第一章 青い闇 11
かくして、拓海は学校から一キロほど離れた自宅(地下室)にバスと長いエレベーターを乗り継いでたどりついた。
「おかえり、聖馬」
久々に本名で呼ばれた気がする。出迎えてくれたリーダーに聖馬は目を丸くする。
「なんでリーダーが。あさみさんは来てないんですか?」
あさみさん、それは我々の組織の訓練士兼事務員兼通信士のことである。普段はいつも彼女が出迎えに来ているのだ。今日の様にリー
ダー自らお出迎えなんて珍しい。
「うーん、彼女は慣れない仕事で疲れたみたいだね。部屋で休んでいるよ。それよりどうだ。今日の学校での話でもしながら将棋をし
ようじゃないか。」
「そうですね。よろしければご一緒しましょう」
仕事がないと気さくな調子で話しかけてくるリーダー。なじみやすい人柄だ。でも仕事をしている時の形相を見たことがあるならば、敬語を忘れるべからずだ。タメ口で話しかければ自分で内側から精神を圧迫するほど後悔する。
所変わってリーダーの私室。パイプベッドに本棚、酒瓶の入ったキャビネット。机に乗ったパソコンが一台。クローゼットが一つ。そして聖馬とリーダーが向かい合って座るソファーと間にある机。とてもシンプルだ。しかもどれもこれも真っ白で統一されていた。
本人いわく「闇」という仕事柄、プライベートの時だけでも黒色から離れたい。とのことだった。ただ広くて白いこの部屋の真ん中に対談用のソファーが置いてある。
「どうだね、任務の状況は」
「はい、まずは周りの環境を整える事ですが、あさみさんの手伝いもあってなんとか任務を遂行しやすく整える事が出来ました。」
「フム、それは良かった。どうだ、そちらに気になる事は」
「実は、あの高校に「裏」の工作員が混じっているのです。」
「なんと。」
「自分も最初はびっくりしました。なにせ一目で自分が「闇」の構成員とばれてしまったので」
「・・・」
「どうしてばれたのかはわかりませんが、彼もなかなかの戦闘力でした。たった一合、合わせただけなのに相手の強さに驚きました。」
リーダーはしばらく考え込んでいた。やがて、瞑っていた目を開け、聖馬と目が合うとニッコリとほほ笑む。
「なに、気にするな。将棋と同じで、相手がいかに強い駒を持っていたとしても、その駒が動かなければ特に気にする必要もない。今は捨て置け」
「・・・はい」
その後も将棋を続けたが、聖馬は一度も勝る事が出来ず、リーダーの連勝は食事の時間までとどまることを知らなかった。