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第一章 名前(5)

「えーと」


圭喜は図書館に来ていた。圭喜の大学は図書館が充実していて館として独立している。その図書館は他の大学のものと比べても膨大な書物量の差があるのだ。来週の授業で使う資料をコピーしようと図書館に来ていた圭喜の後ろにはまだ後輩の山下がついてきていた。


「・・・山下、お前自分で資料くらい探せ」

「え、だって先輩と同じ授業なんだから一緒にやったほうが早いじゃないですか」

「お前がいると落ち着かないんだが・・・」

「オレは別に平気ですよ?」

「お 前 は なっ」


山下に悪気は無く、どこに向けていいのかわからない怒りのようなものを圭喜は手で追い払った。


「ふー・・・まぁ確かにそうだな、折角いるんだからこき使った方が早く終わるしな」

「そうですよ、それにオレも資料使うんだから先輩の使う資料見せてもらえてラッキーですし」

「それじゃあ分厚い奴、乗せてくぞ」

「はーい」


普段、生徒が使う本棚に並べられたものではなく、その奥にある書庫の方に向かった圭喜に山下はついていった。


「うちの大学こんなとこあったんですね・・・」

「入学式の後グループに分けられてここは通らされたと思うが」

「・・・そうでしたっけ?」

「はぁ」


圭喜はため息を吐いて鉄筋のみの書庫の中を歩いていった。床が格子状の鉄板のみで、正直もし圭喜が高所恐怖症だったら絶対入るものかと思うような場所である。床からは下の階が見えるのだから。


「これと、これとこれと・・・あ、あっちにもあったな確か・・・」

「うわ、分厚い」

「これもだな」

「はい」


高い場所からも軽々と本を取る圭喜はそのままその資料を山下の腕の中に置いていった。


「・・・とりあえずこんなもんか」

「ひい、ふう、みい、よう・・・七冊でいいんですか?」

「とりあえずな、必要なところはコピーするし、二階に下りようか」

「はい」


資料を腕に抱いた山下を連れて圭喜は階段を下りていった。





















「山下、悪いけどカバンから筆箱出してくれないか?」


明るい部屋まで戻った圭喜は机に置かれた資料をめくりながら山下にそう言った。筆箱の中には付箋が入っていて必要なページに貼り付けて後でコピーしようと思っていたからだ。


「あ、はい」


山下は圭喜の言葉に圭喜のカバンを開けた。そして手を突っ込んだ瞬間。


「ぎゃぁぁあああ!!!!」

「!!」


背後を振り返った圭喜が見たのは右手の指を押さえて尻餅をつく後輩の姿だった。


「山下、どうした!」

「え、なんか、え?か、噛まれました・・・?」

「は?」

「え、だって本当ですって!先輩のカバンに手突っ込んだら、なんかぷにぷにしたのに触れて、なんだろうって触ろうとしたらがぶっって!!」


そう言った山下の指は少し血が出ていた。そしてその傷跡を見て圭喜はぎょっとした。そしてそのままカバンを抱きしめた。


「先輩?」

「ちょ、お前こい!多分紙で切ったんだろ!このカバン、プリントたくさん入ってるし」

「え、でも・・・」

「傷口洗ってやるからこっち来い!」


圭喜はカバンと山下の腕を掴むとトイレの手前にある洗面所の中へ山下をつっこんだ。


「せ、先輩!オレ自分でできます!」

「いや、紙だからって舐めてたら痛い目にあうぞ!絆創膏もあるから大いに活用しなさい!」

「え、あ・・・はい」


圭喜が見た山下の傷口はどう見ても噛み痕だった。だがそんなことがこいつにばれたらなんでカバンの中に動物入れてるんですか?見せてください!という展開に持っていかれるような気がしたのだ。圭喜は山下の指を洗うと手を拭かずにそのまま絆創膏をまきつけた。さらに忠告もする。


「山下、治るまで絆創膏は取るなよ。もし取ったら傷口から指が壊死して取り返しのつかないことになるかもしれないぞ」


凄んで言ってやると山下はこくこくと縦に頷いてくれた。


そして圭喜はまた山下の腕を掴むと洗面所を出て行った。


「っていうか吃驚しました、先輩いきなり腕掴んで男子便所につれてくし・・・」

「紙を舐めるなよ、山下」

「あ、はい、すいません・・・」

「いや、プリントで手を切るかもしれないと忠告しなかったのは悪かった」

「はぁ・・・いや、でもオレも騒ぎすぎました、すいません」


そういえばここは図書館だったと圭喜はやっと気が付いた。今はほとんど人がいなかったので何も言われなかったがこれからは静かにしようと山下と圭喜はその場で見あって互いに口を閉じた。


ついでにカバンから筆箱を取り出すふりをして圭喜はチラッとカバンの底を覗いてみた。


・・・何で、いる?


カバンの底には先ほど山下から奪ったブルーベリーのタルトとそれをじっと見つめる、家に置いてきた筈の小人がいた。

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