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第一章 餌付け(5)

食器を洗い終えた圭喜はミニタオルに包んだ人形を大きめのカバンに入れた。その後もう一枚暖かそうなタオルをかけて、タオルから顔だけが出るようにくるんでやる。ミーミー鳴きながら腕を伸ばしてくる人形に愛着がわいたのか圭喜はよしよしといつの間にか指で人形の頭を撫でてやっていた。

圭喜はエプロンを脱いで代わりに黒のロングコートと暗色のマフラーを首に巻いた。人形の入ったカバンを肩にかけ、玄関に出て行くと圭喜はリビングから最中に声をかけられた。


「圭ぇ、どこいくのさ」

「んーちょっとデパートまで」

「買い物?」

「そうそう、すぐ帰ってくるから留守番頼んだよ」

「ってらっしゃーい」


最中に見送られた圭喜は寒い中家の外へ出た。家を出る前にカバンの中を見ると、人形もこちらを見ていた。圭喜は風が入り込まないようにカバンのチャックをそっと閉めたのだった。




















「いらっしゃいませー!」


正月が来てまだ一週間しか経ってないというのにもうデパートはたくさんの客が詰め掛けていた。圭喜は入り口のすぐ近くにあるエスカレーターに乗るとそのまま三階まで上がっていった。

そこには、


《トイ●ラス ××支店》


色とりどりの子どもの喜ぶ玩具に楽しそうな音の鳴るその一角にはたくさんの子どもたちが集まっていた。お年玉を片手にゲームや玩具を買いに来ているのだろう。圭喜は小学生たちの集まるゲームコーナーを越えると小さな女の子たちの多いピンク色の一角へと足を運んだ。

圭喜は人形をはじめて見たときから思っていたことがあった。それはこの人形は、女の子たちの中で流行っているとある人形にサイズがそっくりだな、と。

圭喜はパッケージに入れられた人形の服を眺めていた。ずらっと壁一面に並ぶそれはいっそ爽快さがあるのだ。


「二、三枚あればいいか」


人形が最初に着ていた服によく似たシャツとズボンを色違いで二枚ずつ・・・。


圭喜はいつの間にか「寒くないようにコートのようなものも、」といくつもの服を手にとって見ていた。


「・・・もしかして可愛がりはじめてないか、自分」


いや、これは一応人形みたいなあのちっこいのも生きているみたいだし、風邪なんか引かれたらどうすればいいのかとか考えるよりも服を買ってやるほうが安いし、めんどくさいこともないし・・・


必死に自分を説得しながら当初の予定より多めの服を選び終えた圭喜。会計を済ませた圭喜は買ったものを手にトイレの個室へと入っていった。


カバンのポケットに入ったソーイングセットはすぐにボタンなどの服の装飾品を取ってしまう弟たちの為に入れられている。今日はやんちゃな弟たちのためではなくソーイングセットに入ったはさみを取り出して圭喜は買ったばかりの人形の服の袋を切っていた。中の服は元々人形用のものなので着心地、履き心地などはまったく考慮されてないのだ。圭喜は服を裏返すと飛び出した糸を切っていった。裏地の不必要な布も切っていく。ほつれないように針を取り出して買ったばかりの人形の服を手直ししていった。


「・・・こんなもんか」


圭喜はシャツとズボンの一組を手直しするとカバンのチャックを開いた。中には目をぱちぱちさせた圭喜の家の生きた人形が入っている。圭喜はタオルごと人形を取り出すとフタを閉じたトイレに座る圭喜の膝に乗せた。服と一緒に入っていた下着ごと人形に手直ししたシャツとズボンを渡せば人形はおずおずとタオルの中から手を伸ばして服を着ていった。

特に不備もないのか人形は服を着た後は「ここはどこだ?」と圭喜の膝の上をうろうろと歩こうとする。圭喜は動き回ろうとする人形を掴んでタオルと一緒にまたカバンに入れた。そしてカバンの底から圭喜を見上げる人形に向かって言った。


「よしよし、帰りもいい子にしてたら今日のおやつはウチのシュークリームだからな」


もちろん人形は圭喜の言葉など理解できているはずはないのだが、人形は圭喜が笑えばいいことがあるとわかってきたらしい。人形の言ういいこととは甘くておいしいものが食べれるということだ。圭喜はタオルから頭と手を出している人形の頭を人差し指で撫でてやった。

餌付けというか、主人公がほだされてきました・・・。

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