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ウォルヴァンシアの王兄姫~蒼銀の誓いと咲き誇る騎士の花~  作者: 古都助
~アレクディース・恋愛本編ルート編・第五章~
42/70

災厄の大神殿、騎士の憂鬱

 ――Side アレクディース


「そ、ソル様……、天上に一体何の用が……」


「用があるからに決まっているだろう? ほら、さっさと来い! 大事な瞬間を見逃してもいいのか?」


 枯れ果てていたはずの風景。

息を吹き返し始めた、かつての楽園……。

俺の前を行くのは、ユキの神としての父親。ソル団長こと、ソリュ・フェイト様だ。

 夜更けに騎士団で仕事をしていた俺を問答無用で連れ出し、鍛錬場で始まった剣術の手合わせ。

 二時間程続いたその時間だったが……、まるで、時を待っていたかのように、ソル様は俺を連れてこの天上へと訪れた。何の理由も、目的も教えずに、だ。

 こっちは手合わせのせいでボロボロだというのに……、ソル様の身体には傷ひとつ付いていない。

 実力の差は元からわかっていたつもりだが……。果たして、あの手合わせはただのそれだったのだろうか? 前を行くソル様の背中に不安のような感情を覚えながら、俺の足取りは重くなる。

 小さな白い花が夜風に踊る小道……。もう少し歩けば、まるで壁のように連なった小さな森が見えるはずだ。天上の神々が滅多に近付く事のない……、その先に佇む、禁忌の象徴。

十二の災厄を封じた、ファンドレアーラ様の眠る大神殿。

 天上において、存在そのものを忌まれ続ける……、災厄の揺り籠。

 外観は美しい純白の荘厳な作りとなっているが、中に在るのは、世界を滅ぼす程の力を秘めた災厄。愛する男神を失い、悲しみと絶望に支配され……、狂気に侵された女神の想いが眠る場所。

 ソル様の後に続き、小さな森の中を進んで行った俺は、大神殿のすぐ近くで足を止められた。

 肩を押され、木陰に身を隠すように押し込まれる。


「ソル様、どうし……、あれはっ」


 理由のわからない行動に抗おうとしかけたその時、大神殿の入り口付近に人影を見つけてしまった。月明かりに照らされながら、注意深く周囲の様子を窺っている少女の姿。

 

「ユキ……、ユッ、ぐぁっ!!」


 ここにいるはずのない、ウォルヴァンシアの王宮で眠りに就いているはずの、愛おしい少女。

 柔らかな蒼い髪を揺らして大神殿の中に入っていたユキ。

その後を追って俺が駆け出そうとした瞬間、ソル様が問答無用で俺に強烈な手刀を叩き入れた。……な、何故、こんな理不尽な扱いを……っ、ぐぅっ。


「アレク……、いや、アヴェルオード、空気を読め」


「く、空気……、ですか? しかし、ユキが……っ」


「はぁ……。その行動を読んでいたからこそ、お前を連れてきた……。そうは思わないのか?」


 呆れ気味に頭を撫でまわされる。ソル様からすれば、俺はエリュセード神族を束ねる御柱というよりも、いつまでも手のかかる子供、と言ったところか。

 だが、ソル様が行動を読んでいたという部分には安堵を覚えるが……、ユキの目的は何だ?

