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第一章 青い闇 5

ドアから出てきた彼を迎えたのは一人の女性だった。

「リーダーに任務の話を聞いたのですか?聖馬さん」

高校にスパイとして入学することとなった彼を聖馬と呼ぶ女性は二十代前半なのだろうか。いや、二十代前半だ。断定した理由は、同じグループに属している人のプロフィールくらい覚えてから。ちなみにリーダーと呼ばれた支部長は四十九だ。この年でオサレスーツを着るとはなかなかの根性である。目の前にいる女性は同じく黒いスーツを着ている。だが決してリーダーのようなオサレスーツではない。一見OLの様だが、彼女も立派な闇組織の構成員の一人なのだ。漆黒の髪を後ろでまとめて結っている女性は彼の訓練士権事務員である。

「はい。入学する高校や、そこでふるまうべき行動、演じる性格、運動能力、学習能力等の制限に関するマニュアルも頂きました。」

行儀よく答えた聖馬は片手をあげて見せる。そこには黄色いタウンページをそのままコピーしたような冊子が握られていた。

さすがスパイといったところか。性格や学習能力等までが細かく決められている。普段の自分素の自分では過ごす事が出来ないのだ。友人も決められた相手としか作ってはいけない。細かい点は後日渡される通信用極小無線機にてリアルタイムに指示を受ける。ホント、学校生活もクソもない。アイドルのように恋愛禁止なのだから。

「そう、いい学校生活をね」

といって笑顔でにこにこ笑いかけてくる。ニコニコニコニコ。皮肉にしか思えない。きめられた動きしかできない学校生活など楽しめるはずがないのだ。だが、面と向かって文句を言える度胸を聖馬は持っていない。なぜなら今、目の前で聖母の如く笑っている女性は訓練時となると一変、織田信長の後ろに立てかけてある屏風にいるトラのようになるのだ。ガオーと。毎回取って食われないように真剣に訓練を受けざるを得ない。だから、聖馬は不満をのみこんで大人になる。

「ありがとうございます。」

のみこんで胃の中で変換された不満は感謝の言葉となって口から出てくる。彼女は満足したように頷き、笑顔を向けた。

「私も貴方の通信士となってサポートするわねっ」

ニカッと向けられたレーザー・・・いや白い歯に眩んだのかめまいを起こす聖馬。事前に無線機にて逐次指令を受けるのは聞いてあったが、まさか通信士に彼女が採用されるなんて。彼女じゃなければ比較的に自由な行動がとれたかもしれないのに。訓練士兼事務員兼通信士と言ういかにも多忙さが窺える職業数だが、それは仕方がない。なぜなら、闇組織に属しているこのグループは構成員数が三人なのだ。つまり、リーダーと訓練士兼事務員兼通信士の信長のトラと聖馬の三人だ。闇に潜む組織のため人手が十分ではない。バイト募集のチラシを電柱に貼るわけにもいかない。というか貼るだけの人手すらない。だから多忙なトラの手も借りたい。同じ猫科だし。

「忙しくなりそうですね。ご迷惑をおかけします」

こちらが迷惑してるんだぞ、という心の叫びはやはり呑み込み、百八十度回転した笑顔と言葉で軽くねぎらいと謝罪の言葉を言う。取り繕った感はないはずだ。思えばこの取り繕いがばれてスパイにスカウトされたのではないかと思えてくる。

「そうですね。いまから大工仕事が残っているのでこれで失礼します。マニュアルは全部読むんですよ。」

そういってヒールをコトコトいわせて速足で去ってしまう。だがこの速足が異常に早い。さすが訓練士。いまから大工仕事をしに行くと言っていたが新しいスペースでも掘って通信部屋を作ろうと言うのか。なにせ地下のここは学校のグラウンドをいくつ作っても誰も文句は言わずそしてだれも家賃の請求に来ない。まぁ大工と言ってもほとんど機械とロボットを使うだろうから女性でも心配はない。でも彼女なら素手でも穴を掘れるだろう。装飾品の一切ない白い断熱材でできた廊下を歩きながら聖馬は自室のある住居スペースへと向かう。そこも彼女が作ってくれた。ほんと、恐ろしいけど頼りになる。

そして、聖馬は大工にマニュアルを読むようと釘を刺されたのを意識して、彼女がしたように速足でその場をかけ去る。残念ながらヒールのなる音はしないがそれでもスピードはあった。聖馬は自室に向かいつつ決意を固める。

(今日中に全部読んであの通信士を驚かせよう)

時刻は今午後の五時。食堂での食事の時間を抜いて今日は約六時間後に終わる。

それがどれほど無謀な戦いか、彼は一ページ目を開いたときに思い知る。


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