転生した【狂愛者】の少女の話
「愛してるから殺したのよ」
母はそう言っていた。
そう教えてくれた。
父と弟の死体を虚ろな瞳で見下ろす母は、そう話してくれた。
そして私は殺された。
だから私も愛してあげた。
殺したいから愛してあげた。
気づけば私は異世界にいた。
私は母の教えを守る事にした。
気に入った人を殺した。
イケメンを愛した。
優しい人を殺した。
気に入らない人は捨てた。
努めて私は狂愛者として暴虐の限りを尽くしたと思う。
そんな私は初めて愛を拒まれた。
愛せなかった。殺せなかった。
その人はカッコ良かった。
クールだった。
人に手を差し伸べる人だった。
でもその人の眼は死んでいた。
私とは正反対。
私は良くイキイキしていると言われる。
爛々とした眼だと噂される。
狂ってると叫ばれる。
私とは違う。
だから彼についていく事にした。
いつか愛せるように、殺せる様に。
惹かれる様に。
彼は人間じゃないという。
魔族でも亜人でも獣族でも無いという。
元天使だと教えてくれた。
今は違うと、彼は言う。
大怪我をして、身体を機械化して生命維持を行っているという。
天使は科学が大好きだそうで、機械人形や光学兵器など生み出しているとかなんとか。
私には分からない。
理解できないけど、私の体も機械でできていると教えてくれた。
なるほど、私のお眼目が爛々としてるのは光ってるからなのか。
賢くなった。
それから旅をした。
彼との旅。
彼が天国へ帰るための旅。
彼は大分心を開いてくれる様になった。
私も、学んだ。
最近彼を愛したいとは思わない。
殺したいとは思わない。
でも心は彼に向いている。
気づけば彼に意識が向いている。
これは恋なのかもしれない。
でも愛したいとは思わない。殺したいとは思わない。
不思議で謎だ。
なぞなぞだ。
胸が痛い。
呼吸ができない。
息を吸えない。
どうして? ねぇどうしてなの?
ようやく見つけた目的地。
彼が目指した天国の門。
どうして、彼は死んでるの。
私はまだ愛してないのに。愛しきれてないのに。
目の前のイヌッコロが裂けた口で笑う。
巨大で凶悪で賢い番犬は笑う。
笑うな、笑うな。
訳がわからない。
これは何。
この感情は何。
彼の事は愛する気でいた。
殺す気でいた。
その機会を奪われたのが嫌なのか。
嫉妬なのか。
それとも後悔なのか。
愛し損ねた後悔なのか。
ドロドロとした滑る血の様に流れ出す感情。
ズキズキと、ジュクジュクと、心の傷口が腐る。
これは、後悔か。
後悔に違いない。
私は、実は、殺す気は、なかった。
いつからだろうか、私の愛は冷めていたのか。
冷めていたら、こんな後悔は、しない。
私は、彼と痛かったのだ。
居たかったのだ。
既に、愛していたのだ。
気付いた時には、他人に殺された後だ。
涙が溢れる。
久しい、涙だ。
私は、その涙と一緒に、感情を撒き散らしながら叫ぶ。
目の前の仇へ向かって。
初めて、生き物を殺した気がした。
気が、しただけだ。
彼の亡骸を背負い、門をくぐる。
せめて、彼の身体だけでも、故郷へ帰してあげたかったから。
楽しかった。
嬉しかった。
生き生きした。
愛した。
嫉妬した。
彼との数年を思い出す。
彼を、思い出を、愛を背負ってくぐり抜けた。
「殺し愛しよ」
天国は既に、地獄へと変わっていた。
爛々とした、同じ顔をした私が‥‥私?
「愛し合おうよ」
「殺し合おうよ」
「これが愛の証明だから」
天使達は、人選を間違えた。
天使達は、ベースを間違えた。
選んだ人格を間違えた。
狂った者を選んでしまった。
狂った者に、滅ぼされた。
世界は、破滅に向かう。
愛を信じる一つの意思によって。
愛を信じる一人の少女によって。
それに抗うのは、真実の愛に気づいた少女だった。
世界は‥‥