 こんな夜更けに、誰の付き添いもなく一人で……。俺にも、頼ってくれずに……。


「で、今度は勝手に落ち込むのか? お前は……」


「も、申し訳、ありません……」


 その場に蹲り打ちひしがれている俺に、ソル様がやれやれと手を差し伸べてくれる。

 気恥ずかしさを覚えながらよろよろと立ち上がった俺の肩を叩くと、父のように慕っている原初の神が古の言葉で詠唱を紡いだ。

 ソル様の胸の中心から小さな光が生まれ、薄桃の色合いを纏ったそれがひとつの紋様、いや、紋章の形となってゆく。これは……、この、気配は。

 やがて光はソル様の両手のひらの中心で輝きを増し、ある姿を形作った。


「はぁ~い!! レヴェリィちゃんをお呼びかな~?」


「…………」


 ソル様の目の前に現れた、……やけにテンションの高い少女、いや、子供、か。

 白銀のふわっふわとした印象の長い髪と、ジャンルで言えば、プリティ系に分類されるだろう装いに身を包んでいる子供が、満面の笑みで俺を見上げてくる。

 一瞬呆気に取られた俺だが、頭で理解するよりも先に……、自分から膝を折っていた。

 ただの子供の姿で目の前に在っても、神である自分にはわかる。

 神として生まれた本能が、――畏怖と、惜しみない敬意の念が全身を包み込む。


「無礼をお許し下さい。原初の神よ」


 ソリュ・フェイト様と同じ、はじまりの世界を創造せし存在。

 顔を合わせた事さえないのに、それが誰なのか、俺にはすぐにわかった。

 原初、はじまりの十二神が一人、双子神の片割れ、レヴェリィ様。

 はじまりの世界が終焉を迎える際に死したと聞いていたが……、の神は俺の目の前に在られる。永き時を経て、ソル様と同じように復活されたという事なのだろう。

 レヴェリィ様は頭を下げている俺を見つめた後、「きゃはっ」と、ハートマークが付きそうな笑いを零して俺の顔を覗き込んできた。


「いいっていいって~!! レヴェリィちゃんは仲良しスタイルの方が好きなんだもん!! ほらっ、立って立って~!! ふふ、嬉しいなぁ。今までは見てるばっかりで退屈だったんだもん」


「は、はぁ……」


 ソル様とは赤ん坊の頃からの縁で接し方は緩いが、この方も別の意味でまた礼儀や立場を飛び越えてくるタイプだな……。

 立ち上がった俺に、レヴェリィ様が好奇心に満ちた瞳で手を差し出してくる。


「改めまして!! 僕は十二神が一、創夢そうむのレヴェリィ。あ、創夢っていうのは、はじまりの世界にいた子達がイメージ的な意味合いで付けてくれたんだ~。ほら、僕ってすっごく可愛いでしょ? 皆に夢を与えるアイドル的存在っていうか、笑うだけで皆を幸せに出来る天使っていうか~。皆よくわかってるよね~」


「またの名を、怨獄のレヴェリィという……。見かけに騙されると痛い目を見るぞ」


「ちょっ!! 何ていう事言うのさ!! ソル兄様のバカぁああああっ!!」


「ついでに補足してやると、これはオスだ」


「はぁ……、そ、そう、ですか」


 ……女だと思っていたんだが、どうやら違ったらしい。

 本来の姿は大人の青年体だそうだが、詳しく探らない限りは美少女と評するしかない愛らしさをしている。ソル様の腰にしがみつき怒っているレヴェリィ様だったが、俺の視線に気付いて我に返ると、地面へと飛び降りた。


「ごめんね~。表に出るのが久しぶりすぎて、ちょっとはしゃぎ過ぎちゃったよ! さて、じゃあ行こうか。頑張ってお仕事しちゃうよ~!!」


「ふぅ……。張り切り過ぎて神殿を破壊するなよ」


「ふふ、僕がやりすぎちゃわないように、頑張って見張っておいてね~!!」


 つまり、暴れない保証はない、と……。

 格上の、それも原初の神に対して無礼だとは思うが……、一体、中で何が起きるというんだ?

 まるで、……残された災厄が目覚めるとでも言いたげな気配だ。

 そして、先程中に入って行った彼女の目的が不明なのも、俺の不安を酷く掻き立てる。

 

「行くぞ、アヴェルオード。ユキの目的に関しては歩きがてら教えてやる」


「はい……」


 先に一人で大神殿に向かい始めたレヴェリィ様を追い、俺達も森を抜けて行った。

 


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「シルフィールが……、災厄を利用している?」


「そうだ。元は番人二人が募らせてきた怒りと恨みの情に抗えず、天上の神々を滅ぼす為に立てた計画だが……。その過程で、裏切りが起きた。おのが理性の糸を結びなおしたユシィールが、計画の中断をシルフィールに伝え、そして」


