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お兄様、懺悔なさい。  作者: Kamias
3/4

刀と弾丸。3

青奧学園(じょうおうがくえん)

東京都世田谷区に拠点を置く、小学校から大学までの私立一貫の名門校にして

日本一と謳われるマンモス校だ。

富豪名家の子息令嬢などが、車での送迎で登下校を行う光景がしばしば見られるが

大半は電車通学であり、「青奧学園前駅」から一直線に校舎へと続く坂を

一斉に生徒たちが駆け上がっていく景色は、この地域の名物ともなっている。

僕はその群衆の中に混ざり、ゆっくりと歩いていた。

すれ違うクラスメイト達とあいさつを取り交わしつつ、校舎へと向かっていると

「よっ!」という声と共に肩を叩かれた。

僕より二回りほど背の高い、いたずら好きそうな顔だちをしたそいつは

僕の幼馴染の一人である「高槻 敬(たかつき けい)」という。

「おはよう、敬」

「おう、今日はゆっくりだな?どうしたんだ?」

・・・言おうか言うまいか迷った。

昨日の夜、妹ができて、殺されそうになったんだ――

うん。言えるわけがない。

僕は言葉を濁しつつ、それとなく話題を変えようとした。

「あーうん、ちょっとね。それより、敬は今日は走らないんだね?」

「いやー、親父にしごかれちまってよ?疲れちまってるからたまには休むかーって」

「そうなんだ」

敬の両親は元オリンピック金メダリストで、敬もまた陸上部の短距離走のエースだ。

たまに学園にきて、陸上部の特別コーチを行っているようなのだが、

先日がその日だったのだろう。ご両親の愛情はとても深いものだが、

敬に対する期待も大きく、厳しいものなのだ。


敬と二人で談笑をしながら歩き、校門の前にたどり着くと

一台の黒塗りの高級車が止まっているのが見えた。

中から少女が下りてくる。

彼女は「聖岡 叶(ひじりおか かなえ)

