、何事かペンを走らせた。
その翌朝。
レイモンドはめずらしく、キュビィに呼び出される前に女王の部屋にやってきた。
「失礼します」
レイモンドが中に入ると、キュビィは本を読んでいた。それはレイモンドが読んでおくようにと渡してあった『パンダール王国史』だった。
キュビィは部屋に入ってきたレイモンドを見ず、そのまま本のページをめくった。
「陛下、例の勇者を探す、という件ですが……」
レイモンドの言葉にも、キュビィは顔色を変えずに、本に目を走らせている。元々本嫌いの彼女にしては、あまり見られない光景だ。
「ああ……。どうせまだ勇者は来ないんだろう?」
キュビィはまるで興味がないかのようにつぶやいた。
この前まで、あれ程うるさく追求してきた事を考えたら、またしても突然の変心である。レイモンドはそんな彼女のそぶりから、何を考えているのかが、何となく思い当たった。
――ははあ、あまりに勇者が来ないから、すねているな……。
恐らく、おとといの酒場での一件も堪えているのだろう。普段は傲慢なキュビィでも、直接批判を聞くのは苦痛であったに違いない。
要するに、彼女にしては珍しく落ち込んでいるのだ。
それを見透かされぬよう、無理に無関心を装っているのだろう、とレイモンドは見当をつけた。それに気づいてしまうと、もう少しそんなキュビィの姿を見ていたい、という意地悪な心も湧いてきて、思わず顔がにやける。
「何だ?何が言いたい」
ニヤニヤしているレイモンドに気づいたと見え、キュビィはようやく本を置いて、レイモンドを見た。彼女の愛らしい瞳は、レイモンドの心を見抜くかのように、鋭く光っている。
まずい、とレイモンドは慌てて顔を引き締め、本題を切り出す。
「陛下、その件についてなのですが、少々気づいた事がありまして」
キュビィは、ふむ、とさして期待していない様子で話の続きを促した。
「今までは勇者が現れるのを待っていましたが、待っているより、我々でつくってみませんか?」
「勇者をつくる?」
キュビィは要領を得ない、という表情だ。
レイモンドはそんなキュビィを見て、コホン、と咳払いをして、話を続けた。
うまく理解してもらえるように、順序だてて話さねばならない。
「あの立て札で募集しても誰も名乗り出ません。つまり、いきなり魔王を倒せる者など、この大陸中探してもいない。……まあ、少なくとも王都にはいない、という事でしょう」
キュビィは少しムッとした顔になった。
しかし、レイモンドはめげずに勇気を出して話を続けた。
「ですから、我々の手で勇者を育て、つくり上げるのです」
「しかし、どうやって育てるというのだ?」
キュビィのまなざしはいつしか真剣なものになっていた。その真摯な目が、レイモンドの話の続きを待っている。
「はい。そこで考えたのが、賞金つきの仕事を用意する、という事です。この仕事は例えば、王都付近の魔物を退治する、というような内容です」
そこまで聞いて、キュビィの表情が少し和らいだものになった。何となく話の筋が見えてきたのだろう。
うん、と頷いて、レイモンドの話を促す。
「陛下は、あの酒場で見た者たちを覚えておいでですよね?」
「ああ、忘れもせぬ! まったく、わらわに対して、あのような言い草……」
勘弁ならぬ! と『思い出し怒り』をした。相当根に持っているようだ。
レイモンドはまあまあ、となだめる。
「あの者どもは、仕事もなく、暇でプラプラとしています。中には仕事をなくした猟師などもいたりして、もともと荒っぽい者が多く、力仕事には向いています」
「……まあ、確かにそんな感じだったな」
キュビィはうなずきながらも、相変わらず苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「彼らはかならず、魔物退治の仕事にのってきます。あのままでは王国にとって不利益しか生み出しませんが、仕事をしてくれれば、あれ程心強い者はおりません」
なるほど、とキュビィは言った。
レイモンドはなおも続ける。
「そして、彼らに与える仕事内容も、難しくなればなるほど、賞金が高くなります。最初は簡単な仕事でも苦労するでしょうが、慣れるにしたがって難しいものもこなせる様になるでしょう。」
「そうして、勇者としての実力をつけさせるのだな?」
待ちきれずにキュビィがその先を言う。
なかなか鋭い子だ、とレイモンドは感心する。
「さすがは陛下。その通りです。そして、ゆくゆくは、占領されてしまった大陸各地の城や砦を奪い返す、という仕事までもこなせるようにして……」
「魔王をブッ倒すのだな!!」
キュビィは机をバンッと勢い良く叩いた。
その音にレイモンドはビクっと驚くが、キュビィの顔は勇者マリーンの物語を聞く時のように目を輝かせている。遠く、頼もしい勇者たちの姿を想像しているのかも知れない。
思わずレイモンドは拳を握り締めた。
「そうです! ブッ倒すのです!!」
いつもは言葉使いを注意するレイモンドも、この時ばかりはキュビィに同調した。正直なところ、魔王を倒すのがいつになるかは分からないが、嬉しそうなキュビィに水を差す事もない。
「レイモンド!」
言うが早いか、キュビィは座っていた椅子の上に立つと、机の上を飛び越して、レイモンドに抱きついた。
「わっ! 陛下!!」
突然の女王の襲撃に、身体を支え切れなくなったレイモンドはそのまま後ろへ倒れる。
目の前には、キュビィの愛くるしい笑顔があった。情けないが、レイモンドはキュビィの小さな身体に押し倒された格好になった。
「イタタ……、ちょ、ちょっと……。陛下……」
レイモンドはうろたえながらも、身を起こそうとすると、キュビィはさらに強くレイモンドの胸に抱きついた。
「陛下……」
胸にかかる柔らかい圧力と、少女の甘い匂いが、とたんにレイモンドを息苦しくさせた。
十三歳の小さな身体が、レイモンドの腕の中にすっぽりと収まっている。
「レイ……。わらわは王国を立て直すぞ。わらわと共に、勇者をつくろう」
キュビィの嬉しそうに弾んだささやき声が、レイモンドの耳にかかる。
「は、はい。陛下」
レイモンドは答えながら、しかし妙な鼓動の高鳴りを感じて、慌ててキュビィの身体を引き離した。
「さ、早速、大臣達と実行に移ります!」
真っ赤になったレイモンドは、キョトンとするキュビィを残し、逃げる様に部屋を出ていった。