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第一章 名前(9)

ぼんやりとした意識の中、圭喜は瞼を開いた。頭を打ったのか?そう思いながら頭に手を当ててみた。

鈍痛の感じない頭を撫でながら上半身を起こそうとすると視界に一人の少女の姿が入った。


「・・・」

「あ・・・!」


少女は圭喜と目が合うと椅子から立ち上がった。そして圭喜の目の前まで来て圭喜の手を掴んだ。


「大丈夫ですか?痛くないですか?足は?捻ったみたいだし・・・私」

「・・・大丈夫、ここは?」


目の前で涙を浮かべているのはさっきのブレザー姿の少女だった。圭喜は呆然としながら寝転がっている寝台から上半身を起こした。周りを見渡せば、どうやらここは・・・


「医務室?」

「駅の構内の医務室です。わ、私・・・吃驚しちゃって、あの、階段から落ちそうになったとき・・・」


少女が一生懸命圭喜に説明しようと身振り手振りで話しをするのだが、そこで医務室内のドアが開いた。


「目が覚めたのかい?」

「・・・はい」


医務室に入ってきたのはどうやら常勤の先生らしい、圭喜はもう大丈夫だと先生にお礼を言った。


「私よりもキミをここに連れて来た青年にお礼を言った方がいいよ」

「青年・・・あ、そういえばあの痴漢」


思い出したように声を出した圭喜に先生はニコッと笑った。


「それもこの青年に聞きなさい」

「は」


先生がそう言って身を捩ると先生の後ろから二人の男性が顔を出した。圭喜はその顔を見てぴょいんっ!と飛び跳ねそうになった。なぜならそのうちの一人に見覚えがあったからだ。


「棗、さん・・・」

「久しぶり、ちょっと会わないうちにまた無茶をするようになったね」


知世子に似たチョコレート色の柔らかそうな髪がふわりと揺れた。圭喜はその様子を見て姿勢を正した。昔から棗さんに敵わないのは分かっているから、ついこうやって萎縮してしまう。


「あの、頭痛くないんですけど・・・階段から落ちた時、棗さんが受け止めてくれたんですか」

「いや・・・受け止めたのは俺じゃなくて」

「・・・俺だ」


今までむっつりと口を塞いでいた男が声を上げた。なにやら不機嫌そうだが、もしかして間違えたことを怒っているのだろうか?そうだったらなんとも心の狭い男である。

圭喜は「あ、そうだったんですか。ありがとうございます」とすぐに頭を下げた。


「で、なんであんな危ないことしたの?」

「え」

「そこの彼女に聞いたんだけど、階段の途中で男の服を掴もうとしたんだろ?軽く振り払われただけでバランスを崩したくせに、もし捕まえた拍子に男と一緒に階段から落ちてたらどうするつもりだったんだ」

「・・・えぇっと、そのときは捕まえようと思ってつい・・・」

「ついじゃない、今回は圭ちゃんが頭を打つ前にコイツが受け止めれたけど、それはたまたま俺たちが此処にいたからであって毎回そういうことがあるわけじゃない」

「・・・面目ない」

「捻挫じゃすまなかったかもしれないんだ、圭ちゃんは自分の力を過信しすぎ」

「はい・・・すいません」

「どこからその過信はくるわけ?圭ちゃん別に武道してるとか喧嘩慣れしてるとか全然ないくせに」

「・・・」


打ちのめされている圭喜はとうとう何も言わずに口を閉ざした。


「棗、まわりが驚いてる」


棗の隣に立っていた男が今までむっつり閉じていた口を開いた。


「圭喜、お前帰らなくていいのか?」


男の言葉に圭喜は顔を上げた。腕に嵌めた時計を見てみれば電車から降りて30分が経っている。


「!?」

「・・・圭喜?」

「あぁぁぁああ!!ごめんなさい、棗さんお叱りはまた今度!小倉と金時の迎えの時間が!」


医務室の寝台から立ち上がろうとした圭喜は激痛に一瞬、体を強張らせた。


「・・・圭ちゃん、キミ頭は打たなかったけど足は腫れ上がるくらい強く打ったんだから」


棗の言葉に圭喜は腰を抜かすともう一度寝台に座りなおした。

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