13.行動
所々外灯の消えている通りは見通しが悪く傍らでは人であったものが蠢き呻き声を上げている横を一台の車が走り抜けていった。
一樹は数少ない外灯とヘッドライトを頼りに停まっている車等を避けながら目的に向かって走っていた。
そのころ正志の家では...
「あいつどこ行ったんだ?外も粗方見て回ったけど見あたらなかったぞ。」
隆は息を切らしみんなのいるリビングに走ってきた。呼吸を整えながら言うがもうそこには一樹はいないのだった。
「離れにも道場にもいませんでした。」
正志も幾分遅れて戻って一樹がいないのを告げると一同沈黙を介していると梨乃が口火を切った。
「もしかして一人で...」
皆同じ考えだったがまさかと思い誰も言わなかったが梨乃が言った事で隆が声を荒げ言った。
「正志!車あるか!?」
「えっ!?あ...裏門の所に停めたままですけど。」
「違うお前の家のだ!あのバカ多分一人で行きやがった。」
「まさか!?」
正志は愕然とするなか一同が隆に目を配ると隆は荷物をまとめ始めていた。
「ガレージに行けば車あるけど、本当に一樹さん行っちゃったの!?」
莉奈が隆に聞くが隆は黙ったままマガジンに弾を込めていた。
「自分も行きます!」
「私も!」
正志と梨乃が隆に言うが隆は眉間にシワをよせ息も荒く黙っていた。
「隆さん!聞いてるんですか!?」
「うるせぇ!!」
正志は隆の肩に手をかけて言うと隆は怒鳴りその手を強引に払いバックを手に持ちその場を飛び出し玄関を出て行ってしまった。
「隆...」
梨乃は小さく呟くとどうしていいのか分からず壁に寄りかかり力なく座り込んだ。
「莉奈!梨乃さんを頼んだぞ!」
正志もそう言うと自分の荷物をバックに適当に詰めるとその場を後にした。
「お兄ちゃん!何処行くの!」
莉奈の叫び虚しく正志には届かず走って行ってしまった。
「みんなバカよ...なんで他の人の気持ちもわからないで...」
梨乃は座り込んだまま泣き崩れてしまった。そこに莉奈が手を取り梨乃に言った。
「梨乃お姉ちゃん行こう!」
梨乃は手を引かれ何処に連れて行かれるかも分からず莉奈について行った。
その頃裏門には隆が着いていた。コルト・ガバメントを手にし閂に手をかけ外すとゆっくりと扉を開け外を覗いた。
車を停めていた場所にはもう車は無くかわりに数体のゾンビが力なく蠢いていた。
「くそ!やっぱ一人で行きやがった!」
隆は車が無いことを確認すると扉を閉め閂をかけた。すると後ろに人影が映りコルト・ガバメントを向けるとそこには正志が立っていた。
「やっぱ車なかったんですか?」
隆はコルト・ガバメントを下げると黙ったまま頷いた。
「じゃぁ早く急ぎましょう急げば一樹さんに追いつくかも!」
「車は?」
「表門の横のガレージにあります、急ぎましょう。」
正志を先頭に走り出し二人はガレージに向かった。ガレージに着くとそこには梨乃と莉奈がいた。
「莉奈!梨乃さんを頼むって言っただろ!」
莉奈は上を向いて聞こえていないふりをしていてその横には梨乃が黙って立っていた。
「そんな事より車はどこだ!」
隆は梨乃を一目見ると隆に視線を戻し言うと、正志はガレージの扉を開けた。
「あれです!」
そこには軽自動車があり奥にはシートを被った車があった。
「この際わがまま言ってられないからな、鍵は?」
隆は軽自動車に近づくと正志が隆を呼び止めた。
「隆さんどうせならこれなんてどうです?」
正志は奥にあったシートを一気に捲るとそこにはレースにも使われるGT-R32だった。
「この家に合わない車だな。」
「父さんが免許取れたらお祝いで買ってくれたんですよ。軽よりも幾分マシだと思いますよ。でも壊さないでくださいね。」
正志は鍵を出し隆に渡すと助手席に自分のバックを積もうとしたが隆がそれを止めた。
「正志、お前は一緒には連れて行けない。」
「なんでです!?連れて行ってくれるって約束したじゃないですか!」
正志は隆に近づきながら言うがた隆はそれを無視するかのように運転席側のドアを開けた。
「何がなんでも一緒に行きますからね!」
正志が言うと隆は急に振り返り正志の頬に右拳を打ち抜いた。
正志は後ろに吹き飛びながら倒れると莉奈が正志に走り寄り隆に叫んだ。
「おじさん何するのよ!」
莉奈が正志の口から垂れる血を持っていたハンカチで拭った。
「正志...お前には守らなくちゃいけない人がいるって言ってただろ?それは嘘か?」
正志はそれを聞いてふらつきながら立ち上がって言った。
「嘘じゃないですよ...」
隆は正志に近づくと急に胸倉を掴んだ。
「じゃぁお前は俺と一緒に行ってどうやって家族を守るんだよ!!」
隆は大声で怒鳴った。するとガレージの表側のシャッターが激しい音を立てて叩かれた。
