第一章 餌付け(2)
「圭ちゃん・・・ごはん」
「たまご!ソーセージとめだまやきがいい!」
洗面所から出ると圭喜の足に双子の弟がじゃれ付いてきた。背の高い圭喜は両足にじゃれ付かれようがまったく危なくないのだが双子は運動音痴の知世子にも同じことをしようとするので圭喜は知世子が怪我をする前に双子をたしなめようと口を開いた。
「小倉、金時・・・」
「二人とも圭喜からはなれろ、圭喜が転んで怪我でもしたら誰が飯をつくるんだ」
圭喜の代わりに双子をたしなめた(のか・・・?)のは弟の藍須だった。藍須は小倉と金時にそう言うと自分はさっさと食卓についてしまった。確かに料理がまったくできない藍須に手伝えとは言わないがせめて食器を出すぐらいは手伝ってくれないだろうか。圭喜は椅子にかけられた無地のエプロンを着ながら双子に話しかけた。
「あー小倉と金時は知世子起こしてきてくれない?」
「はーい!行こーおぐら!!」
「うん、行く・・・!」
双子は手を繋いで台所を出て行った。知世子は低血圧なので朝は強くない。というか今もまだ七時前なので休日的に考えると起きてなくてもいいのだが、ウチでは小倉と金時が起きた時が朝ごはんの時間と決まっているので大体いつもこの時間なのだ。
両親は家の隣にある洋菓子店で朝から働いている。お店が開くのは十時からだが仕込みに入っているので二人はとっとと朝食を済ませてある。だから圭喜が作るのは六人分の朝食だけだ。
「最中はまだ走ってるの?」
「もうすぐ七時だからもう帰ってくるんじゃないのか」
「大変だなー運動部は」
「最中の学校は陸上が強いらしいからな、毎朝ランニングでもしないとついていけないんだろう」
「へぇ、さすが推薦組だ」
圭喜はフライパンを握りながら後ろの椅子に座る藍須と話していた。圭喜は新聞をめくる音を聞きながら双子の目玉焼きを焼いていく。丁度その時家の玄関が開いた。
「ただいまぁー!!あー暑ぃー!!」
「おかえりーシャワー浴びてからご飯食べなよ」
「わかったぁ!!」
帰ってきた最中は真冬だというのに汗をかいていた。一時間くらい走っているらしいがまだ中学生の最中が体を壊さないか圭喜は少し不安に思っていた。最中は平気だというがそれが更に圭喜の不安を煽るのだ。
「おはよぅ・・・」
「ちーちゃん起こしてきた・・・!」
「起こしてきたよ!圭ちゃんほめて!」
「うわっ」
「双子!危ないから料理中の圭喜にぶつかってくなって言っただろ!」
最中が洗面所に入っていくと入れ替わり立ち代わりに知世子が台所に入ってきた。そしてその後ろから圭喜に抱きつく双子は早速藍須に怒られていた。双子は藍須に怒られたのでしぶしぶ圭喜からはなれていった。圭喜は双子に食器を出すように頼むとその上に目玉焼きと焼いたソーセージを乗せてやる。焼けたパンをトースターから取り出すと双子と知世子のカップには昨日作っておいたスープを注いだ。
冷蔵庫からマーガリンとジャム、知世子にはサラダを出してやれば四人は先に朝食を食べはじめるのだった。
「「「「いただきます」」」」
「藍須は目玉焼きいらないの?」
「今日はいい、それよりコーヒー入れてくれ」
「んーわかった」
マグカップにコーヒーを入れて出せば藍須も他の三人と同じように焼いた食パンにべったりとジャムを塗って食べていた。圭喜は砂を噛んだような顔をした後、自分と最中の分の卵を焼きはじめた。しゃくしゃくと半分寝たままサラダを食べる知世子の横で双子は口に苺のジャムをべったりつけ、同じ顔と仕草でパンを食べていた。十分もすれば一番最初に食べ終わった藍須が食器をシンクに沈めると隣のリビングへと足を進めていった。そしてテレビの置かれた部屋のソファに座った。
次に双子が同時に食べ終わって食器を圭喜に渡した。圭喜はエプロンのポケットにかけたハンカチを取り出すと双子の口についたジャムやら卵の黄身やらを拭いてやった。双子はリビングに行くとテレビの前に座ってなんとかレンジャーとかいうものを見はじめた。ちなみに双子は何度も藍須に怒られていたのでテレビからきちんと三メートル離れて画面を見ていた。
これが我が家の朝食風景の一部なのだ。