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あるお店ができるまで

作者: 地印 油字
掲載日:2019/08/13

作中の登場人物、お店は作者の脳内設定であり実在しません。

全国のスズキさまとヤマダさまに悪意は一切ありません。

もちろんスーパーマーケットにも悪意はありません、ってかスーパー好きです。

休日の夕方。とくに予定もなかったので僕は汗をかいた後、散歩がてらにいつもより少しだけ遠回りをして帰り、その道すがら大手販売会社のフランチャイズであろう小さなスーパーマーケットに立ち寄った。


家に帰ってから料理をするのも面倒だったので、食べたいと思える惣菜や変わったお菓子などはないかと商品を手にもって確認しながら店内を見て回る。しかしこれといったものもなく、結局は発泡酒を二本だけ買って店を出た。


ここで事件が起きた。


「すいません、お兄さん」と後ろから声をかけられ肩を強く捕まれた。肩に痛みを感じるほどだったので驚き、振り向くといま出たスーパーの制服を着た20代前半くらいの女性が鋭い目で僕を見ていた。


僕が振り向いたためかすでに肩は掴んでおらず、服を掴んで手を捻り決して離すまいと考えているとうかがえる。服は確実に伸びているであろう。


「なにか?」


服を意識してしまい怒鳴りそうになるがまずは用件を聞くことにした。


「鞄の中を見せてください」


は? そこで初めて万引きを疑われてると自覚した。と同時に押さえていた感情が一気に噴き出す。


「嫌です。離してください」


万引きをしていないことは当人である僕が把握している。なぜこのようなところで汗が染み込んだ運動着を出さなくてはいけないのか。


「やっぱり! 取ったんですね、逃がしません!!」


そういうと強く引き寄せて叫ぶ。


「誰か! 誰かーー!! 万引きです!! てんちょーーーー!!!!」


はあ? このバカ女はこちらが表面上はきちんと対応しているにも関わらず強行策に出やがった。周りには多くの人がいて何事かとうかがっている視線を感じる。いや、もう僕のことを万引き犯だと確信しているような目だ。正義感のある考えなしがこちらに寄ってくるのも横目に見える。ああ、周りはすべて敵対するのですか。それならば丁寧に対応する理由はありません。


僕は息を吸うと

「誰が万引き犯じゃボケコラ! 離さんかい!!!!」


捕まれているのはそのままに、服を伸ばしているバカに恫喝する。

バカが萎縮したので、服を張りバカの手を離させる。バカの胸には「売り場 スズキ」と書いてある。


「さっきから大人しく話を聞いておれば、調子に乗って喋りおって何様じゃワレコラ!」


バカは呆然としている。こちらの気が弱いと思い込み、反撃を予想してなかったんだろう。


「そんなに疑うなら全部見てみろ! お前んとこで売ってるもんがあるか? ああ!?」


そう言って自らの鞄の口を開けひっくり返し、中のものを全て出す。衣類を入れた袋が落ちたのでそれを拾い、中を全て出し地面に叩きつける。スマホだけは手に持ち、ポケットに入れていた財布などの小物も全て道にぶちまける。


バカは震えて道に座り込み、こちらの行動を見ている。何かが目に入ると小さく指で示す。


「そ、それ。うちで売ってる」


細い震えた声で主張したのは制汗シートだった。一週間ほど前に駅近くの別のスーパーマーケットで買ったものだ。なので。

「お前んとこはこんな無くなりかけの汗拭き売ってんのか!! 売られてたときの外袋はどこや!!」


「わ、わからない」


「とっくにゴミに出しとうわ!! これだけのことになっとるねんから、ちょっと考えてモノ言わんかい! 嘗めとんのか!!」


「嘗めてない、絶対に盗んだのに」


まだ、何かを盗ったと思ってるのか。怒りと呆れが増す。バカには説明しても埒があかない。周りをみると先程の僕に飛びかかろうとしていた向こう見ずがいたので店員を呼んでくるように頼む。


