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昼の野菜炒めもそうだけど、夕食の料理も美味しかった。花咲君が言うには、主菜は最初は白身魚のムニエルにするつもりだったけど、一人増えたためにフリッターに変えたそうだ。それから、マカロニと海老のサラダ。これはブロッコリーと玉ねぎ入りで、茹で卵が添えてあって彩りもとてもきれいだ。スープは野菜たっぷりのミネストローネ。あとは他に漬物。
つい勧められるままいっぱい食べてしまった。また申し訳ないから、洗い物をやらせてもらった。今度は3人で片づけた。花咲君が食器を洗い、私が水で流し、佳純さんが布巾で拭いて食器棚にしまっていった。
片付けが終わったら佳純さんがある物をだして訊いてきた。
「ねえ、藤山さんは飲める人なの」
「あまり強くないですけど、少しなら飲めます」
「じゃあ1杯だけ付き合わない?」
「姉貴、藤山さんをこれ以上つき合わせるのは悪いよ。ほとんど1日この家にいたんだよ。部屋探し以外にも用事があったかもしれないのにさ」
「あら~、それはごめんなさい。私が待っていてもらってなんて言わなければよかったわね」
佳純さんの提案に花咲君が異議を唱えた。
「あっ、大丈夫です。他の用事はなかったですから」
「本当に?」
「ええ、本当よ、花咲君。私ももう少し佳純さんと話してみたいから、1杯いいですか」
花咲君が疑わしそうに訊いてきたけど、これは本当のことだもの。私は大学の位置の確認をしながら部屋を探すついでに、この近辺を歩くだけのつもりでいたの。3月の2週目の金曜日の今日は、私が受ける講義はない日だったから。それに明日は土曜だから、少しくらい歩き回って疲れてもゆっくりすればいいと思っていたしね。
佳純さんがワインボトルを持ち、私がグラス、花咲君はつまみにチーズとサラミをお皿に用意して、台所からリビングに移動した。
グラスに白ワインを注ぎ、軽くグラスを触れ合わせてから一口飲んだ。
「甘~い」
口当たりもよくて飲みやすいものだった。
「口に合ったのなら良かったわ。これはドイツのアイスワインなのよ。とても飲みやすいでしょ」
「はい。すごく飲みやすいです」
「そう。じゃあ、飲んで、飲んで」
飲みやすさにつられて1杯目を空けてしまったら、佳純さんにグラスにワインを注がれてしまった。断る間もなかった。なので、今度は少しづつ飲むことにする。
「それで~、私と話したいなんて嬉しいことを言ってくれたけど、何か聞きたいことでもあるのかしら」
「えーと、本当は花咲君でもいいんですけど、猫ちゃんたちのことです。全部で17匹って聞きましたけど、あの子達は全部花咲家の猫ですか?」
「あら、違うと思うの?」
「ええ。あの子達の様子がちょっと気になりまして」
「まあ~。流石ね。実は何匹か預かっているのよ。明後日2匹、引き取りに来るのよね」
「ちなみにどの子ですか」
「アメショの子達よ。私の友人が2週間の出張で留守にしてたから、預かっていたのよ」
「もしかして、ペットホテルをしてますか?」
私の言葉に佳純さんは笑い出した。
「そんなことしてないわよ。たまたま知り合いに頼まれたのが重なっただけよ。ほら~、祖父母の知り合いにも猫好きがいるから。ついでに両親の知り合いもね」
言われて見てればその通りよね。代々猫好きなら、猫好きの知り合いも増えるだろうし、猫のための離れを作ったって自慢していそうだしね。
私が納得して頷いていたら、佳純さんが花咲君に言った。
「そうそう俊哉、藤山さんと同居するためのルールを決めたらどうかしら」
「ルール?」
「そうよ。例えば、食事を作るのは当番制にするとか、他の家事も分担はどうするとかよ」
「それっていま決めなくてもいいだろう」
「あら、早い方が良くないかしら」
「大体いつに引っ越してくるのか決まってないのに、姉貴は先走り過ぎだよ」
「そうかしら。決まっていた方が楽だと思うわよ」
「藤山さんはどう思う?」
花咲君に話しを振られて、ワインを飲んでいた私はむせそうになった。慌てて口の中のワインを飲みこんだ。
「そうねえ~、家事の分担は一緒に暮らし始めてからでいいと思うけど、門限ってあるの」
私の言葉に佳純さんと花咲君は顔を見合わせた。
「門限はないわよ」
「じゃあ、消灯時間は」
「それもないよ」
「花咲君と同居することを他の人に話してもいいの?」
「出来ればやめて欲しいかな」
これは予測していた返答なので私は頷いた。そうしたら花咲君が顎に手を当てて、何かを考えだした。しばらくしたら顔を上げて私の方を見てきた。
「藤山さん、ルールというよりお願いなんだけど、この家に他の人を連れて来ないでくれるかな」
「他の人?」
「そう。例えば恋人が出来たとしても、この家には連れて来ないで欲しいんだ」
「花咲君も同じって事」
「俺も連れてこないから」
「・・・同じ条件ならいいよ」
「えーと、恋人って言ったけど、友達もだよ」
「他の人に話せない時点で友達を呼べるわけないでしょうが!」
「あっ!・・・そうだよね」
そう言って花咲君は笑ったのでした。




