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お兄様、懺悔なさい。  作者: Kamias
2/4

刀と弾丸。2

翌日。

目が覚めると、見慣れた天井があった。

広いベランダの窓から、美しい日差しが差し込み

さらにその向こうには快晴の空が広がっているのがうかがえる。

美しい朝。

――いつも通りの、静かすぎて、寂しい景色だ。

いくら慣れようとしようとも、この空気だけはどうにも慣れない。

・・・早く朝の準備をしなくては

そう思い、起き上がろうとして肩に痛みが走った。

「痛っ!?」

ああ、そうか。

昨日から僕には、同居人ができたのだったか。


昨夜突如として現れた二人の謎の美少女、弾樹と刀花

先日起きた飛び降り事件。その現場に彼女たちはいたらしい。

いた、というよりは"起こした"ようである。

僕はたまたまその現場を遠くから見ていた。

そして、人が落ちたタワーマンションの窓辺にいた

彼女たちのかたわれ、刀花と目があったらしい・・・

「目撃者」として狙われた僕は、知らず内に家を

発見されて殺されそうになったのだが


どういうわけか見逃され、彼女たちと同棲を送ることになったのだった。


肩の傷は刀花さんか、弾樹のどちらかが手当してくれたのだろう。

刀花さん・・・は、ないだろうな。昨夜の様子からして、

僕はまだ警戒されているようであるし。

そう考えると、弾樹の方が異常だと思う。

何か、思うところがあったようだし、事情があるのだろうか?

しかし、ここで悩んでいても仕方がないことだなとそう思い

制服に着替えてから、居間へと向かった。


「あ、おはよう哉太」

「え、えと、おはようございます?」

「アハハ!なに、また疑問形?

まぁ無理もないかもねー、朝からおねぇさんのような

こーんな美少女が!しかも朝食の支度もしてくれているなんて!

夢のようなシチュエーションでしょ?」

えらく芝居がかった台詞を言う弾樹。

言われてみてみると、テーブルの上には朝食が用意されていた。

トーストと卵焼きと、わかめのスープ。簡素な食事だった。

自分以外の誰かの手料理なんて、一体何年ぶりだろうか・・・

僕が黙っていると、弾樹が話しかけてきた。

「もしもーし、おにいちゃん?どうしたの感激のあまり、言葉もでなかった?」

「え、あ・・・うん、そうかも」

「・・・ふーん、そっか!えへへ、よしよし!たーんと、召し上がれ」

「うん、いただきます」

椅子に腰かけて、スプーンに手を伸ばそうとして

「はーい、すとーっぷ!」

「なに?なんなの?」

「おにいちゃん、忘れてない?私たち、"殺し屋"なんだよ?

毒でも盛られてるんじゃないかーって、フツー疑わない?」

言われて気が付いた。というより、頭の隅にどかしていたのだ。

こうもあからさまに言葉にされてしまっては、もはや否定しようもないが

彼女たちは"殺し屋"なのだ。それもきっと、素人ではない。

おどけるような表情で僕を見つめる弾樹の目は、しかし"本当に笑ってはいなかった"

その目の奥に、奈落のような闇が一点見えた気がした。


でも・・・


「そうかもね。でも、僕は嬉しかったんだ。

誰かの朝食なんて、久しぶりだったし。

それでよかったんだ。うん」

弾樹が目を丸くしている。しばらくするとまた僕を見つめて

「うん、そうか。でも、気を付けるんだよ哉太」とそう言った。

その目に闇は見えなかった。子どもの成長を見守る母のような目だった。

ただ、少しだけ切なさが見えたのは、気のせいなのだろうか・・・?


「そういえば、弾樹って歳はいくつなの?」

「おっとっと。君ねぇ、女性に対してはもう少しデリカシーというものをだねぇ?

