第3話『バレたら終わりの秘密』
翌朝。
春の朝の空気はまだ少し冷たく、校庭の芝生には夜の露が残っていた。
校門の横に並ぶ桜の木は満開で、風が吹くたびに淡い花びらがふわりと舞い落ちる。
登校してくる生徒たちは、スマホを見ながら騒いでいた。
「見た!?ミアちゃんの新動画!」
「昨日のやつ?」
「もう30万再生いってる!」
「マジで!?」
その声を聞いて――
春宮ユウトは足を止めた。
「……30万?」
ポケットからスマホを取り出す。
動画アプリを開く。
ミアのチャンネル。
昨夜投稿した動画。
再生数。
327,000再生。
「うそ……」
ユウトは思わずつぶやいた。
一晩で30万。
今までの自分の動画の合計再生数より、はるかに多い。
そのとき後ろから声がした。
「おはよ」
振り返る。
そこにいたのは――
白崎ミア。
今日も相変わらず目立つ存在だった。
銀色の髪が朝の光に輝き、通り過ぎる生徒たちが思わず振り返る。
ユウトは小声で言う。
「おはよう」
ミアはスマホを見せてきた。
「見た?」
画面には例の動画。
再生数。
34万。
ミアはニヤッと笑う。
「すごくない?」
ユウトは驚いたままだ。
「…こんなに伸びるんだ」
「私もびっくり」
「コメントもすごいね」
二人は歩きながらコメント欄を見る。
『今回神回』
『編集うますぎ』
『ミアちゃんの動画進化してる』
ミアは肩をすくめる。
「ほら」
「何?」
「編集バレそう」
ユウトは固まった。
「え」
ミアは小さく笑う。
「大丈夫大丈夫」
「そんなすぐバレないよ」
そのとき。
校門前でクラスメイトの声が聞こえた。
「ミアちゃん!!」
「おはよー!」
数人の女子が駆け寄る。
ミアはすぐにいつもの笑顔に戻った。
「おはよ!」
女子の一人が言う。
「昨日の動画やばかった!」
「ほんと?」
「めちゃ面白かった!」
「編集神だった!」
ミアは少しだけユウトをチラッと見る。
そして言う。
「でしょ?」
ユウトは静かに顔をそらした。
教室。
朝のホームルーム前。
クラスはすでにミアの動画の話題で盛り上がっていた。
「昨日の動画見た?」
「テンポ良すぎ」
「今までと違うよな」
そのとき。
一人の男子が言った。
「なあ」
「何?」
「編集者変わったんじゃね?」
ユウトの心臓が跳ねた。
ミアは笑いながら答える。
「えー?」
「どうだろ」
男子はスマホを見せる。
「コメントもそう言ってる」
ミアは軽く肩をすくめた。
「秘密」
「えー!」
「教えてよ!」
「企業案件とか?」
「違う違う」
クラスはさらに騒ぎ出す。
ユウトは机に座りながら小さくつぶやいた。
(怖いな……)
人気が出るほど。
秘密は目立つ。
そのとき。
ガラッ。
教室の扉が開いた。
「おはよー」
入ってきたのは――
黒瀬カイト。
この学校の有名人の一人。
イケメンで、スポーツ万能。
しかも――
動画配信者。
フォロワー数。
20万人。
カイトはミアの机へ歩いてきた。
「ミア」
「ん?」
「昨日の動画見た」
ミアは笑う。
「ありがと」
カイトは真剣な顔で言った。
「編集変えた?」
教室が静かになる。
ミアは一瞬だけ考えた。
そして言う。
「気のせいじゃない?」
カイトはじっと見つめる。
「……そうか」
でもまだ疑っている目だった。
ユウトは目を伏せた。
昼休み。
屋上。
青い空と春の風。
校庭ではサッカー部が練習している。
ミアはフェンスにもたれながら言った。
「カイト気づいたね」
ユウトはため息をつく。
「鋭いね」
「まあ配信者だし」
ミアは空を見る。
「でもさ」
「うん」
「昨日の動画」
「うん」
ミアは笑った。
「もう50万再生。」
ユウトは驚く。
「え!?」
「見て」
スマホ画面。
502,000再生。
ユウトは言葉を失った。
「半日で……」
ミアは笑う。
「ね?」
「すごいでしょ」
ユウトは言う。
「ミアの人気だよ」
ミアは首を振る。
「違う」
「え?」
「編集」
ユウトを指さす。
「君の力」
ユウトは困った顔をする。
「そんなことないよ」
ミアは真剣だった。
「あるよ」
「昨日までの動画」
「10万再生くらい」
「でも今回」
「50万」
ミアはニヤッと笑う。
「つまり」
「最強コンビ」
ユウトも笑った。
「かもね」
そのとき。
屋上の扉が開いた。
ガチャ。
二人は振り返る。
そこに立っていたのは――
黒瀬カイト。
ミアが言う。
「カイト?」
カイトはゆっくり近づいてくる。
そして言った。
「なあミア」
「何?」
「やっぱり変だ」
ミアは笑う。
「何が?」
カイトはスマホを見せた。
「この編集」
「プロレベル」
そして――
ユウトを見た。
「こいつか?」
空気が凍った。
ミアが言う。
「え?」
カイトは続ける。
「図書室」
「昨日」
「見たんだよ」
ユウトの心臓が止まりそうになる。
カイトはゆっくり言った。
「ミアの動画」
「編集してるの」
「お前だろ。」
春の風が屋上を吹き抜けた。
桜の花びらが舞う。
そして――
ミアが静かに言った。
「……どうする?」
秘密が。
今。
バレようとしていた。
(第4話へ続く)




