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第一章 青い闇 3

修正しました。

漆黒の夜に街頭の照らす国道を一台の青いスポーツカーで疾風の如く走りぬける。文章にするとなれば響はいいが、焦りのためか走路は蛇行していて、急なハンドル捌きにより道路には黒々としたタイヤの跡が残される。運転者は決してパトカーから逃れる暴走族ではない。ただし、暴走と大差は無いかもしれない。今が日付の変わった直後なのが幸いした。もし今が真昼間なら世間の「表」の人々に迷惑をかけると共に、彼の決して普通ではないが楽しくもない人生が終わってしまっていただろう。なぜなら今彼は警察よりはるかに厄介な者に追われた身なのだから。


背後をつけてくる真っ黒のスポーツカーは「奴等」の最新鋭車両だろうか。


ライトも付けず一切の音も発しず、獲物を追う狼のように追ってくるその真っ黒な車は。赤いサイレンをつけた方がまだ愛嬌があるとさえ思える。それ程に不気味なほど静かなのだ。その車は。

こちとらエンジンが軋むほどまでスピードを出しているのに、向こうはまだまだ余裕というように無音でついてくる。もし、ヘリコプターでこのカーチェイスを見ている者がいたら、次第に青と黒の差が縮って行くのを確認できただろう。冬の大三角形が煌めく夜空にはヘリの姿など皆無なのだが。やがて、追うものと追われるものの座標の差がゼロになろうかという時に、青のスポーツカーに変化があった。車線を急激に変更し、今まで以上に蛇行度を増したのだ。黒のスポーツカーは接触を回避するため速度を落とした。だが、あくまで冷静に元の車線でじっと様子を見るかのように。道路と道路を隔てるコンクリートと青い車体との間にオレンジの火花が飛び散る。狂ったように青のスポーツカーは何度もその身を車線を隔てるコンクリートにぶつけ続ける。やがて右側の運転席側にあるドアのネジが緩み、ついにドアが弾け飛んだ。同時にCDやら灰皿やらが道路に吐きだされる。コンクリにぶつかった灰皿が吸い殻をまき散らしつつ、甲高い音を立ててひしゃげた。それもそのはずだ。なにせ時速九十キロを超える速度から放たれたのだから。

 そして、ついにドアから茶色の頭がにゅっと突き出された。黒のスポーツカーはすぐに追いつける距離を保ってその茶髪を見つめる。

やがて、何を思ったのか茶髪のドライバーはスカイダイビングよろしく、その身を投げたのだ。高さ数十センチしかない地面に頭から。鉄製の灰皿でさえひしゃげたというのに生身の人間がプーマのジャージ(上・下 青い)で落ちればどうなるかサラダの作り方より容易に想像できるだろう。いくらメイド・イン・ジャポンの服を着ていても所詮はジャージ。結果は無様だった。地面にふれた時点でジャージはポリエステルのかけらと化し、肉体は禍々しく真っ赤な水を噴水する。赤いレモンを搾っているかのような光景だった。何度も何度もゴロゴロ転がり、やがていつの間に止めたのか黒いスポーツカーの脇で肉塊が止まる。肉の転がって来た道筋には、レッドカーペットが敷かれていた。言うまでもなく、絶命している。

そして、遠くから激突音が聞こえた。青いスポーツカーがコンクリか何かに激突した音だろう。それと共に沈黙を決め込んでいた黒いスーパーカーのドアが翼を広げるように開く。車と同じ色のブーツがアスファルトの大地を踏みしめる。そして、中から顔面と首元全てを覆い隠すヘルメットをつけた漆黒人間が現れた。ピッタリと張り付く戦闘服のようなものを着ているおかげで、男性だということが計り知れる。身長は175と言ったところだろうか。彼は、ヘルメットで表情が読めないまま、ぼろきれとなった肉塊へ向かって歩く。その動作一つ一つにムラがない。音も立てずに接近していく。シャム猫やオオカミと言った風貌だ。そして、肉塊が足元にくるところまでに行くと唐突にしゃがみこみ、もとは首があったと思われる所に黒い手袋をはめた手を当てる。所々にすり減った骨などが見える中、彼は怖気ず、ただ淡々と脈を測る。やがて


「ターゲットの死亡を確認」


何処となく呟く。その低く、だが透き通るような声はヘルメット越しでも鮮明にクリアに聞こえた。セリフの内容はさておいて。

しかし、独り言を言っていたわけではなさそうだ。唐突にヘルメット内に分別のある女性の声が響く。

「引き続き、「裏」のターゲットの周辺をあさって。スポーツカーから情報を掻っ攫えるだけ掻っ攫って。頼んだわ。ジョニー」



その声が途切れるのと同時にジョニーなどと呼ばれた日本語異様にぺらぺら男は立ち上がる。

そして、脇に転がる肉など目もくれず、淡々と黒のスポーツカーへと戻っていく。スポーツカーに乗り込んだ彼は、百メートル程先にあるボンネットと右サイド大幅損傷&廃車決定スポーツカーに向けて走り出す。いや、ワープする。なにせ百メートルの距離をスタートから百キロオーバーで走るんだから表現に問題はないはずだ。一瞬で黒のスポーツカーがコンクリに頭を突っ込んでいる青いスポーツカーの垂直に駐車する。

黒のスポーツカーから出てきたジョニー(偽名度120%)は横に並んだ青いスポーツカーの唯一無事だった左側のドアを残酷に完璧なフォームで前蹴りする。カーマニアが見たら感嘆の息をもらしかねないスポーツカーも無残なスクラップとなり、唯一無傷なのがトランクだけとなった。しかし、運転席と助手席では何も見つからず、アローンは鍵のかかったトランクを無理矢理こじ開けようとする。天国にいるカーマニア達が悶絶しているであろう中、開かなかったトランクを黒のスポーツカーから持ってきたバールでこじ開ける。

物理の神秘、てこの原理でトランクの鍵はブチンという効果音を上げ、パカっと開く。しかし、目的のものがないと見るやヘルメットは力任せにトランクをバンと元の場所に叩きつける。しかし、てこの原理によって何かが壊れたのかトランクは閉まらず、そのままの勢いでヘルメットの顎を危うく掠める。その後もプランプランし続け、勝手にシーソー祭り開催中。だが、男は気にも留めずにヘルメットの世界にこもる。


「現場から得られる情報はない」


間をおかずに女性の声が返ってくる。


「そう、路上に散らばったものとターゲットの衣類は調べたの?」

「いや、だけどもう回収も無理だろう。ばらばらに吹っ飛んだし。ジャージは雑巾だし」

「分かったわ。あとは「下」に任せましょう。上がっていいわよ。お疲れ」

「おう」

彼女は衛星カメラかなんかでアローンの様子を探っている。だからアローンの様子は筒抜けだ。任務を放棄するならばすぐさま「上」に連行されるだろう。だが今はそんな事を考えても仕方ない。取りあえず「家」に戻って休むこととする。

そうして、彼は黒のスポーツカーで時速300キロの法定外速度を出し、帰路に就いた。

結局、ヘルメットをとらなかったジョニーが黒髪か金髪か知ることはなかった。


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