暫く待っていると、向こう見ずと30代中頃のスーツ姿の男性が出てきた。待っている間、バカはずっとブツブツと何かを言っていたがうつ向いており、声も小さく何を言っているかがわからなかったので無視していた。


バカはその男性をみると「あ、てんちょ」と呟く。

男性は散らかった荷物、僕、バカを見ると「スズキさん、何があったの?」と優しく声を掛ける。


「あの、この人が、万引きをして、でも持ってなくて…」


合点がいったのか「てんちょ」と呼ばれた男性は周りを見渡すと

「お騒がせして申し訳ありません。すぐに片付けますので、ごゆっくりお買い物ください」

と言って頭を下げる。それで解散の雰囲気となり向こう見ずを含む野次馬たちは解散していく。

「てんちょ」は僕と目が合うと


「すみませんが通路ですので、片付けていただけますか?」と睨み言う。

その態度だけで、ああコイツも敵なのだと確信する。

僕は片付けようとはせず


「お前んとこの店員は客を泥棒扱いしたあげく、客の荷物を散らかすのが仕事なんか?」


「いえ、そういった業務はありません」


「じゃあこの状況はなんや?」


「そういったお話は店内でお伺いしますので、荷物を片付けていただけますか?」


「謝罪もなく、人の目のないところに連れ込むんか、この店はヤクザの事務所か?」


「いえ、そういったことはありませんが、他のお客様のご迷惑となりますので…」


「お前らが一番迷惑かけとるのは目の前の俺とちゃうんか? まずはお前らが疑ったことは誤解だったとこの場で説明せんか。疑われてる限りは俺は荷物を片付けない」


「わかりました」


そういうと、てんちょこと「店長 ヤマダ クニオ」はバカのスズキに向き直り


「ほんとうに盗るとこを見たの?」「盗ったものは何?」荷物を指し「盗ったのはどれ?」等と聞き、やっと確信を持ったのか「この度は申し訳ございませんでした。当店スタッフの間違いでした」「つきましては謝罪の件もございますので店内にお越しいただいてもよろしいでしょうか」

はっきりと回りの人にも聞こえる声でいったので荷物をまとめ、ヤマダに付いていく。バカのスズキは他のスタッフにつれられて行った。


店内に入り売り場横手からスタッフ専用通路を通り、事務所だと思われる部屋に入ると椅子に案内される。少々お待ちくださいといい部屋を離れると小さな封筒と書類を持ってすぐに戻ってきた。

ヤマダとは机を挟んで向かい合う形になる。


「まずは改めてこの度は申し訳ありませんでした。スタッフ不行き届きは店長である私の責任でもあります」

そういって封筒を差し出す。


「心ばかりではありますが、お納めください」


僕は内容物に予想はついたのだが、確認のために封筒を手に取ると中を確認する。すぐに封筒を閉じ、胸ポケットに入れる。

五万円だった。


「ご納得いただけたようですので、お受け取りの印としてこちらにサインいただけますか?」といって次は書類とボールペンを差し出してくる。そして、文章は無視してサインを書くところを指で示す。

僕はペンを手に取るとヤマダの指示を無視して書類を読む。

概略だが、店舗の謝罪を受け入れたとして金一封を受け取ったことを認める。今回の件を口外しない。店舗に不利益なことをしない。店舗に二度と近づかない。店長ヤマダ クニオに近づかない。スタッフ スズキ リョウコに近づかない。などなど書いてある。

謝罪を受け入れるのはわかる。こちらもそのつもりだった(・・・)。口外しないというのも、まぁわからんでもない。だが、なんで出禁かつ接触禁止なんて項目があるのだ。これではまるでこちらが悪いことをしたみたいではないか。ご納得いただけるわけがない。