 その裏切りを許さなかったシルフィールが、片割れのユシィールを災厄の力によって洗脳。

 エリュセード神族の戦神であった男神を操り、ディオノアードの鏡を持ち出した……。

 入り組んだ巨大迷路のような大神殿の中を進みながら聞かされた、当時の真実。

 ソル様が滅びた後、エリュセード神族がユキ達家族に対して行った仕打ち。

 愛する者達を奪われた二人の番人は、大神殿を守りながら必死に自分達の心を抑え込み、主から命じられた役目を果たそうと耐え忍んできた。

 だが、眠りに就いたユキとレイシュ・ルーフェの神器を壊そうと行動を起こした神々との件が決定打となり、二人はエリュセード神族への報復を心に決めた……。

 そのひとつが、ディオノアードの鏡の解放。そして、それは始まりにしか過ぎなかった、と……。

 

「まぁ、仕方ないのかもね~。誰だって、すぐ近くに不幸の種があったら、根こそぎ毟り取りたくなるもんだよ。だけど……、眠ってる相手に問答無用で襲い掛かる算段を立てるとか、僕は卑怯だと思うな~」


「申し訳……、ありません。ユキとレイシュの神殿に侵入した賊に関しては、俺達の落ち度が大きく……。エリュセード神族を束ねる者として、不甲斐ない醜態を晒しました」


「あぁ、君を責める気なんて全然ないから、いいよいいよ~。ソル兄様がエリュセードの記憶を読んだ時に僕も視たからさ。ただ感想を言っただけ」


「はい……」


 何故、災厄の女神に連なる者達を放置しておくのか。何故、神器を破壊し魂を回収した上で封印を行わないのか。エリュセード神族の中には、そう訴える者が多かった。

 その度に言い含めてきたつもりだったが、事態は悪化するばかりで……。

 ユキとレイシュの神器を破壊する為に神々の一部が神殿に入り込んだ際、とある神が知らせてくれなければ手遅れになるところだった。もし、ユキ達を手にかけられていれば……、きっと俺は、また過ちを繰り返していた事だろう。

 御柱としての己を捨て、愛する者を奪おうとする外敵を容赦なく手にかける……、そんな、狂神に。


「それに、ソル兄様だけじゃなく、ファンドレアーラにも救われていたって事、知らないから暴走しちゃえたんだろうしね~」


「レヴェリィ様? それは……」


「ファンドレアーラ、あの子が全部引き受けてくれなかったら、今頃エリュセードは時空のどこにも存在してなかったよ。それどころか、ソル兄様の娘……、セレネ、あ、今はユキだったね。ユキを取り込んで、全ての世界を飲み込んだだろうし」


「――っ!! どういう……、事、ですか?」


 ファンドレアーラ様は、ソル様を失った悲しみと絶望で災厄の女神になったんじゃないのか?

