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第15話:砦の戦い その2

 

 第三部隊を率いるマスター・シバは、砦へと到達した。

 さほど大きな砦という訳ではない。だが、崖のように切り立った峡谷を塞ぐように鎮座し、厚い城壁と、固く閉ざされた扉に守られていて、見るからに堅牢である。


「さて。砦からの抵抗がなければ良いがな」


 シバは、直ちに配下の兵に扉への攻撃を命じた。

 30人がかりで運んできた大きな丸太で、鉄扉を突き破ろうというのである。古典的ではあるが、これがもっとも効果的と思われた。


「さあ、突き破れ!」


 シバが号令をかけると、兵士たちは丸太を砦の扉へと叩きつけた。

 ドーン、ドーンという轟音が、両側の峡谷に反響して、思わず耳を塞ぎたくなるほどに増幅される。

 シバの掛け声にあわせ、兵士たちは幾度も丸太を叩き込むが、頑丈な扉はビクともしない。

 

「まだまだだ! 必ず扉は開く! 力を振り絞れい!」


 シバは丸太が叩きつけられる音にも負けないくらいに、声を張り上げた。


 その時である。

 城壁に影が現れたかと思うと、次から次へと、魔物たちが兵士の頭上へと降って来た。

 またしても黒い狼である。

 兵士たちは突然の攻撃に肝を潰した。地面に降り立った狼に食いつかれる者もいれば、落ちてくる狼が頭に直撃する者もいた。

 すかさずシバは兵士に指示を飛ばす。


「扉への攻撃の手は緩めるな! 丸太を持たないものは、魔物と戦え!」


 シバはそう叫ぶと、両手の剣を抜き、手当たり次第に、黒狼をメッタ斬りにした。たちまち、辺りが魔物の血に染まる。

 丸太を一度に担げるのは、せいぜい30人ほどである。狼に包囲されながらも、彼らは必死で、扉の攻撃を続行した。

 そして、丸太を持たない兵士たちは、扉へ攻撃をしている仲間を、狼の牙から守りながら、懸命に戦った。


 丸太を持つ兵も、味方の守りを抜け出した狼に喰い付かれて、倒れる者が出てくる。その空いた丸太の場所に、また違う兵士が加わり、必死で扉への攻撃を維持した。

 一瞬にして、砦周辺は、攻守入り乱れる、凄惨な戦場へと変貌したのである。

 シバは悪鬼のごとく、その凄まじい剣を振るって魔物をなぎ倒していく。兵士はそのシバの姿に勢いづけられ、奮戦を見せるも、扉への攻撃と同時に狼と戦わなければならないため、苦戦を余儀なくされた。

 降り注ぐ狼の数も多く、視界が黒色に占められていく。


「ジイさん!」


 そこへ、伏兵を片付けたグレイとククリが追いついてきた。

 二人は部隊の苦戦を見るや、剣を抜いて混戦に飛び込んだ。


「小僧ども! 遅いぞ!」


 シバは二人の姿に気付き、ニヤリと笑った。


「せっかく急いできたのに、そりゃあ無いぜ! オレたち二人だけに伏兵を押し付けやがって!」


 グレイはウジャウジャと降りかかってくる狼を切り伏せながら、言い返す。

 一方のククリは、立て続けとなる狼との戦いに、不満顔である。


「またコイツらかよ。一体何匹殺りゃあいいだよ!」


 戦場での緊張感に欠ける二人ではあるが、さすがに腕は確かである。たちまちに周囲を狼の骸で埋め尽くし、敵の勢いを押し返し始めた。

 この時を幸いと、シバは兵士を鼓舞する。


「狼共はワシらが抑える! 総力で扉をこじ開けろ!」


 その声に応えるかのように、ついに丸太の衝撃に耐えられなくなった扉は、地響きを立てて倒れた。

 たちまち、兵士たちから、歓声が沸き起こる。


「これだけの数の魔物を吐き出したのだ、砦の中は手薄なはず。小僧共、大将の首を獲らせてやる。ここはワシらに任せて、突入しろ!」


「了解!!」


 シバの声に弾かれるように、グレイとククリは数名の兵と共に、砦の中へと消えていった。




 全軍の後方に控える第三部隊。

 その眼前では、グゼット=オーアの第一部隊が狼の群れの掃討戦に入っていた。


 第三部隊は、緒戦を戦うオーアの部隊の支援に入るため、すぐ後方に移動していた。そのため、キュビィやレイモンドからでも、オーアらと狼の壮絶な戦いの様が、つぶさに見える。

