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第二章 接触

「村瀬、話がある」


ホームルームの始まる前、そう言って、村瀬の席の前に立つ俺。遠くでは武っちゃ―んというアホの声が聞こえるが今は無視、無視無視。

昨日、あの後訓練士に五十メートル走を五秒八きっかりで決める訓練が行われた。そしてその後、ボロボロの体で訓練士兼通信士と、啓太から話を聞きだす計画を立てていたのだ。いまでも通信士は通信室でスタンバイしている事だろう。


「・・・・」


ムスッと目先の文庫に目を落とす村瀬。全く知ったこっちゃない。あんた誰?とマジックで顔に書いてあるような気さえする。顔だけでこれほどまでに言いたいことが伝わる人もそう多くはないだろう。

しかし、これも想定の範囲だ。さっそく爆弾を投下する。


「おまえの兄貴に関する話でもあるんだ」


ピクッと片眉を動かし、恐る恐るというより警戒をあらわにした面持ちでこちらを見てくる。やっと文庫から剥がす事が出来た。栞を挟んで村瀬は立ち上がる。


「ここは人が多い。屋上に行くぞ」


久々に聞いた村瀬の声。既に落ち着きを取り戻しいつもの能面みたいな無表情になる。

ヅカヅカと率先して、というか身勝手に自分のペースで歩き去る。距離の空いた拓海ははじめ小走りで村瀬の後を追う。


廊下の角を曲がるとすぐそこには屋上に続く階段がある。村瀬はズンズン二段飛ばして上がっていく。拓海はもはや少し遅れてもいいやとチロチロ金魚のフンみたいにくっついていく。村瀬が屋上の扉を開ける音がした。拓海の両脇を涼しい風が通り抜ける。太陽の光がまばゆいほど輝いていた。

昨日俺がよりかかっていた場所に同じポーズで村瀬がよりかかる。本当に街を展望しているように思えたが、実はそうでない事は拓海自身よく分かっていた。


「お前の兄貴殺されたんだって」


少し無遠慮な気もしたが、昨日村瀬が立っていた場所に向かいながら口にする。


「ああ、おまえら「闇」にな」


皮肉のようなものをつけて村瀬が答える。背中で、背後に立つ拓海の事を笑っている気がした。拓海は昨日村瀬が立っていた場所に立つと再び口を開く。


「なに、やったんだ。お前の兄貴」


少し遠慮してゆっくり間を入れて質問する。昨日と拓海と村瀬の立場が変わっていた。質問する側、答える側。


「「裏」の上司に任務を任せれてたんだと。「闇」の人員課に潜り込んで構成員のプロフィールを盗み出すのが仕事だったんだ。」


珍しく饒舌な村瀬は肩を下げて長いため息にも近い息をもらす。


「同じ任務を受けた仲間と力技で兄さんは基地に乗り込んだんだ。でも、相手の技術はすさまじい物ばかりそろえられていた。普通に開いたドアを潜り抜けようとした瞬間に連れて行った仲間の半数が床の下に吸い込まれたって。」


極めて落ち着いて話す村瀬はどこか遠い場所を見ているようだった。


「そして、いくつものトラップを潜り抜けた後、残ったのは兄さんだけだったんだ。その後一人でケータイにデータを盗んだ後、すぐに脱出したんだ。乗ってきたスポーツカーで。でも、組織の最新鋭車両に追われて、拷問されて全部しゃべる前にって兄貴は自殺したんだ。車から飛び降りて。


妙に、臨場感あふれる程細部まで話す村瀬に違和感を覚えた。だが、その違和感は村瀬本人によって拭われた。


「これ」


と渡されたのは村瀬のものと思われるケータイ。


「どうせ、俺の事を調べてあるんだろ。兄貴が死んだ今、もうこの組織に残っている意味はない。昨日考えて、足を洗う気になったんだ。」


ケータイの液晶に映っていたのは兄貴が送ってきたと思われるメールと添加された「闇」のプロフィール。メールの内容はさっき村瀬がばらしたのと同じ内容が打たれていた。


「俺は今日からもう、「裏」の人間じゃない。「表」になる。そう決めたんだ。」


いきなりの衝撃告白。てか、そんなにあっさりやめちゃっていいの?辞表出した瞬間後ろからズドンなんてないよね。

他人事ながら無駄心配をしてしまうお人好しな拓海。


「いや、「裏」は「闇」に比べて比較的緩い方なんだ。機密情報知っている奴は知らないけど、下っ端みたいなやつはすぐに辞められる。おれもまぁ何とか止められるだろう。」


うってかわって今までのムッツリ振りが豹変したような笑顔でこちらを見てくる。正直言ってここまで変わると気持ち悪い。


「これからもよろしくな。俺はもうお前の任務を邪魔しないから、好き勝手やっててくれ。本来ならば、俺は組織の意向で一年後まで護衛して、それから奪取する予定だたんだ。」


そう言い切り、村瀬は屋上を出ていく。呆気にとられたのは俺だけではないはず。なぜなら耳たぶから椅子が一回転する音を聞いたから。


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