 十字路となっている分かれ道で足を止めた俺は、内側から凍り付くかのような心地でレヴェリィ様とソル様を見る。


「ファンドレアーラが災厄の女神となった時、変には思わなかったか……? 何故、災厄の女神をエリュセード神族だけで封じ込める事が叶ったのか、と」


「……それは」


「当時は必死だったから深く考えなかった~。ってとこかなぁ?」


「……はい」


 レヴェリィ様の愛らしい顔に、その瞳に、鋭い光が揺らめく。

 当時、俺達御柱と、力の強い神々を総動員して封印にあたった。

 その中には、レイシュの姿もあったが……。

 災厄の女神……、その存在となったファンドレアーラ様は、生まれたばかりの雛のようなものだった。おのが在り方を知らぬ、脆く不安定な存在。

 本来の力を発揮される前に事を成したからこそ、災厄の女神は十二の形を取って鎮められた。

 だが、……本当は、違っていた、と。思い当たった考えと共に、目を見開く。


「まさか、災厄の女神となる事は、ファンドレアーラ様の意思だったと……、そういう事ですか?」


「正解~! 君と弟君は知らないだろうけど、姉神のフェルシアナは本人から聞かされてたんだよ。自分が災厄の女神となった時の対処法と、ユキ達のこれからを頼む、ってね」


 ファンドレアーラ様の身の内に災厄の種が埋め込まれた事を知ったのは、あの方がその存在となった、あの晩。姉のフェルシアナは、誰よりも早く動いていたように思う。


「何故……、姉は俺達に何も言わず」


「ばっかだなぁ。話を君達にまで広めちゃったら、どこかでボロが出ちゃうでしょ? それに……、話にはまだ続きがあるんだよ。ね? ソル兄様」


 壁に背を預けたソル様が、その美しく精悍な顔を俯けながら頷く。


「当時……、いや、今でさえ、災厄の女神の娘だと忌まれているユキが、――はじまりの世界を滅ぼす災厄を生み出した母胎だと知られぬよう、ファンドレアーラはフェルシアナに真実を打ち明けた。災厄の女神となる自分に目を向けさせ、ユキを守る為に」


「ユキが……、災厄の母胎? ですが、はじまりの世界が滅びたのは、彼女が生まれる前の事では」


「ユキは元々、セレネフィオーラと呼ばれる女神だった。俺達十二神が生んだ眷属とは違う、紅の石より生まれた者」


「言っとくけど、セレネは被害者だからね!! 僕達の許しもなく勝手に生まれた災厄の種に寄生されて、とんでもない目に遭ったんだから!! だけど、当時の事情を知らないエリュセード神族に知られたら、確実に酷い事やらかしてくれそうだから黙ってるんだよ!!」 


 はじまりの世界が滅びた真実を、歩みを再開させた俺はソル様達から聞かされた。

 母胎となったユキ……、いや、セレネフィオーラという女神から生まれた災厄。

 神を介して生まれる、世界を喰らう侵食者。はじまりの世界に在る命を枯らし、十二神をも凌駕した……、災厄の女神よりも厄介な存在。


「何故……、ユキばかりが、そんな」


「これは……、推測でしかないが」


「ソル様?」


「災厄の種は、他にも神々がいたにも関わらず、セレネフィオーラを母胎として選んだ。まるで……、子が母を求めるように、待ち侘びていたと言わんばかりにな」


「だから、僕達は思った。石から生まれたセレネは、偶然選ばれたんじゃない……。元から災厄の種と出会う為に、母胎となる為に生まれた存在だ、ってね」


「そんな馬鹿な事があるわけないだろう!!」


 おぞましい事を平然と口にする神に、俺は激昂した。

 相手が口を聞く事さえ恐れ多い存在であろうと、弁えなければならない礼儀があろうと、ユキを災いの根源であるかのような話を持ち出した二人の神に、怒りを抑える事が出来ない。

 だが、ソル様もレヴェリィ様も、表情を変えずにこう言った。


「セレネの中から孵化した災厄がね、言ってたんだよ。……『この女神は私の為に在る。出会う時をずっと待っていた』ってね。僕も最初はそんなの嘘だって否定したよ。でもね、後から考えてみれば、セレネの生まれには謎が多かった。だけど、神の生まれに意味を問う事なんて無意味な事だから、深くは考えなかったんだよね」


「だが、仮にそうだとしても、俺達はセレネを守りたいと願った。だからこそ、ファンドレアーラもまた、ユキを守る為に自身を犠牲にする事を受け入れた……。俺が天上に還る、その時を待ち望みながら、な」


「そ・れ・にぃ~、君達エリュセード神族はまだまだひよっこだからね!! ファンドレアーラは、君達を守る為にも、一人で災厄の種を引き受けて、孵化の時も必死に水面下で自我を保って封印まで導いた。もし、あの子がいなかったら……、多分、フェルシアナ辺りが寄生されて、エリュセードはバッドエンドを迎えていただろうね。フェルシアナじゃ、ファンドレアーラみたいな芸当は出来ないから」