 狼の血が、肉が、吹き飛ぶ。狼の牙とツメに、兵士が力尽きる事もあった。

 男のレイモンドにさえ、直視は憚られるだけに、少女には酷な光景である。だが、気丈にも、キュビィは兵士と魔物の命が次々に失われている様から目を逸らさない。

 レイモンドが、心配して声をかけると、キュビィは強張った笑顔を返す。


「わらわは、女王だからな。皆が命を賭けて戦ってくれる様子をちゃんと見ておかなければならない、と思うのだ」


 と、ハッキリした口調である。

 そんなキュビィに、レイモンドは優しい声をかける。


「陛下のそのお心は、きっと兵に届きましょう」


 第三部隊が眺める中。

 キュビィの思いが届いたのか、次第にオーアの部隊の一方的な展開になった。

 もとより、指揮官を失った狼の群れは、戦意を失っていた。数で劣る第一部隊だが、粘り強く奮戦を続けるうちに、狼は野を逃げ惑うようになり、それを兵士たちが追いかけて狩る、というような形勢となったのである。


「どうやらオーアの部隊は大丈夫のようだな」


 女王キュビィは、ようやく戦場の雰囲気に慣れてきたのか、幾分穏やかな表情で横のレイモンドに話しかけた。

 レイモンドも微笑みながら、うなずく。


「少しハラハラさせられましたが、さすがはオーア殿です。敵の殲滅も時間の問題ですね」


 どうやら、第一部隊の支援に、キュビィら第三部隊の兵を出す事は無さそうである。


 後は……と、レイモンドは考えをめぐらす。

 後方支援が役割である第三部隊。

 次は、砦を攻めているシバの部隊を援護する必要がある。しかし、キュビィを戦場深くまで連れて行くのは、あまりにも危険が大きい。

 ならば……と、レイモンドは傍らの黒鎧の剣士の方をチラリと見た。


「フラム、別動隊を率いて、砦のシバ師範の所へ援護に行けるか?」


 レイモンドに言われた瞬間、フラム=ボアンはキョトンとした顔をしたが、すぐに笑顔を作る。


「はい。ご命令とあれば、すぐにでも」


 よし、と頷いたレイモンドは、今度はキュビィの方へ向き直る。

 キュビィはレイモンドの言葉を待たなかった。


「許す。兵50を預ける」


 第三部隊は100名なので、その半数をフラムに託す事になる。だが、そのくらいの人数がいなくては、砦を攻める助けにはならないだろう。

 レイモンドも、賛成する。


「かしこまりました。では!」


 フラムはそう言うと、部隊の志願者50名を引き連れて風のように走り去った。

 キュビィはその姿を見送ると、フウ、とため息をついた。


「あの者たちの中にも、戦死者がでるのだな……」


 横にいるレイモンドにしか聞こえない、小さな声である。

 発言の内容に、慌ててキュビィの顔色を窺うレイモンドだが、すぐにフラムの後姿に視線を戻した。

 レイモンドの心配は必要なかった。

 キュビィの顔は、昨夜のような弱々しいものではなく、覚悟を決めた女王の顔だったのである。



 第一部隊が戦っている狼の群れは、既にまばらになっている。

 フラム率いる別動隊50人は、その群れを迂回することなく、狼の間を突っ切るように進路を取り、最短距離で橋へ向かった。


 途中、フラムは見知った顔を見た。


「オーア様!」


 フラムは足を止めること無く、遠くから大声で呼ばわった。その声にオーアもすぐに気付く。


「フラム=ボアン! どこへ行く!?」


