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車のエンジンを掛けると、花咲君はカーナビに私のアパートの住所を入れた。案内が表示されたところで車を発進させた。
さて、困りました。会話が思いつかない。・・・というか、運転している人に話し掛けていいものなのだろうか。
そんなことをグルグル考えていたら花咲君が話しかけてきた。
「おとなしくなっちゃったけど、藤山さんはあまり車に乗らない人なの?」
「確かに乗ってないわね。というより車の免許は持ってないから」
「持ってないの。今のうちに取ろうと思わないの?」
「う~ん。東京で暮らすのなら車の免許は要らない気がするしね」
「大学を出た後も地元に帰らないつもりってことかな」
「まだ、そこまで考えてないというか・・・」
「でもさ、大学3年になるだろ。もう就活を考えているんじゃないの」
「どうしようか迷っているのよ」
「迷っているって何を」
「えーとね、院に進もうかと考えているのよ」
「院に? そうなんだ」
「花咲君は?」
「俺は就職するつもりだよ」
そんな感じで話しをしていたら、あっという間に私のアパートに着いた。大体1時間くらいだった。渋滞にはまらなかったのも大きかっただろう。
鍵を開けて部屋に入る時「お邪魔しまーす」と言って、花咲君は私の部屋に入ってきた。キョロキョロと珍しそうに見られて、何となく恥ずかしくなる。
「あまり見ないでよ」
「どうして? ちゃんと片付いているじゃん」
私は本とかを出しっぱなしにしていなくて良かったと思った。
「それで、俺はどうすればいいかな」
花咲に君に言われて考える。それで、まずはトートバッグを取り出して花咲君に渡した。
「ここにある食品を入れてくれる」
「冷蔵庫の中は?」
「それは他の持っていくものの支度が出来てからにしよう」
「わかった。・・・けどさ、なんで食べ物からかな」
「それはね、1週間は戻れないということは、忘れてしまったら次に来た時に大惨事になるからよ!」
私の言葉にを何を想像したのか花咲君が身震いした。
「そうだね。緑や黒ならいいけど、紫やピンクのふさふさに覆われたものなんか見たくないよね」
・・・お~い。そんなことを口に出すなー。想像しちゃったじゃないか!
「でさ、カップ麺や缶詰とかも持っていくの」
「そうね。持っていけるのなら持っていきたいけど」
「・・・じゃあ、もう、ここで食事はしないんだ」
花咲君が小声でなんか言ったようだ。私はこのまま持っていけそうなケースを出したり、チェストから中身を出したりした。
この部屋の中で一番大きいものは小型冷蔵庫。花咲君の車にはギリギリ入らないだろう。チェストは高さは大丈夫そうだったけど、奥行きが無理かな。そう私がそうおもっていると、後部座席を畳めば、かなりの物が積めるというのでチェストの中身を出しているのだ。他はほとんどプラスチックの収納ケースか、クローゼットの中に掛けていたから。
持っていく服の準備が済むと、お風呂場や洗面所から愛用のシャンプーや歯磨き粉を回収する。
花咲君と服やチェストを車に運び込みんでいたら、お隣さんと会った。お隣さんは他の大学の学生さん。花咲君を見て頬を染めた後、私を捕まえて訊いてきた。
「ちょっと。何よ。あんな超絶イケメンが彼氏なんて聞いてないわよ」
「違うから。彼氏じゃないのよ」
「じゃあ、なんで藤山さんの引っ越しの手伝いをしているの?」
「あー、その、まだ、引越しをするわけじゃないのよ」
「荷物を運んでいるのに?」
「えーと、猫の世話の手伝いをすることになってゴニョゴニョ・・・」
「あんた、とうとう猫のアルバイトを見つけたの~!」
ちょっとなんか誤解を生みそうな言葉なんですけどー。
結局彼女は簡単な私の説明に、猫愛が暴走したと解釈したようだ。まだ、完全な引っ越しではないと言ったら、なんかあったら(防犯面で)連絡しちゃると言ってくれて、私達は彼女に見送られて私のアパートを後にした。
アパートを出てそんなに行かないところで、私達は昼食をとった。私が行きつけの定食屋さんだ。学生にやさしいおばちゃんが、いろいろおまけしてくれるので有名なお店だ。花咲君はもちろん初めてで、おばちゃんにも彼氏と勘違いされた。私が必死に否定をしているのに、花咲君は笑っているだけで否定してくれなかった。おかげでおばちゃんに彼氏だと誤解されたまま店を後にすることになった。
花咲君の家に着くまで、戻る時も渋滞にかかることもなく3時30分には着いた。佳純さんが出迎えてくれて、荷物運びを手伝ってくれようとしたけど、それは丁重にお断りをした。
子猫の世話と佳純さんの荷物の片付けで疲れていると思ったから。花咲君と二人持ってきたものを私の部屋に運んだ。そこで気がついた。
「布団を持ってくるのを忘れた・・・」
花咲君も私の呟きに、あっという顔をした。二人して顔を見合わせて吹き出してしまった。
「えーとさ、じゃあ、次にアパートに行くまで、昨日使った掛け布団と毛布を使おうか」
「そうして貰うと助かります」
「でも、意外だったな。藤山さんはベッドじゃなかったんだね」
「移動が面倒じゃない」
「まあね」
私の荷物を運んだあと、花咲君は客間から掛け布団と毛布、それからシーツを持ってきてくれたのでした。




