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第一章 青い闇 4

「本日午前二時三分に違う管轄で、俺達の「世界」を覗こうとした「裏」の下っ端が抹殺されたそうだ。今、知らせが回ってきた。」


白い壁で囲まれた、イスと机と本棚でしか構成されてない無機質で殺風景な応接間のような部屋で、一人の男がドアに背を向け独り言を漏らす。いや、知る人が知ればこれは独り言ではないと気付くだろう。本来ならば窓があるべき壁に顔を向けつつ、薄い唇を微かに動かす。よく見れば、いや、故意に見なければ見つからない程小さな機械が彼の口元と耳たぶにくっついていた。完全に外出をあまりしない人特有の真っ白い不健康な肌は見事に雪のように白い機械を擬態させていた。


「近頃「裏」の連中は例の研究対象のサンプルを狙い、活発に動き出しているそうだ。まったく、悪党気取りで人の物を盗もうなんざ見ているだけで痛い。痛すぎる。ガキの語る正義を聞いているような感覚になる」


オールバックに固めた黒髪、外でもないのに付けているサングラス、目の前に宇宙人が現れても一切表情を変えず、驚きもしなさそうなポーカーフェイス。外見だけをみると、どこかの秘密結社にいるボスのようだが彼は違う。一応支部長ではあるがボスではない。そして、秘密結社に属してはない。属しているのは、国の首相レベルや「裏」世界のみが知っている「闇」組織である。まぁ似たようなものであるのは確かだ。国のトップに存在を認められているという点で悪い組織ではないような気がしてくるが、実は悪すぎて正義すら感じる組織なのだ。


「そんな盗賊崩れの「裏」の連中も例の物欲しさに本格的に我々に危害を加えてくることだろう。彼奴らの技術こそは古いが、人海戦術や我々の存在を「表」の連中にばらされるのも懸念しなければならない」


世間ではゴールデンウィークなる連休が経済を大きくふるわせているが、この部屋には何ら影響を及ぼさない。実はここ、地下室なのである。それも結構深い。天井についている換気口からは30メートル上にある空気を仕入れている。さすが「闇」組織。支部とはいえ、隠すべきものは桁外れに多いらしい。

地下室生活故の色白を身にまとった黒いが喪服には見えないオサレスーツで隠し、独り言のような通話を小さな機械を通して続ける。


「だから、我々の部もそろそろ成果を上げたいものだ。よってこちらの新人を戦力として投入する予定だ。」


それと同時にノックもなしに一人の青年がドアを開け入って来る。音もなしにドアを開け、音を立てずに足を踏み入れ、音を殺して無機質な白いタイルを歩く。怖いくらいに無音だった。普通に部屋に入ってきただけなのに、だ。だが、イスに座る彼は背を向けたまま言葉を放つ。


「訓練は終わったのか?」

「はい」


椅子を回して振り返った部長に青年は間髪を入れずに答える。そして、まっすぐにサングラス越しの部長の目を見据える。あくまで、瞳に色を浮かべず。ただ無色に。

吸い込まれるように深く、凪いだ湖の水面を思わせる双眸は揺るがない。


「まだ接近するときに息遣いが聞こえるな。今後も励め。そして、今日ここにお前を呼びだしたのはある任務をお前に遂行させたるためだ」


青年の無色透明な視線に見つめられる部長は詳細を話す。


「して、任務とは長期にわたると思え。お前はとある高校に転入してもらう」


青年は片方の眉をピクッと動かした。口を開きかけ、ハッとしたように口をつぐむ。動揺していた。

その姿を見て、部長はいままでのポーカーフェイス仮面を脱ぎ、片頬を不敵に悪戯に吊り上げる。


「なに、勉強しろとは言わない。今のお前なら高校くらいの知識は頭の中に入っているだろう。無駄なことはさせない。用があるのはそこの校長だ。」


そこで話を区切り、部長は青年の目をサングラスの隙間から上目づかいで覗きこむ。青年の目に興味という色がにじんでいることを確認して部長は続ける。


「我々の世界が研究を続ける例のもの・・・サブリミナルを今まで以上に効率的に発信する装置があるな。昔、「裏」の連中が同じ様な事を研究していただろう。その事は組織の歴史として勿論覚えているよな。」


青年が頷くのを待ち、部長は机に手を祈るように組む。


「昔「裏」での研究員だったのだが二十年前の研究の打ち止めと同時に足を洗い、「表」の人間になった奴がいる。そして、もてる知識と財力を用いて研究者を育成する私立高校を作った。だが、近頃手に入れた情報によるとそいつは足を洗ってなお、単独でサブリミナルの研究を続けている。」


真剣に話を聞く有能な部下に目を細めながら部長は話を続ける。


「そして、ついにサンプルをたった一人で完成させたのだというのだ。我等の組織の人員と財力を持っても最近完成して、試運転ができる状態になってきたというのに。恐らく、「裏」の連中はこの事に気付いていない。だから我々の方のサブリミナルを狙っているのだろう。はるかにこちらのサンプルを奪取する方のリスクが高いというのにだ。ホント大変だ。」


全然大変じゃなさそうに言う。しかし、青年には分からないことが多かった。


「なぜ「裏」の連中は自分たちで研究しないのですか?どうしてたった一人で彼はサンプルを作れたんですか?どうして、皆が皆サブリミナルにこだわるんですか?」


少し上司に対して失礼な問い方だったかもしれない。でも、それだけ青年の頭の中はスチールウールのように固く絡まっていた。

そんな仕事熱心な部下に部長は手を振る。


「落ち着け。まず第一の質問だが、これは「表」の連中が「裏」の連中に研究を再開させないように、見張っているからだ。迂闊に手を出したら「表」の連中に叩かれるからな。第二の質問は、彼が昔研究員だってことだ。もうある程度の地盤は出来上がっていて、一から研究を始めた我々と違い、やることが少なかったからだ。第三の質問だが、これは簡単なことだ。サブリミナルを使えば、世界をこの手の中に掌握するのと同じ事だからだ。」




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