 オーアは小さく笑みを見せる。肩には白い布が巻かれ、それが血で赤く染まっていた。それでも、話しかけながら、目の前の魔物を一刀の元に斬り捨てている。

 フラムは、オーアの負傷した肩に驚いたが、その戦いぶりからそこまでの深手ではないようだと分かり、ホッとした。


「砦の援護に向かいます!」


「ならば、第一部隊こっちから、元気なヤツを貸すぞ!一緒に連れて行け!」


 オーアは横でオノを振るっているロック=パタを呼んだ。

 パタはジロリとフラムを見ると、無言のまま、フラムの別動隊に向かって走り、合流した。


「オーア様、ご武運を!」


 フラムはオーアにそう言い残し、第一部隊の戦線を抜けていった。




 こちらは砦の中。

 グレイとククリは内部に侵入していた。

 途中、思い出したように、黒い狼が飛び出してきたりするが、その数は決して多くなく、たちまちに、剣の錆となった。


「ジイさんが言ったとおり、中は手薄なようだな」


 ククリが敵の気配を嗅ぎ取ろうとするかのように、鼻をクンクンと鳴らしながら言う。辺りは薄暗く、カビと獣の臭いが充満しており、例えようの無い嫌な臭いである。

 内部は入り組んだ作りで、あちこちに通路や階段が延び、外観から受ける印象よりも、随分と広く感じる。

 方々を探索して、彼らはようやく中央付近にある階段を見つけた。


「おそらく、これが最上階に続く階段のはずだ」


 長いらせん状の階段を登っていく。魔物の影を警戒するが、そのような気配はなかった。

 階段を上りきると、ついに、グレイとククリたちは最上階へと出た。


 狭い通路から一気に視界が開ける。

 最上階は広間になっており、砦の外を、一望に見渡せるようになっている。そのため、薄暗かった通路から一変して、随分と明るい。

 そんな石造りの空間に、逆光気味に、一つの影が浮かび上がった。


「人間風情が、ここまで来るとはな……」


 思いがけない声に、一同は驚きの声を上げる。


「誰だ!」


「ククク、愚問だな。お前達は、俺様を捜しに来たんじゃあないのか?」


 ボスだ。

 グレイたちの神経が一気に張り詰めた。

 その影の主は、グレイの倍はあろうかという巨大な身体、そして手にはその身体に相応しいだけの剣。そしてその姿は二本足で立つ人狼である。

 見た事も無い魔物の姿に、グレイとククリたちは驚愕する。

 何より、人語を操る魔物というのは、やはり衝撃的であった。


「しゃべる……魔物だと……?」


 その言葉に、魔物は笑っているようだった。笑顔を作っているわけではないが、声の調子から、グレイはそう読み取った。


「高い知能を持っているのが人間だけだと思うなよ。それこそが、お前達の思い上がりなのだ」


 そう言うと狼男はゆっくりとグレイたちに近づいてきた。

 手に持っている大きな剣は、片刃で三日月のように大きく湾曲した作りになっている。その剣を鞘から抜くと、両手に構えた。


「お前ら人間がここまで攻め込んでくるとは、正直意外だった。だが、俺もこの砦を預かる身。そうやすやすとは、首は獲らせん」


 狼男は、そう言うが早いか、どすどすと床を揺らして、グレイたちへと駆け出した。動きはそう速くはない。

 グレイとククリ、そして兵達も、敵の大将首目掛けて、走り出した。


 影が交錯した。

 ぶん、と、剣が風を切る音が、太い。

 