「これがおたくらのやり方か?」


僕はペンを置くとヤマダを見る。ヤマダは接客スマイルだ。口は弧を描いているが目はまったく笑っていない。


「はい、これが今後とも双方が無事にやっていける条件だと確信しています」


「そうか、わかった。お前らの謝罪は受け入れるがお前らを決して許さない」


そういうと僕は荷を持ち立ち上がる。


「お客様。納得いただけないのでしたら封筒を返していただいてもよろしいですか」


「お前らの謝罪は受け入れたと言ったやろ。お心は受け取ったよ」


そう言って俺は立ち去る。後ろからは大きなため息が聞こえた。出費はかかったし大変だったけど、無事に乗りきったとでも考えているのだろう。追いかけては来なかった。


だが俺はこのままで終わらす気はさらさらなかった。


次の日、仕事を終えた僕は件のスーパーに行く。時間も時間なので多くの客が店内にいる。ゆっくりと店内をみてると案の定だ。バカがまだ勤務していた。


僕は近づくと大声で

「あれ? 客を泥棒扱いして騒いでたスズキ リョウコさんじゃないですか!! まだ働けてたんですね!! いい面の皮してますね!!」


バカはぎょっとした顔で振り向くとスタッフ専用口に走り去って行った。僕は30円ほどの駄菓子をひとつだけ手に取ると、レジでお会計を済ませ帰宅した。


次の日も立ち寄って見るが、さすがにバカの姿は見当たらなかったので、買い物カゴにたくさんの種類の駄菓子を入れてレジに並ぶ。多くの商品のバーコードを読み取ってる間に

「今日はスズキリョウコさんは出勤されてないんですか? 先日、このお店で万引き扱いされたんですけどまだ勤めているのか教えていただけますか?」「このお店では客を万引き犯だと決めつけて暴力を振るうように教育されてるんですか?」「あー、今日も万引きだと誤認逮捕されかけて金一封ほしいなー」と店員さんに話しかけてからお会計を済ませ帰宅した。


次の日は店内に入るとすぐにヤマダが飛んできた。

「スズキさんは退職しましたので、もうこういったことはやめて頂けませんか」

クビにしたのではなく辞めたようだ。そういうことなら攻め手を変えよう。

「あ、人を泥棒扱いしたスタッフを庇ったあげくに金を握らせて、事件をなかったことにしようとしたヤマダクニオ店長じゃないですか!! わざわざ出迎えありがとうございます。罪のないお客様を万引き犯に仕立てあげた上に出入り禁止処分にでもするつもりですか? スズキリョウコさんとはどういったお付き合いをされてるんですか?」


ヤマダのアホは大きく顔をしかめると「お客様、事務所の方まで来ていただいてもよろしいですか」と落ち着いたように言う。


「また事務所に連れ込んで不当な契約書に書名させる気ですか? こわいなー、脅されちゃうなー!!」


と周りに聞こえるように言ったあとアホに身をよせると「スズキリョウコが消えたんならお前らがアホなことをせん限りは黙って買い物して帰るわ」というとアホは僕をひと睨みしたあと「重ね重ね申し訳ありませんでした、どうぞごゆっくりご覧ください」そう言って立ち去った。その日は発泡酒を二本だけ買った。バカのスズキへの手向けだ。ああもちろん皮肉という意味でね。


その後しばらく通ってみたが、バカのスズキもアホのヤマダの姿も見ることはなかった。いつの間にか警備員が背後にたつようになったがたまたまだろう。


そして、僕がそのスーパーで五万円を消費するより前に閉店のお知らせが貼られた。潰れた跡地にはすぐに別系列のスーパーが出来た。せっかくなので買い物に行ったらスズキが働いていたのには驚いたが、アイサツをすると二度と見ることはなかった。


実は僕も販売店で働いているのだが、間違った接客、間違った対応はしないようにしっかりとホウレンソウを行っていきたいと改めて強く自覚できたことはよかったと思う。

創作です。作者は過去に接客業や販売業を携わったことはありますが、現在は別業種に移っております。

作者は主人公ほど口が回りませんし、主人公ほど気が強くありませんし、攻撃的でもありません。

作中のバカのスズキとアホのヤマダは全世界のスズキさま、ヤマダさまには関係がないことを強く主張します。

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