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第一章 餌付け(3)

「圭ぇ!俺は卵三個食べるから」


洗面所から響いた声に圭喜は卵をフライパンにもう一つ落とした。他の四人と違って朝からがっつり食べる最中には卵のほかにベーコンも焼いていたりする。焼いた卵とベーコン、それからトースターには他の四人よりも長い時間焼いたトーストが三枚。

丁度その時やっと食べ終えた知世子が「ごちそうさま」と言ってシンクにお皿を沈めると最中が台所に入ってきた。


「お腹すいたー」

「おー、いま果物切るから」

「苺ある?」

「あるよー、バナナも食べる?」

「食べる」


最中は冷蔵庫を開けるとグラスに冷たい牛乳を注いだ。最中がグラスを机の上に置いた後、スープカップにスープを入れている間に、圭喜は大きめのお皿に目玉焼き三つとベーコンをよそっていた。盛り付けを終えた圭喜が椅子に座ると向かいの席で丁度、最中が手を合わせて「いただきます」と言っていた。


「いただきます。ところで最中はいつから部活始まるの」

「明日から、学校がはじまるのも明日からだけど」

「へー」

「圭の大学は?」

「明日からだよ、今年は知世子と藍須も卒業だし式の日にはもう春休みに入ってるかな」

「大学って春休み長いよなー」


最中はベーコンを食べながら黙った。コーヒーを飲んでいた圭喜もそのまま黙った。隣のリビングでも双子たちの見ているテレビの音以外は何も音がしなくなった。

その時、


ごとん・・・こつん、こつん


藍須と向かい合う形でソファに沈みながら雑誌を読んでいた知世子が物音に天井を見上げた。リビングにいた四人だけでなく台所で朝食を食べていた圭喜と最中にもその音が聞こえたのか全員が天井を見上げた。


「圭ちゃんの部屋かなぁ」


知世子がそう言った。圭喜が「自分の部屋か」と思った瞬間、脳内に10cmの人形のことが思い浮かんだ。ミーミー鳴く人形を思い出して圭喜は食卓からつい立ち上がってしまった。


「圭?」

「あー・・・窓開けっ放しだったから」

「風で何か倒れたのかもな」


トーストを齧る最中を横目に圭喜は台所を出て行こうとした。


「圭ちゃん私が閉めてくるよ、ご飯食べといて」


雑誌を閉じた知世子がソファから立ち上がろうとするのを圭喜は手でとめた。


「あーいいよ、多分今のはペン立てが倒れたんだと思うし、片付けとく」


圭喜は妹が更に口を開く前に階段を上っていった。




















かちゃ


圭喜はそっと自身の部屋の扉を開いた。案の定ペンを入れてあり昨日は人形のベット代わりになっていた籠が机から落ちている。おきっぱなしだったペンも数本がフローリングに落ちていた。机の上に人形の姿はなく机の周りを探してみると壁と机の隙間に埃にまみれた金色の塊が見えた。背中を向けたままの人形の背をトントンと人差し指で軽く叩いてやる。すると人形はこちらを向き、真っ赤になった目で走り寄ってきた。


『gnf,ojnhhgswvtdsnduwgvdn,d;ldjsp.s,ksl!!!!』

「うわ、ごめんってば」

『msnxskjhxp,.popmihre.;elkjfmfh!!!』

「はいはい泣かない泣かない」


手に人形を乗せると人形はミーミー泣き出して圭喜のエプロンにすがり付いてきた。綺麗な金色の髪には埃がたくさんついてるし、紫に近い不思議な色の瞳は泣きはらしたのか赤くなっていた。圭喜が埃を取ってやり顔を双子と同じようにエプロンにかけられたふきんで拭いてやると人形の泣き声は止んでいた。いや、それどころか強く擦りすぎたのか人形はまた圭喜に怒ってなにかを言ってきた。


『kdm.xsmdcucmsxs:sxpk!!!』

「はいはい、寂しかったんだよねー」


からかうように圭喜が言ってみても人形にその言葉は通じない。圭喜はこの人形を外見から十四、五歳だと思っているようだが日本人のように童顔に見える人種と違い、西洋系の顔をしているこの小人は実はまだ十歳にも満たない少年なのだ。まぁ、きっとこれからも圭喜は気づかないだろうが。

圭喜は泣きはらした人形をここに置いておくのも可哀想かもしれないと思いはじめていた。

そして人形に向かって静かにするようにジェスチャーを取ると手のひらの人形をエプロンの胸ポケットにそっとしまった。人形はポケットの中から圭喜を見上げていた。圭喜はもう一度自分の唇に人差し指を当てて、静かにするように人形にジェスチャーしてみせた。果たしてそれが人形に通じたのかどうかは分からないが圭喜はペンと籠を床から拾うと机の上に置き、そっと部屋から出て行った。

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