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花咲君が話してくれたことに、私は頭を抱えたくなった。かなり割愛してくれているけど、きっとハイテンションで絡みまくったことだろう。それに私が2時に起きていたということは、花咲君も起きていたわけで、つまり。
「それって、花咲君もあんまり寝てないでしょう。起きたことだし私も手伝うよ」
「えー、いいよ。もう少し寝ててよ」
「いや、気になって眠れないから。お世話が終わったらまた眠らせてもらうかもしれないけど」
「ん~、分かった。じゃあ、お願いするよ」
そう言って花咲君と私は子猫の世話をするために、離れへと行ったのよ。離れに足を踏み入れたら、猫たちの熱烈大歓迎をうけた。花咲君はまず、成猫の子達のご飯の用意をした。
私はその間に子猫たちの所にいって、お湯を沸かした。そして、ミーミーなく子猫たちの排泄をさせた。4匹目の排泄が終わったところで花咲君がきて、哺乳瓶にミルクをいれて準備をした。私は5匹目の排泄を済ますと手を洗い、子猫を捕まえてミルクを与え始めた。
そういえばこの子達がどうして、花咲君のうちに引き取られることになったのか、聞きそびれたな。・・・というか聞いてもいいのかな。
ちらりと花咲君を見たら、目が合った。
「なに? 何か聞きたいことでもあるの?」
昨日と違って花咲君は、茶化すことなく話していた。
「えーと、この子達ってどうしたのかな~ってね」
「ああ、そうか。話してなかったか」
「まあね。聞いたのは佳純さんが拾って来たということかな」
「そうなんだよ。姉貴の悪い癖でさ、捨てられた猫のこと見捨てられなくてさ。条例が出来てうるさくなっているのに、まだ捨てる人っているんだよね。でさ、連れてきたのが3日前なの。もう転勤が決まっていたのに、信じられないことすんだよ」
「それは、花咲君のことを信頼してるからなんじゃない」
「だけどさ、こいつら目がほとんど明いてないだろ。ということはしばらくは4時間おきにミルクをやらなければならないじゃん。ちょうど年度終わりで春休みになる所だったから面倒見れるけど、これが普通に大学がある時だったらどうするつもりだったんだろ」
「・・・たしかに」
「だろう。それに一昨日の俺の様子をみて、誰かに手伝って貰えばとか言って、同居人の張り紙なんてするしさ」
「えっ? もしかして昨日張り出したの」
「そうなんだよ。姉貴が朝、仕事に行く前になんかガサゴソしていると思ったら、あれを書いていたんだ。それで『張っていくから誰か来たらよろしく』とかいっちゃってさ~。無責任というか、なんというかさ」
「そうだったんだ。でも、佳純さんなりに考えた結果じゃないのかな。やっぱり弟とはいえ花咲君に押し付けていくのが申し訳ないって思ったんじゃないの」
「・・・そう、思う?」
「うん。そう思う」
そう言ったら花咲君は黙ったの。チラッと見たら微かに頬を綻ばせて嬉しそうだ。そうか、お姉さんの気持ちが嬉しかったんだね。
私は黒ブチの真直ぐしっぽの子にミルクをあげ終わり、次は三毛の子を掴んだ。乳首を銜えさせる前に左手の小指を口の所に持っていった。子猫は指に吸いついてから、大きさと固さが違うと舌で押し出してピーピーと鳴きだした。すぐに哺乳瓶を近づけたら吸い付いて飲み始めた。
「藤山さんっていじわる?」
「そうじゃなくて、健康状態の確認の一つなの。猫にも適応されるか知らないけど、初めての母乳って大切なのよ。なんでも免疫を持たない赤ちゃんに抗体を提供するのですって。目が明かない状態で捨てられたのなら、初乳を飲んでいない場合があるのね。それに野良ネコもね、自分が育てられる子、もしくは生き残れる子しか育てないことがあるのよ。どういう基準か分からないけど母が保護をした子は、鳴き声がすごく小さな子に、乳首に吸い付きが弱かった子とかがいたから」
「えーと、じゃあ、藤山さん家にいる3匹がそうなの」
「うん。私と同い年の子は、私が産まれて家に戻った日に見つけたんだって。母は私に授乳しながら、子猫の面倒も見ていたから、よくフラフラになってたと父が言っていたかな」
「それは・・・大変だったとか?」
「母に言わせると大変ではなかったそうなの。ただ、なぜかどちらかが泣きだすともう片方もつられて泣くから、お世話の優先順位に困ったそうらしかったの」
また花咲君が黙ったので横目に見たら、なんとも言えない微妙な顔をしていた。心中が察せられて笑えて来た。
「そんな母だから佳純さんと同じように、捨て猫のことが放っておけなくて拾ってきていたら、父に説教されたそうなの。捨て猫が可哀そうなのはわかるけど、きちんと面倒が見れないのなら飼う資格はないと言われたらしいのよ」
「それはきつい言葉だね」
「でも、その頃の母の世話の仕方も悪かったのよ。庭に簡易倉庫をおいてそこを猫たちの寝床にしていたの。だから猫はあっちこっちに行き放題で、近所に迷惑をかけていたらしいのね。今は室内飼いが増えているけど、20年前じゃまだそんなになかったでしょ。母は父の言葉に無理やり家の中に押し込めるのは可哀そうって言ったのよ。でも、それからしばらくして、猫が車に轢かれて亡くなってね。それで母もやっとわかったのよ。そこから猫を飼ってくれる人を探したりするようになって、うちの猫の数は少なくなったのね」
「あ~、だから『命を舐めんな』なんだ」