 その音は、狼男が間合いに入った者に対して、剣を振り抜いた音である。しかし、その音は、狼男の剣を頭上に避けたグレイとククリの二人だけにしか聞こえなかった。

 他の兵は、狼男の一刀の元に、上半身と下半身を切り離されていた。

 血しぶきが派手に舞う。


 狼男の背後へと、転げるように抜けたグレイとククリは、顔色を青ざめたものに変えていた。


「な、なんつう振りだ。……俺たち以外、たった一太刀で……」


 ククリは、無残な姿で倒れている仲間を見た。思わず目をそむけたくなる、凄惨な状況だ。

 そして、同時に、狼男は両膝を折り、床に手を付いた。遠吠えのような悲鳴が広間に響いく。

 グレイとククリにしても、ただ狼男の大剣を避けたわけでは無かった。かわしながら、狼男の両脚を、深く斬りつけていたのである。 


「おのれ、小癪な人間どもめ……」


 狼男の目が鋭く光る。狼男は両腿に深手を負わされた事で、怒りに震えている。


「てめえこそ、よくも皆を!」


 ククリが歯を剥いて吼える。だが、狼男は吐き捨てるように言う。


「フン、愚かな人間が言いそうな事だな。貴様らも、ここまでに我らの同胞を殺してきただろう。戦いにおいて、そのような問答自体に意味がない」


 再び狼男が剣を構えた。返り血を、舌でぺろりと舐めた。


「くるぞ……!」


 グレイとククリも、体勢を低くし、備える。


 グオオオ!!


 咆哮と共に、狼男が切りかかってきた。足を斬られて、速度は無いが、迫り来る巨大な身体は、凄まじい重圧である。

 狼男は、上段からまっすぐに斬り下げた。それを、グレイとククリは横とびにヒラリとかわす。

 魔物に隙が出来た。

 いまだ! とばかりに二人は反撃に出ようと、魔物の首目掛けて、飛び掛った。だが、横殴りに、強烈な一撃が襲い掛かる。


「しまった!」


 凄まじい衝撃と、バリバリという音。

 グレイとククリは、胸元を狼男の爪に切り裂かれ、真横に吹き飛ばされた。

 二人は狼男の武器が剣だけだと思い、それ避けた時点で油断してしまっていた。敵の手には、鋭いツメもあるのだ。そのツメの一撃に吹き飛ばされ、二人はしたたかに壁に叩きつけられた。

