開幕
最近、異世界転生というものが流行っているらしい。
リアルの流行には疎いが、二次元文化の流行を追いかけまくっているヤツの言うことだ。あながち間違いではないんだろう。そっち業界では。
個人的には全く興味がないが、口を開けば「あーあ、異世界転生できればワンチャンあるんだけどなー」なんてほざいている友人がいれば、嫌でも覚えるというものだ。
しかし、ファンタジーな世界観とはいえ、大枠は変わらないらしい。
言葉は通じて、人型の生物がいて……となれば、人間関係だってつきまとうだろう。
ならば、一体何が変わると言うのだろう。
勝利や名声、それらを得る手段が多少変わるだけ。チャンスは別に異世界に行かなくたってあるし、行ったから掴めるというものでもないはずだ。
自分でもつまらない意見だと思うが、友人にも言ってやった。こいつの言葉を否定するのが楽しみだったりするのだ。……友人?
ともかく、その言葉を聞いた奴は鼻で笑って、
「分かってないなー。異世界転生っていったらチートよチート!」
「チート?」
「最強の力をもらって転生するの!ほら、ワンチャンあるでしょ?」
……最強の力を貰えるなんて誰が決めたのだろうか。
大体、転生ってことは死ぬってことだ。
少なくともこいつが軽々しく言う類のことではないはずだが、深く考えてはいないんだろうな。
ため息を小さく吐いて、
「一回瞬きをしたら、似た別の世界に移動しているって考えて生きるのはどうだ?」
と冗談混じりに言うと、お返しとばかりに、やれやれといった芝居かかった動きで、「夢がないなー悟は」と笑った。
悟だけに、悟っているとはよく言われる。……どうでもいいな。
まあ結局、何を考えようとこんな話はなにも意味はなく、異世界転生なんて流行もいずれは下火になっていく。
そしてなにも変わらない日常が続いていく……。俺はそう思っていた。