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異世界でもぎりヤれるっちゃヤれる。(ギリとは言っていない)  作者: ひとよが


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8/11

ギリ優越感 

ガンテツの工房で刀のデザインなどを細かく打ち合わせた俺は、その足でマルコ商会の裏口へと回った。  最強の剣は手に入る。次は「防具」。  俺の体は貧弱なままで、一撃でも貰えば死ぬ。  あの鉄竜の素材を余すことなく使い、俺自身を要塞化する必要がある。鉄竜アイアンドラゴニア素材をオークションにかける前に、所有者特権として俺専用のオーダーメイド&カスタムの装備を作ってもらうことにした。


案内されたのは、商会の地下奥深くにある「特別製造室」。  そこは、王侯貴族のドレスから暗殺者の特殊装備までを手掛ける、マルコ商会が誇る職人集団の聖域だった。


「……お待ちしておりました、ヒビキ様」


出迎えたのはモノクルの似合う初老の男、工房長のボルグ。  そしてその背後に控える十数名の熟練職人たち。彼らの視線は俺……ではなく、俺の後ろに運び込まれた「素材」に釘付けになっていた。


解体されたアイアンドラゴニアの部位。装甲板、なめされた革、牙、爪。 その全てが市場に出ればとんでもない価値を持つ国宝級素材だ。


「これらを全て使い、俺だけのオーダーメイド装備を作って欲しい」

「……武者震いが止まりませんな。この素材に針を通すなど、職人冥利に尽きるというものです。して、ご注文は?」


俺は作業台に徹夜で書き上げたデザイン画を広げた。コンセプトは「和」と「機能美」。この世界の常識にはない俺の故郷の戦闘服だ。


           ***


① 服:【竜皮の(はかま)と忍び装束】

「……ほう。これは奇妙な服ですな。スカートのようですが、パンツのように分かれている?」


ボルグが「袴」のデザイン画を見て首をかしげる。


「これは『袴』だ。足の動きを隠し、かつ可動域を妨げない。素材にはドラゴニアの『内皮』を使ってくれ」


ドラゴニアの装甲の下にある内皮は、強靭でありながらシルクのようにしなやかだ。 これを黒く染め上げ、ゆったりとした袴に仕立てる。 袴と少しだけ違うのは完全に前が開いているので、どちらかと言えば腰布と言える。


「そしてこの袴の下に着るインナー……上着とズボンだ。こっちは体に吸い付くようにタイトに作ってくれ」


デザインはいわゆる「忍者着」。 あちこちにベルトやポケットが隠されており、鉄粉袋やナイフを収納できる。 袴を脱ぎ捨てれば、即座に高速戦闘モードになれるツーウェイ仕様だ。


「なるほど……。優雅さと実用性の同居。素材の『内皮』は魔法耐性も高い。最高の戦闘服になりますぞ」


職人たちが採寸を始める。俺の体のミリ単位の筋肉の動きまで計算に入れる徹底ぶりだ。


② 籠手:【竜手リュウシュ

「次はこれだ。前腕だけの装備だ」

【使用部位、前足の装甲板】。


上腕ではなく前腕だけの装備などこの異世界に置いてはありえない話だった。ボルグは戸惑った顔をしたがすぐに職人の顔に戻った。  前足の装甲を削り出し、関節部分には柔軟な革を使用。  見た目は黒い金属のガントレットだが、この素材は俺の意思(振動)に共鳴する攻防一体の籠手だ。


③ 鞘:【竜尾の鞘】

「そしてこれが一番重要だ。俺の相棒を収める鞘だ」


俺が指名したのは、ドラゴニアの【尻尾の先端】。 鞭のようにしなり、岩盤を砕く尻尾。その先端は円錐状になっており、自然が生み出した最強のハードケースだ。元々が強靭な生体素材だ。俺の高出力な振動にも耐えれるだろう。  何より、ドラゴニアの素材同士だ。刀(皮鉄)との相性は抜群で、納刀した瞬間に吸い込まれるような密閉性を発揮するだろう。


④ マント:【竜腹の外套】

「最後にマントだ。素材は【腹の皮】を使ってくれ」


ドラゴニアの腹部は地面の岩や熱に常に晒されているため、耐熱性・耐摩耗性が異常に高い。  それでいて、関節運動のために伸縮性がある。


「デザインはシンプルでいい。ただし、フードを深く。色は漆黒に染めてくれ」

「承知いたしました。……この素材なら、ドラゴンの火炎ブレスを浴びても燃えませんぞ。雨風はもちろん、魔法攻撃すら弾く究極の雨具ですな」


⑤ 小物:【竜のバックパックとブーツ】

余った素材で旅に必要な小物もオーダーした。【サイレント・ブーツ】 足裏にドラゴニアの肉球(衝撃吸収組織)を使用。 高くから飛び降りても音がせず、足音を完全に消す忍びの靴。


