表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お兄様、懺悔なさい。  作者: Kamias
4/4

刀と弾丸。4

――余計なことはするな。殺すからな。お前以外も――


「・・・」


あれから刀花さんからの接触はない。

いや、たまにはあるのだけれど。

クラスメイトからの質問に対して、口裏を合わせるときだけだ。

むしろ、僕の方が彼女との接触を忌避している方だと思う。

クラスメイトの手前だからか、いつものむき出しの敵対心に満ちた

目ではなく、とてもおしとやかな慈愛に満ちた瞳をしているのだが・・・

僕にはその瞳が、酷く冷たく作られたように見える。

普段のあの目よりも、僕の心を揺さぶるのだ。

さて、そんな彼女はというと・・・


「正解です」

物理の担当の先生がそう告げると、

つい見とれてしまうほどに完璧な姿勢でお辞儀をする刀花さん。

クラスメイトたちから感嘆の声が響き、ひそひそとした話し声も聞こえる。

「お前の妹、なんというか、すげぇな」

敬が後ろから話しかけてくる。口ではそう言いつつ対して興味がなさそうに。

「うん。ほんと・・・というか、敬はもう少し真面目に授業聞きなよ」

「俺は今日は燃料切れです」

「はいはい」

前に向き直ると、自席に戻る刀花さんが見えた。

クラスの女子が、刀花さんに話しかけている。

「すごいのね刀花さん!頭もよくて、運動神経もよくて、お綺麗で」

「そんな・・・でもありがとうございます」


そう、刀花さんはすっかり学園生活に馴染んでいた。


運動神経は抜群で(殺し屋だから当然なんだろうけど)、

こう言うと刀花さんには失礼かもしれないが、とても頭がいいのだ。

語学、数学、歴史、科学、どれをとっても非常に優秀なのだ。

文武両道才色兼備と、今ではすっかり学園の人気者なのである。

僕の身など、まるで考えていないのだろう。

そう考えるとなんだか少し癪に障る。

本人には口が裂けても言えないけれど。


次の授業は選択授業だ。

僕は数学を選択している。

当然のことながら、刀花さんもだ。

ひょっとしたら刀花さんから逃れられると思っていたのだが、甘かったようだ。

「なんだかお疲れね?森光君?」

そう話しかけてきたのは、叶。

僕の隣の席に腰を掛けると、少し心配そうな表情を浮かべた。

「いや、刀花さ・・・妹がね」

「なんだか噂になっているらしいわね?私のクラスでも彼女の話題で持ちきりよ」

「そうなんだ」

「できる妹を持つと、大変なようね、()()()()?」

「・・・」

あぁ、そうだ。仮初とは言え僕は、刀花さんの兄になっているのだ。

それもあって、僕の居心地の悪さに拍車がかかっている。

叶の発言に対して、僕はなんとも言えない生返事を返す。


「お義兄様」


背筋に嫌な予感が走り、バッと後ろを振り向くとそこには刀花さんがいた。

「お隣、座っても・・・いいかしら?」

おずおずといった態度をとっているように見える。

しかし、僕には分かる。瞳の奥が鋭く光っている。

完全に警戒している。

僕は「あぁ、うん」と、気圧されたように彼女からの申し出を許諾する。

刀花さんは席に着くと、叶に目を向ける。

「そちらの方はお義兄様のご友人?」

友好的な態度を示しつつも、叶のことを探ろうとしている様子が伺えた。

反射的に、僕は刀花さんから叶を隠すように少しだけ身を前に出した。

しかし僕の心配を無視して、叶がさらに身を乗り出す。

「あなたが、森光くんの妹さん?」

叶にしては珍しく、少し興奮ぎみなように見えた。

いつもは物腰やわらかく、余裕というか、同学年よりも

年上かのような振る舞いをする彼女が、今は年相応の少女に見える。

「はい、森光 刀花と申します」

「私は聖丘 叶といいます。今後ともよろしくお願いいたします」

「聖丘・・・もしかして、あの聖丘になりますか?」

「あら、よくご存じですね? 確かアメリカにいらしたとお伺いしましたが?」

「あちらでもヒジリオカといえば有名ですよ、改めましてよろしくお願いいたします」

そうして会話を結ぶと同じくして、担当の先生が教室に入ってくると

刀花さんも叶も前に向き直る。僕も今は授業に集中しようと先生の方へ

意識を向けようとしていると、スッと目の前に小さく畳まれた紙が差し出されたのが見えた。

相手は刀花さんだ。

動揺する僕とは違って、刀花さんは平然を装って授業を受けているように見える。

叶も僕の様子には気づいてないようだった。

僕はひっそりと紙を手に取りめくってみると、英語で次のように綴られていた。


「彼女とあまり話すな」


ドクン、と胸が跳ねたのを感じた。

再度、刀花さんの方に目を向けるが

彼女は変わらず、まじめな様子で授業を受けているように見える。

次に叶の方に目をやる。

刀花さんと同様に授業を受けてたが、僕の視線に気づいたのか

こちらに目をやると、柔らかく目を細めた。

普段ならきっと見とれていただろうその表情に、

僕は苦笑いを返して、ふいと視線を外した。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