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第一章 看病(1)

手酷く捻った足は翌日には熱をもって腫れた。うんうん唸って、結局大学を休んだ圭喜だったがお昼を過ぎた頃には熱も下がってだいぶ楽になってきた。心配した小人の少年のことだが、彼は圭喜の部屋に誰かが入ってこようとするとささっと隠れてしまい結局誰にも見つからずに今にいたる。


「圭喜、お昼持ってきたわよ」


寝台に臥せっていた圭喜は母の声に体を上げた。


「・・・ありがと」

「まだ寝てなさいって、おかゆは食べられる?」

「うん」

「熱は?」

「もう無い」

「タオルは?」

「いいや」


最後に母親が圭喜の額に手のひらを押し当てた。

圭喜は母親からおかゆを受け取ると口をつけた。朝はあまりのしんどさに何も口がつけられず、お腹がすいていたのかもしれない。


「食べ終わったら横の机の上に置いておいてね」

「うん」

「お母さんはお店の方にいるから」

「うん」

「そういえば、花梨くんがお見舞いに来てくれるって」

「うん・・・え?」


圭喜がスプーンから口を離したときにはすでに母親は圭喜の部屋から出て行っていた。圭喜はスプーンを持ったまま呆然とした。

誰が来るって?・・・花梨さんが来るのか?なんで?気まずさが異常なんだけど。

10年ぶりに会う知り合いにあの喧嘩腰、どう考えてもこれから友好な関係を築く気がないと圭喜は取っていた。まぁ、10年も経てば性格も変わるだろう。昔は優しいイメージがあったんだが・・・


「・・・なんかしたっけ?」


ボケッとしながらスプーンを再び掴んだ圭喜は口におかゆを運んだ。


『ekfhcmg,fjkh,oih!』

「あ、タルト」


おかゆを口に運んだ圭喜を見ていたのか、寝台を小さな少年がよじ登って来た。朝から何も食べさせてなかったので小人の少年もお腹がすいたんだろう。圭喜は少年を膝に乗せるとスプーンを口の近くまで運んでやった。

そういえば、昨日は花梨に言い返すつもりでこの少年の名前を決めてしまったが、昨日山下から貰ったブルーベリーのタルトを食べる小人の少年を見て、「あ、この名前は有だな」と思った。ネーミングセンスが無いとか、適当に決めすぎとか色々考えるところはあるが今日から彼の名前はタルトになった。

うん、いや、でも結構いいと思うんだけど。タルトも呼ばれていると気がついているのか「タルト!」と呼ぶとこっちを向く、時もある。


「おいしい?」

『dkfjc,grghruigh』


タルトは甘いものは好きみたいだけど、他のものはあんまり食べてくれない。

偏食なのか、それともこういう生態の生き物としてみていいのか。圭喜は疑問に思いながらタルトの口に甘くないおかゆを突っ込んだ。


『kfjc,pguhgugffojjgftf!!』

「はいはい、後でゼリーとかあげるから」


ぽかぽか叩こうとするタルトを指で押し留めながら圭喜はおかゆを食べた。

じゃれるように圭喜の周りをまわったり、肩に乗ったりしてくるタルトは何の反応も返さない圭喜にむっとしたのか、いつの間にか椅子の上にかけられた圭喜のエプロンのポケットの中に入ってこちらを見ていた。


「タルト、こっちおいで」

『mshdnomhxm,fkj,ijhuh!』


おかゆを食べ終わった圭喜がタルトを呼ぶと、タルトはポケットから顔を出してこちらに来ようとした。




コンコン




「っはい!」


ポケットから顔を出していたタルトだったが、ドアを叩く音と圭喜の驚いた声にまたポケットに体を突っ込んだ。


「圭喜、入るぞ」

「ど、どうぞ!」


聞き覚えのある声に圭喜は息を飲み込んだ。その声の主は圭喜の部屋のドアを開けると部屋に入ってきた。


「・・・調子はどうだ」

「いや、今は割と元気ですけど・・・」


部屋に入ってきたのは、・・・花梨だった。


「足はまだ痛むのか?」

「いや、熱がひいたらもうあんまり・・・明日には歩けるかも」

「・・・それは無理だろ」


そう言って花梨は笑った。昨日とは違う友好的な笑顔に圭喜は苦々しく笑う。昨日の態度はなんなんだったんだ・・・と。そしてそれ以上に、花梨が座った椅子に意識を集中させていた。


「(タルト!頼むから動かないでくれ!!)」


椅子にかけたエプロンからちらりと顔を出したタルトに圭喜の目は奪われていた。

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