【リュック】 背中の皮を使った頑丈なバックパック。  ポケットの配置を俺が指定し、どこに何があるか手探りで分かるようにした。  鉄粉、予備の食料、水筒、ワイヤー。全てが機能的に収まる。


「…1か月お時間をください。商会の威信にかけて、最高の仕事をしてみせます」


ボルグはそう宣言し工房に籠もった。  その間俺はホテルで休養を取りつつ、体力の回復と、新たな戦術のシミュレーションに明け暮れた。


         ***



鉄竜の胃液とフォノンで分子振動を与えながら浸すこと1週間、わずかに柔らかくなった所を狙って一気に3000度近くまで加熱させることでようやく人の手で加工が出来るようになる。果てしない精錬と鍛錬を繰り返し、ようやく武器の形を成してくる。皮鉄はドラゴニア鋼鉄だが中に入れる芯の鉄は鉄竜の胆嚢にある竜胆重液(ドラゴニアマーキュリ)を封入する。並みの固さではないドラゴニア鋼鉄の中身はこれしかない。 水銀より比重が重い液体であり、振動に絶対負けない(壊れない)柔らかい金属だ。最後の仕上げを終え、ついにその瞬間は訪れた。


 ジュウウゥゥ……。  冷却水から引き上げられたその刀は、黒銀色の怪しい光を放っていた。


「……できたか」

「ああ……とんでもねぇ化け物がな」


ガンテツが精根尽き果てた顔で笑った。俺はその刀を手に取った。


ずっしりと重い。


だが、構えると驚くほどしっくりくる。俺はフォノンを流し込み軽く空を斬った。   


フォン……  慣れない長尺の刃物を振ったせいで机の角に当たってしまったのに()()()()


切ったことには()()()なかったが、「コロン…」と机の一部が落ちて初めて切ってしまった事に気づいたのだ。俺とガンテツは旋律を覚えた。



「このとんでもねぇ刀の……銘はどうする?」

「決めてある」


俺は刀身の青白い波紋を見つめた。 竜の素材を使い、竜の胆汁を飲み込んだ魔剣。 そして、孤高を貫く俺の唯一の相棒。


「【 竜胆(りんどう)】だ。故郷の国の秋に咲く花でな、青紫の美しい花で故郷の文字では竜のきもと書くんだ。花言葉は確か【勝利と正義】」


この竜鉄を鍛え上げている時、青紫の炎と火花が竜胆のように見えたのと、実際に竜の肝を使っていることからこの名前しかないと思った。


――鉄竜から生まれた魔剣「竜胆」。


本当の意味でこれを使いこなせるのは世界中で俺だけだ。


         ***



そして約束の期日。俺は再び地下工房の鏡の前に立っていた。 そこに映っていたのはもはや貧弱なFランク冒険者ではなかった。


全身を艶消しの黒で統一された装備が包んでいる。インナーの上に着たゆったりとした**【竜皮の袴】。その裾から覗く、音もなく床を踏む【サイレント・ブーツ】。  上半身を覆うのは、耐熱・耐魔法の【竜腹の外套】**。深いフードが顔を隠し、暗闇に溶け込むようだ。


両腕には、黒銀色に鈍く光る竜手の籠手。  握り込むと内部がギチリと鳴り、血管のように力が漲るのを感じる。


そして左腰に佩いた一振りの刀。 【竜胆の鞘】。

竜の尻尾で作られた【竜尾の鞘】は、刀身を完全に呑み込み、今にも爆発しそうな殺気を封じ込めている。


「……どうですかな、ヒビキ様」


ボルグが徹夜続きで充血した目を細めて尋ねた。 俺は軽く体を動かしてみた。 重装備のはずなのに羽のように軽い。 ドラゴニアの素材は金属の特性も持っており、フォノンを通すと収縮し、俺の動きをアシストしてくれるパワードスーツのような効果があったのだ。


俺はフードを目深に被り直し、ニヤリと笑った。


「……完璧だ。文句のつけようがない」


鏡の中の俺は異世界の騎士でも、魔術師でもない。 どこか懐かしい、しかし決定的に新しい、「闇に潜む忍者のような侍」のシルエットだった。


「これなら行けそうだ……」


俺はボルグたちに礼を言い、その場を後にする。支払いはドラゴニア素材の売却益から天引きと言う事で話はついている。  装備は整った。武器も、防具も、資金も、スキルも。  


全てが最高水準で噛み合った。


俺は工房を出て眩しい地上へと歩き出した。 目指すは街の外れ。  難攻不落のダンジョン

【奈落の霊廟】だ。

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