表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/21

第一章 青い闇 12

「本日のメニューはアブラカレイのムニエルですよ~」


カタッとリーダーと聖馬の目の前に置かれた皿の上には白身魚独特の白いテカりが、白銀の光を放っていた。リーダーは大慌てでナイフとフォークを持ち、白身魚に禁断の一歩を踏み出してしまう。


サクッ


ナイフがその身を裂いたときにしか聞く事の出来ない、魅惑の音色。外の軽くきつね色に、中の繊維の白さが見事なまでにルネサンスの絵画と化している。モナリザより美しい。

その身をほぐした瞬間に立つレモンとバジルの生み出す爽やかな香り。魚の生臭さなど丸ごと洗ったかのような食欲をそそる香りにリーダーと聖馬は意識が遠のく錯覚さえする。

じつはこのサブリミナルなんかより洗脳効果のありそうな料理、訓練士兼事務員兼通信士が作った料理であった。いつもこの飢えた二匹の雄ライオンの飯を作っているのはあさみさんその人であった。

自分も席に座り、取り皿に分けられた自分のアブラカレイをみてうっとり感嘆の声をもらす。


「ハァ、常に何でも出来てしまう自分の才能が恐ろしいっ」


そんな、危ないあさみさんの独り言もどこ吹く風、ガツガツモリモリカレイを掻っ攫う。付け合わせに脇にこんもりともられた色彩豊かなニンジンとブロッコリーも一口で頬張られる。リーダーもオサレスーツにポタージュが飛び散っても脇目振らずにパンをかみちぎる。一応防水性なのだ。

皿までバリボリいってしまいそうな雄ライオンズを尻目に、サブリミナル料理家(サブリミナル不使用)は上品にカレイをつつく。



嵐のような食事もひと段落し、料理を作るまで寝ていたあさみさんがお茶をすする聖馬に声をかける。


「聖馬、実は村瀬啓太と奈良汐織について調べました。今すぐこれに目を通してください」

敬語なのはリーダーがいるからだ。ちょっと悔しい。でも、何故汐織?あさみさんがテーブルの隅に置いてあったファイルに手を伸ばす。ファイルに付いていたパセリを払い落し、二枚の紙を聖馬に渡した。とりあえず、疑問は呑み込もう。

聖馬が受け取ると同時に、リーダーにも同じ書類を渡す。リーダーはあからさまに「俺、もう今日の仕事終わったのに」と嫌な顔をしつつ、目だけは真剣に書類に目を通す。そこにあったのは村瀬啓太と奈良汐織の顔写真。そして、その下にはびっしりと細かい文字で、いろいろな事が書かれていた。


「まず、村瀬啓太から説明します。彼は「裏」の構成員で、行っている任務はサブリミナル技術の奪取と護衛。ここまでは聖馬に説明したのと同じです」


先程までのお祭り騒ぎがうそのように静まり返った食堂。テーブルの上でそれぞれ神妙な面持ちで書類を見つめる。


「それ以外に調べて分かった事は、彼には兄がいて、兄弟そろって組織に属していたようだです。しかし、先月違う管轄で「闇」の組織の事をスパイしていたところを殺されたようです。組織同士のカーチェイスの後、彼は車から身を投げ自殺しました。その後、回収班が彼の物品すべてから何らかの情報を手に入れようと探った結果、プラスチックになり果てた携帯の履歴から、今まで調べたデータを弟に死ぬ直前に送信していた、ということが判明したそうです。探りを入れられていた管轄ではデータを消去しようと弟を創作しましたが、手がかりが少なく、半端捜索を諦めていたようです。」


そこで話を区切って、リーダーの反応を探るような目で見る。書類に書いてあるのはここまでだ。どうやら村瀬に関する情報はここまでらしい。どうして自分が「闇」の人間だと気付いた理由はいまだに分からない、か。一番気になっていた点なのに。


「どうしますか、村瀬啓太の居場所をその管轄に報告するべきでしょうか。」


祈るように腕を組み、そこにでこをつけているリーダーは目をつむって何かを考えているようだ。やがて、目を開け、あさみさんの方を見る。


「いや、その管轄の事を隅から隅まで知っている訳ではない。同じ組織内と言えど、用心するべきだ。コンタクトを取るべきなのは、」


そこで聖馬の方に流し眼をくれる。キョトンとした聖馬に


「村瀬啓太の方だろう。本人から直接話を聞いてきなさい。通信士さんと協力して、な。」


「「了解」」


戦隊物みたいにそろって敬礼をする。続けて、と協力する通信士がもう一枚の紙、奈良汐織の説明が書かれた紙に取り換える。そこで、呑み込んでいた疑問をゲロする。


「あの、なぜに奈良汐織なんですか。彼女も「裏」の・・・」

「いいえ、違うわ。彼女は正真正銘の「表」よ。」

「じゃあ、何故・・・」


何故、調べたりなんかしたんですか。と言おうとして、口をつぐむ。どうせ今から分かる事なのだ。とりあえず静かにしてよう。


「彼女、奈良汐織ですが、生粋の「表」の人間です。「表」の人間ならば、ある程度の実力さえ持っていれば「裏」の人になれると言え、彼女は「裏」にコンタクトを取ったことすらありません。」


なおさら何故か。抑え込んでいた疑問がまた溢れ出てくる。しかし、リーダーに目で抑えられる。今は話を聞いておこう。


「ですが、彼女には脅威になるだけの要素があります。何故なら彼女は」


固唾をのんでその場にいる雄ライオン二匹が静かにその後の言葉が紡がれていくのをひたすら待つ。

やがて意を決したかのように声帯を震わす。


「紫藤校長の娘なんです」


地下室に響く雄ライオンの雄たけびは地上に聞こえたであろうか。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