 二人の胸元には、鋭いツメによる深い傷が刻まれている。が、共に胴当てのお陰で、どうにか致命傷は避けられている。


「うう……、油断した。ククリ、大丈夫か?」


 グレイは這いずりながら、ククリの様子を気にかける。

 ククリも、苦しそうに喘いでいる。


「だ、大丈夫だ……けど、動けない……」


 ツメによる傷は大したことは無い。が、壁に叩きつけられた衝撃で、床に転がったまま身動きが出来ない。

 ダメージが回復する間もなく、狼男が次の攻撃の構えに入るのが見えた。

 グレイも、ククリも慌てて立ち上がろうとするが、足がおぼつかない。

 その様子に、狼男はぐるぐると喉を鳴らして喜んでいるようだ。


「いい姿だな……さあ、息の根を止めてやる」


 狼男が顔の横に剣を構える。


 だが、その時。


 ドス、と鈍い音がした。

 見れば、狼男の胸に、長い棒状の物が突き立っている。狼男は、そのまま、大きな音を立てて、仰向けに倒れた。


「グレイ! ククリ!」


 入り口で、聞き覚えのある声が、グレイとククリを呼んだ。

 二人は、部屋の入り口を見た。そこには、大槍と、手槍を両手に持つ若い男の姿があった。


「ヒュー!」


 グレイとククリの目に飛び込んできたのは、ヒュー=パイクの姿であった。隣には黒い鎧の剣士の姿も見える。


「あれは……フラム=ボアン。第三部隊の援軍か!」


 合同訓練所でのフラムの剣の冴えを、グレイも良く知っている。

 さらには、フラムの背後に、ロック=パタや、他の冒険者の姿もあった。


「無様なカッコしやがって」


 ヒューはそう言って、グレイとククリに駆け寄ると、肩を貸し、二人を安全な広間の端へと運んだ。すまない、とグレイは珍しく素直に謝意を伝える。

 その間に、狼男はむっくりと起き上がると、胸に突き刺さった手槍を、乱暴に引き抜いた。


「ザコどもが調子に乗りおって……!」


 狼男は、胸と口から血を吹き出しながら、怒りに身体を震わせていた。どうやら、胸への一撃は致命傷にはならなかったようだ。驚異的な生命力である。


「二人とも、良くやってくれた。後は任せろ」


 フラムら援軍は、各々の得物を構えたまま、広間の中ほどまで広がり、狼男を包囲するように位置を取る。


「き、気をつけろ。コイツの攻撃は剣だけじゃないぞ……」


 ぐったりと壁にもたれるククリが、そう助言する。

 ヒューは、ああ、とうなずいた。


 次の瞬間、狼男へ向かって、巨体が突進した。

 ロック=パタである。

 ふん、という声と共に、パタの両手のオノが頭上から狼男へ振り下ろされた。

 ガン、と大きな音を立て、狼男が剣で受け止める。互いの筋肉が躍動し、ギリギリと鍔迫り合いの格好となった。


「はっ!」


 すかさず、フラムが黒い疾風となって狼男に向かって斬りかかる。剣を振り抜き、横をすり抜けたかと思うと、狼男の剣を持つ右腕がぽーんと真上に飛んだ。

 そして、次の瞬間、抵抗を失ったパタのオノが、狼男の両肩に突き刺さった。そのままパタは真下に斬り下げる。

 凄まじい勢いで、狼男は血が吹き出した。たまらず魔物が叫ぶ。


「ぐあああ!!」


「やった!」


 グレイとククリは歓声を上げる。

 狼男は全身から血を吹き出しながら、床を揺らして頭から前のめりに倒れた。

 魔物から流れ出る血が、池のように床に広がっていく。

 しばらくは、苦しむように身体をよじっていた狼男だが、やがて事切れたように、ピクリともしなくなった。


 ロック=パタは、ふう、と息をつくと、その場に、ドンと座り込んだ。魔物との撃ち合いにも力負けしない、恐ろしいまでの怪力に、フラムは思わず苦笑がこみ上げる。


「大した怪力だな。まさか、魔物とまともに力勝負できるとは思わなかったよ」


「いや。そのバケモノは、足に力が入らなかったようだ」


 パタは、短くそう答える。暗に、先に足を斬りつけていたグレイと、ククリの手柄だ、とほのめかしているのだ。

 フラムは、頷き、サーベルを腰の鞘に収めると、部屋の端に寄りかかっている、グレイとククリへ声をかける。


「ロック=パタの言うとおりだ。キミ達がヤツの両足を斬っていてくれたお陰だよ。これはキミ達の功績だ」


 フラムはニッコリと笑った。その恐ろしいまでの剣からは想像できない、何とも清清しい笑顔である。

 ロック=パタも、無言で頷いてフラムに同意する。


「へへ、結局最後はいいトコ持ってかれたけどな」


 ようやく叩きつけられたダメージから回復したグレイとククリは、そう言いながら、ヒュー=パイクに肩を借りて立ち上がった。


「さあ。下で戦ってる奴に、ボスを倒した事を知らせてやろうぜ」


 ヒューは、ニヤリと笑ってそう言うと、二人を窓まで連れて行った。

 広間の窓からは、砦の外の様子が、ぐるりと見渡せるようになっている。下では、まだシバ達が、狼の群れと戦っている最中であった。

 グレイとククリは勝利を伝えるため、大声を振り絞った。


「魔物のボスは討ち取った! オレたちの勝ちだ! 勝ったんだ!」


 わあ、と眼下から、戦闘中ながら、仲間の歓喜の声が響く。シバが手を振っているのが見えた。

 こういうのも悪くないな、とグレイとククリは顔を見合わせて、白い歯を見せた。


 しかし喜びに包まれる中。二人は気付かなかった。

 その時、背後で、血に染まった肉塊が動いた事を。


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