「聖岡財閥」の才色兼備のご令嬢で、学園のマドンナ。

一挙手一投足が美しく、現に今彼女を見た何名かが

見とれて足を止めているのが、視界の端に映った。

光栄なことに彼女もまた、僕の幼馴染のひとりである。

「あら、高槻くん、哉太くん。おはようございます」

「あ、うん。おはよう」

幼いころから一緒だから、慣れてはいるけれど

彼女の笑顔を見るとどうしても照れてしまう。

一方、敬の方はそんなの気にもしてないようで、

気安く挨拶に応える。

「おー、叶。おはようさん!」

「二人が一緒だなんて、珍しいね? 哉太くん、寝坊?」

「ちょっと、昨日はなんだか寝付けなくてね」

「そうなんだ、あまり無理しちゃだめだよ?」

「うん、ありがとう叶ちゃん」

「まぁ、挨拶はほどほどに、さっさと入っちまおうぜ」

敬がそう言って、僕たちは巨大な校門を潜り抜けて

クラスへと向かった。


ホームルーム前。

クラスではいくつかのグループが出来て、

それぞれ談笑にふけっている。

ちなみに、敬と僕は同じクラスで

叶ちゃんだけ別のクラスとなっている。

敬はクラスの人気者で、ホームルーム前や

昼食時にはいつも人だかりができていて

敬の快活な話し声が、クラスに響いていた。

予鈴の音が鳴ると、担任の小林先生が手帳を持って

クラスの前方の出入り口から入って、教卓に登壇する。

それと同時にクラスが一斉に静まり返り、小林先生の方を注目する。


「はい、みなさん。おはようございます」

クラスメイト一同が応える。

「本日はホームルームを始める前に、転入生の紹介をします」

その一言に、クラスが一瞬ざわつき、

敬が後ろの席から話しかけてくる。

「珍しいよな、"転入生"だなんてよ」

「うん」

多くの生徒は小学校からエスカレーター式に、大学までいくことが普通だ。

それと、名門校というだけあって、偏差値は相当に高い。

編入試験もまた、相当に難しいものである。

なので青奧学園で、外部からの転入生というのは非常に珍しい。

ざわつくクラスメイトたちを他所に、小林先生は「では、入ってきてください」と

クラスの外で待機していた転入生へと告げる。


「失礼いたします」


転入生の登場に、クラスメイトたちが息を飲んだのを感じた。

その転入生が、あまりにも美しかったから。


艶やかな黒髪に、怜悧な碧眼。

一見冷たい印象を与えそうな端正な顔立ちに反して

柔らかい微笑みを浮かべるその人は、雪の花を連想させた。


というか、そこに現れたのは・・・

「と、刀花、さん?・・・」


困惑と共に背中に冷たい汗が

流れるのを感じる。

小林先生が刀花さんに自己紹介を促す。

すると、浅くお辞儀をしてから彼女は


「今日からお世話になります、"森光 刀花"といいます。

皆様、どうぞよろしくお願いいたします。」――



クラスメイトがきれいに半分に別れ、

彼女と、そして僕へと詰め寄ってきた。

「あの子は一体誰?」

「あの子とどういう関係?」

「この裏切り者め!」

などなど、一部よくわからない罵倒のようなものを

言われた気がしたが、応えきれない。

なにせ、僕が一番疑問に感じているのだから。

すると僕と同じような質問を受けていたのであろう

刀花さんが、それに答える。


「私は以前、アメリカの方に住んでいたのですが

訳あって、森光くん・・・"義兄さん"のお父様が

養子縁組をしてくださったの。

お父様がいなくなってしまって、困っていたところ

義兄さんが日本にいると聞いて、こうしてやってきたのです」


僕への質問の量が増した。

僕が質問にどう変えそうかと悩んでいると

携帯電話に知らない番号から着信があるのに気づいた。

これ幸いと僕は逃げるように人だかりを押しのけてクラスの外へと

脱出して、電話に出た。

「森光です」

「やほ、カナタ。サプライズ、うまくいったみたいね」

相手は弾樹だった。


「弾樹!?ちょっと、本当に今戸惑ってるんだけど、

これどういう状況なの!?」


「いやね?私たちは私たちで"仕事"があるけど、

それはそれとして、唯一の目撃者であるカナタの

監視自体はしたいなーって考えたのね?」


つまり、刀花さんは僕の監視役、ということか。


「それに、私も刀花ちゃんも学校っていうものに

言ったことなんてなかったからさ。

いい機会だし、楽しんでみようかなーなんてね」


「ん?ということは、弾樹もこっちに??」


「わたしはちょっと、ベンキョーってのは苦手でね。

でも近くの学校には編入できたから、哉太のことは

ちゃーんと見守ってるよ!」


「"監視"、の間違いだろ?」


「ま、おにぃちゃんったら、ひっどーい。

あ、じゃあこれからちょーっと用事があるから

またあとでね!」


「あ、ちょっと!」

言いたいこと、聞きたいことはいろいろとあったが

その前に切られてしまった。

僕が頭を悩ませていると、後ろから声が掛かった。

「そういうことだ」

振り向くと、そこには刀花さんがいた。

先ほどのクラスメイトとの会話をしていた

淑女のような態度ではなく、僕を威圧するいつもの態度であった。

「私はこんなところでの生活なんて、興味ないんだ。

ただ、弾樹が・・・何を考えてるのかは知らないが

そう望んでいる。それだけだ」

僕への不信、拒絶をあらわにしながら

ぐっと近づいて囁く。

「余計な事はするな、殺すからな。お前"以外"も」

ゾッとした。

弾樹とは違って、彼女は僕に明確に敵意を向けている。

そして、生活圏内で僕の心臓を握っている。


彼女の後ろに、敬の姿が見えた。

それを感じてなのか彼女は僕から離れて朗らかな笑みを浮かべる。


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美しい黒髪を振りまいて、僕に背を向けて去っていった。

「どうしたんだ?」

敬が僕に話しかけてくる。僕は敬の顔を伺って、

努めて冷静さを装う。

「ううん、なんでもないよ。()()()()()()()()()()


去っていった刀花さんを見ながら、僕は

どこかにいるであろう弾樹のことを考えていた。

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