 ソル様が俺達御柱よりも強大な力を抱いているのは周知の事実だが、ファンドレアーラ様もまた、同じ存在だった。普段はその力を揮う事が少なく、あまり知られてはいなかったが……。

 負の力に翻弄され、絶望に追い込まれた過去を持つファンドレアーラ様だからこそ、その力と共に封印を成す事が出来たのだ。教えられるまで、何故……、気付けなかったのか。


「真実を知らなかったから、守られていると知らなかったから……。だから、災厄の女神となったファンドレアーラを蔑み、嫌悪し、エリュセード神族はその家族までも追い詰めた。一部の神々はちゃ~んと真実を探る為の頭を働かせていたっていうのに」


 それが、ユキ達家族を守ろうと心遣いを見せていた、一部の神々。

 真実に辿り着けずとも、彼らは災厄に怯えている神々に説いていた。

 自分達がどれだけ、ソリュ・フェイト神とファンドレアーラ神の恩恵を受け、守られていたか。

 たとえ災厄の女神と成り果てようとも、の女神を救う為の方法を探すべきではないのか、と。だが、恐ろしい光景を見せられてしまった神々にその心は届かず……。


「エリュセード神族の在り方が、逆にこのエリュセードを窮地に陥れた……、という事ですね」


「そうなるね~。ソル兄様が還ってくるまで大人しくしててくれれば……、何も起きなかったと思うよ? 二人の番人がブチ切れて、災厄を利用しようと考える事もなかっただろうし」


『悪しき存在モノ』との戦いの折、持ち出されたディオノアードの鏡は、その混乱に乗じて種を放った。このエリュセードの各地に、災いの産声を。

 そんな恐ろしい瞬間を招いてしまったのは……、恋情に狂い、ユキを眠りに就かせた俺だ。

 俺が彼女を愛し、身勝手な嫉妬に狂っていなければ……。

 災厄の女神はファンドレアーラ様でも、ましてやユキでもない。――俺だ。

 手のひらを爪が食い込む程に握り締め、俺は奥歯を噛み締める。


「……っ」


 最低最悪の自分を呪い、怒りの声でこの心を八つ裂きにしても……、俺は、ユキを愛する心を捨てられない。恋情に狂う自身の危うさを消し去る為に、その心を封じる神達のように、正しい道を、俺は……っ。


「あ~、なんかものすっごく苦悩しちゃってるね~、その子。最早、シリアスなのか、ギャグなのか、僕にも全然わかんないよ」


「気にするな。ユキの事に関してのみ、そいつはメンタル激弱の残念な子になる仕様だ」


 無意識に狼の姿に変じ、その場で己の浅ましさと、どうしようもなさに苦しみながら転がりまわっている俺に、偉大なる二神が哀れみの目を注いでくる。

 見ないでくれ……っ。頼むから今の俺を見ないでくれ……っ!!

 全力で罪悪感に苛まれながらも、ユキの事を諦められないクズで情けない俺を!!

 中々立ち直れずに転げまわっていた俺だったが、その時、大神殿の奥から大きな爆発音が聞こえた。これは……、ユキの力の気配?


「うわぁぁ……、やっぱりこうなっちゃったか~。ソル兄様……、と、そこのわんちゃん、急ぐよ。早くしないと、ユキにこの大神殿を壊されちゃう」


「ほら、行くぞ。アヴェルオード」


『うぐぅうっ!!』


 伝わってくる不穏な気配に気付き、人の姿に戻ろうとした俺の首に出現した真っ赤なトゲトゲの首輪。それから繋がっている鎖をソル様が鷲掴み、全速力で俺を引き摺って奥へと向かう。

 

『ぐ、ぐるじぃっ!!』


「我慢しろ!!」


 いや、そんな問題じゃない!! 本気で首がっ、俺の首がっ!!

 だが、偉大なる原初の父に俺の訴えは受け入れて貰えず、情けなく響き渡る俺の悲鳴は、大神殿の闇に溶けていった。

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