「くそっ!大声出しすぎたか...まぁだからそうゆう事だから正志お前は残ってここを守れ。」
隆は胸倉を掴んでいた手を外しながら言うとシャッターに近づき隙間から外の様子を伺っていた。
「隆さん...死んだら絶対許さないっすからね!」
「あぁ約束するよ、あのバカ連れて必ず帰ってくるよ。」
その時隆の携帯の着信音が鳴り響いた。
「ん?信からだ!」
メールを開くと同時にピーッとゆう警告音と共に電源が切れた。
「こんな時に充電切れかよ!かと言って充電してる暇もねぇし。」
隆は携帯を握り締め自分のだらしなさに腹が立った。
「隆...」
梨乃が閉ざしていた口を開いた。
「どうした?」
「やっぱり私も一緒に連れてって...ううん私も行く!」
先ほどまで落ち込んでいて一言も喋らなかった梨乃が急に言ったので隆は驚いて何て言っていいのか分からず呆然としていた。
「やっぱりおじさん一人じゃ一樹さん助けれるか分からないから梨乃お姉ちゃんが一緒に行った方が安心かもね。」
莉奈が言うと隆は我に返り言った。
「ダメだ!みんなここにいるんだ、一樹は俺が連れて帰るから待ってるんだ!わかったな!」
隆は車に乗り出ようと思ったがシャッターを開けてしまうと中にゾンビが入ってきてしまうと思い考えて言った。
「正志、シャッターはどうやって開け閉めできるんだ?」
「外と中の両方にシャッターの横にBOXがあってそれで開け閉めするんです。あとこのカードリモコンでも出来ますけど。」
隆は少し考えて言った。
「お前らは庭に出て俺が合図したらシャッターを開けてくれ、それで俺が出ていったらまたシャッターを閉めて中に入られるゾンビを最小限にするんだ!正志出来るな?」
隆はそう告げると車に乗りエンジンをかけ何度かアクセルを踏んで調子を確かめていた。
すると助手席に梨乃が乗り込んできてシートベルトを締め始めていた。
「ダメだって言っただろ!今度こそ無事に帰れないかもしれないんだぞ!」
「それは隆だって一緒でしょ、私だって何かの役に立ちたい!隆と一樹がいなかったら今私はここにいないんだもの。だから一緒に行かせて。」
隆が正志に振り返り同意を求めようとしたがもう正志と莉奈は扉の所に移動していた。
「おじさん、もうここまで来たら一緒に行かなくちゃ男じゃないんじゃない。」
「隆さん、梨乃無事で帰って来てくださいね。三人の帰り待ってますから。」
隆は呆気にとられ梨乃を横目で見て考えていた。
「だってさ、宜しくね隆。」
「本当に危険なんだぞ!梨乃の事守りきれないかもしれないんだぞ!それでもいいのか?」
「うん、分かってる。何かあった時は今度は私が二人を助けれるようにがんばる。」
梨乃は隆を真っ直ぐに見て答えると隆はハンドルを力強く握ると叫んだ。
「正志!こっちは準備OKだいつでもいいぞ!」
正志は扉を開け庭に出ると持っていたカードリモコンのUPボタンを押した。すると機械音と共にシャッターが動き始め下から徐々に外の景色が見えてきた。
そこには先程までシャッターを力いっぱい叩いていた物の姿が見えてくると同時に車はタイヤをスピンさせながら目の前のゾンビを跳ね飛ばしながら颯爽と飛び出して行った。
それを見送った正志はすかさずカードリモコンのDOWNのボタンを押すが中に数体入ってきてしまい持っていたコルト・ガバメントで頭を狙って打つが後ろの狙いはそれて壁に当たり何度か発砲するが肩に当たったりで致命傷にはならずゾンビの進行を止められずいると降りてくるシャッターに一体のゾンビを挟んでしまい途中で止まってしまったため大勢のゾンビの進入を許してしまった。
正志は庭に出て扉を閉め鍵をかけるが何かバリケードをしないと長くは持たなそうだった。
「一樹さん...隆さん...俺じゃ二人みたいになれないのかなぁ...」
正志が一人で愕然とし肩を落としていると莉奈が正志の背中を音が響くほど叩いた。
「痛っ!何すんだよ!」
「何すんだじゃないでしょ!おじさん達帰ってくるまでここは乗り切らなくちゃダメなんでしょ!私もお父さんもお母さんもお兄ちゃんが頼りなんだからしっかりしてよ。」
気丈に振舞って強がってはいるが足元は小刻みに震えているのが見え正志は莉奈を抱きしめた。
「ごめんな、俺がしっかりしなくちゃいけないんだよな、莉奈の方が怖いよな。でももう大丈夫だ俺が守るから。」
「うん。」
莉奈は正志の胸に顔を埋め抱きしめ返していた。
「よし、何かここを塞げる物探してこなくちゃな。手伝ってくれるか?」
「もちろん。」
二人は物置等にバリケードが作れるような物を探しに行った。
かなりのスピードで走り抜ける車には隆と梨乃が乗っていて一樹の向かっていった第一総合病院へと後を追った。