まぁ、いいや。哉太はいくつなの?」

「僕は16歳だよ」

「おっ、本当に歳近いや!私は先週17歳になったんだー

これじゃあ双子だねぇ、おにいちゃん?」

「なぁ、さっきからその"おにいちゃん"ってのはなんなのさ?」

「あぁ、それね!それはね・・・」


バタンっと居間の扉が開いた。一瞬のことに僕は身構えたが

そこにいたのは刀花さんだった。

「うーん・・・たまきー、ごはんー・・・」

「あ、刀花さんおはようございま・・・」


言葉が出なかった。理由は二つ。

ひとつ。昨夜の冷酷な彼女からはかけ離れて、寝ぼけたその姿がとてもかわいかったから。

ふたつ。彼女が何も着ていなかったから。

そう、彼女は今、全裸なのである。

弾樹が頭に手を当てて、いかにもまずったという態度をとっているのが視界の端に見える。


「あちゃー・・・えーっと、トーカちゃん。ぐっもーにん?」

「んゅ・・・たまきちゃん、おはよ、う・・・」


彼女と目があった。

そしておもむろに自分の姿を確かめてから、

ゆっくりとまた僕に目を合わせる。

寝ぼけ眼が段々と、覚醒、羞恥、怒りへと変わっていき、潤い・・・


ズガンっ!!


と、僕の顔の横に日本刀が飛んできた。


「貴様ぁ・・・そこを動くなよ・・・?」

「ちょ、え、待って待って待って!!不可抗力!!不可抗力!!!!」

「問、答、無用!!」

そう言って拳を握りしめ、僕へと駆け出す刀花さん。

昨夜とは別の恐ろしさに、僕の頭の中ではけたたましく警報が鳴り響く。

「わぁあーー!!ちょっとまって、助けて!!」

「逃げるな下衆ぅー!!」

優雅な食事風景は打って変わって、あわただしい逃走劇が繰り広げられている。

弾樹はというと、そんな僕らの様子を馬鹿笑いしながら楽しんでいた。

「ちょっと弾樹!!助けてってばぁー!!?」

「アッハハハハ!!・・・ゲホゲホっ、とそうだったそうだった。

ハーイ、トーカちゃん!ステイステイ。どうどうどう」

刀花さんは獣か。弾樹が刀花さんの前に素早く立ちふさがり、

宥めると、刀花さんは息を荒げながらもゆっくりと落ち着いていった。

弾樹が上着を渡すとそれを奪うように取り去り、居間を出て行った。


しばらくして、何事もなかったかのような涼しげな表情で現れた彼女は

黒のスラックスとワイシャツに身を包み、昨夜見た冷たい印象を与える姿を

見せたのだった。


「オハヨウ、カナタ・・・!」


あ、全然違う。よく見ると額に青筋が浮かんでいるし

これ完全に激怒している。

「おはー、トウカちゃん。朝ごはん出来てるよ」

「ふんっ・・・質素な食事だな。もっと何かなかったのか」

「いやーごめんねぇー、ちょっと朝は忙しくてさー。

でもしっかり残さずに食べてね、愛しい妹の手料理なんだからさ!」

「ふんっ・・・!」

不機嫌ながらも、おとなしく食事を摂り始めた刀花さんにならって

僕も朝食を頂くことにした。

「い、いただきます」

「うん!どうぞ、召し上がれ!」

にっかりと笑って、僕にそう言ってくれる弾樹の作ってくれた朝食は

少し冷めてしまったけど、とても美味しかった。本当に、美味しかった。


「ごちそうさまでした!美味しかったよ、ありがとう」

「どーいたしまして♪あ、哉太時間大丈夫?」

「あぁ、そうなんだ。そろそろ行かなくちゃ!・・・あ」

「あぁ、鍵なら大丈夫だよ。昨日の内に合鍵作らせてもらったから!」

「・・・」

どうやって?とは、あえて言わない。

殺し屋なんてのは、みんなそんなことができるのだろうか?

それはさておき、そろそろ出ないと遅刻してしまう。

僕は足早に家を出ようとして、玄関に向かうと後ろから弾樹が僕を呼んだ。


「あー、哉太ぁ!」

「なにー?」


「"また、あとでねぇー!"」


どういう意味だろうか?

急いでいたので、その一言について深く考えることはなかった。

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