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異世界でもぎりヤれるっちゃヤれる。(ギリとは言っていない)  作者: ひとよが


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3/11

ギリ実験成功

ジャララッ……。  革袋の中で銀貨がぶつかり合う重たい音が、今の俺の全財産だ。


「……ブルボアの素材、確かに買い取りました。しかし、本当にあなた一人で?」

「ええ。まぐれですよ、罠の場所が大当たりみたいで」


冒険者ギルドの受付嬢は狐につままれたような顔をしていたが、目の前にある「高品質」の素材は嘘をつかない。  銀貨8枚。  昨日の今日で俺の懐事情は劇的に改善していた。


俺はギルドを出ると、迷わず路地裏にある一軒の鍛冶屋へ向かった。  ギルド併設の武器屋ではない。冒険者たちが足しげく通う店が連なる通称「ドワーフ通り」その中に俺の気になる店がある。


カンッ、カンッ、カンッ。  熱気と鉄の匂いが充満する店内で、髭面のドワーフが鉄を打っていた。


「いらっしゃい。……なんだ、見ねぇ顔だな。修理か?」

「いえ、オーダーメイドを頼みたいんだが」


俺がそう切り出すと、ドワーフの親父は俺の体格と腰のボロナイフをジロリと値踏みした。  


「駆け出しか?オーダーメイドはまだ早ぇんじゃねーのか?」

「まぁ駆け出しは否定しないが、俺のスキルがちょっと特殊でね。あんたは素材から拘る良い職人だと聞く。いい素材で切っ先だけ刃の有る細剣レイピアを作って欲しいだ」


俺は「切れ味」ではなく「振動伝導率」を重視したオーダーメイドを頼んだが、当然最初は「釣り竿を作る気はねぇ」と一蹴された。


俺は黙って店の隅にあった、焼き入れに失敗して歪んだ細身の剣を拾い上げた。  そして作業場の真ん中に置かれた鞘を創る為の革が置いてある作業台に歩み寄る。


「この革に引いてある線に沿って切ってもいいか?」


「ハハッ。切れるもんなら切ってみな、そしたら格安で最高の釣り竿を造ってやるよ」


言質は貰った。しかも値引きも付いてくるとは。


ヴィィィン……。  剣が微かに鳴き始める。俺の手から流し込んだ振動が歪んだ刀身を伝わっていく。 やはり失敗作だけあって伝導率は悪いが、数秒だけ持てばいい。


俺は革に引いてある線向かって軽く剣をなぞる。  力任せに叩きつけるのではない。触れさせるように滑らせる。


 ――スゥッ。


音はしなかった。  代わりに熱したナイフでバターを撫でたような感触と共に、 断面は切られたことに気づいてないような滑らかさだった。


「な……ッ!?」


親父が目を見開き、断面と俺の顔を交互に見た。  その時、俺の手の中で耐えきれなくなった失敗作の剣がパキリと音を立てて砕け散る。オヤジはしばらく黙って断面を凝視し、重い口を開いた。



「……いいだろう。最高素材で打ってやる。一週間後に来な。名前は?」

ヒビキ

「俺はガンテツだ」


俺が差し出した銀貨をガンテツは受け取った。  これでメインの用事は済んだが、もう一つ、ここに来た目的がある。  俺は視線を足元に向けた。作業場の床には鉄を削った時に出る大量の鉄粉や、鍛造で弾け飛んだ細かい鉄クズが散乱している。


「あと、相談なんだが……その床に落ちてるゴミ、貰っていってもいいか?」

「あ? 鉄粉か? 掃除の手間が省けるから助かるが……何に使うんだ? 溶かしても金にはならんぞ」


ガンテツは不思議そうな顔をしている。無理もない。この世界ではただの産業廃棄物だ。  俺は店の手箒とちりとりを借り、床一面の黒い粉を袋にかき集めながら答えた。


「ちょっとした『花火』を作ろうかと思ってね」


            ***


街を出て人気のない河川敷へとやってきた。  腰の袋にはガンテツの店で回収した鉄粉がずっしりと入っている。キロ単位の鉄ゴミだ。


「さて、実験といこうか」


俺は河原の石の上に座り、新しい「武器」の構想を練る。  高周波ブレードは強力だが欠点がある。「単体攻撃」しかできないことだ。  もしゴブリンの群れや盗賊に囲まれたら一人ずつ斬っていてはキリがない。今の俺に必要なのは広範囲を一撃で制圧する「面」の攻撃手段。


そこで目をつけたのがこの鉄粉だ。


俺は袋からひとつまみ、黒い鉄の粉を取り出し目の前にさらさらと落とす。


「……スタンディング・ウェーブ展開」


俺が掌でフォノンを発すると、落下していた鉄粉が空中でピタリと止まった。  音波同士をぶつけて「音の壁」を作り、重力に逆らって浮かせたのだ。  キラキラと陽光を反射して、空中に浮かぶ鉄の霧。美しい光景だが、これはただの準備段階に過ぎない。


「物質は、細かくなればなるほど燃えやすくなる」


理科の実験でやったスチールウール(鉄綿)の燃焼を思い出す。  鉄の塊はライターで炙っても燃えないが、細い繊維状や粉末状にすると、酸素に触れる表面積が爆発的に増え、容易に酸化反応――つまり「燃焼」を起こす。


今、俺の目の前にあるのは、酸素と十分に混ざり合った高密度の鉄粉雲クラウド。  ここに、強烈な「着火剤」を投入したらどうなるか?  もちろん、火種なんて使わない。俺が使うのは「音」だけだ。


フリクション(周波数摩擦)を最大出力で声に乗せ、命令を発する。



「爆ぜろ」


俺の命令は浮かせた鉄粉の一つ一つに、互いに擦れ合うほどの激しい微細振動を与えた。  数千、数万の鉄の粒子が、音波によってミキサーのように撹拌され、擦れ合う。  その摩擦熱は、瞬時に鉄の発火点を超える。


 カッッッ!!


直視できないほどの閃光が走った。


 ドオオォォォォン!!


次の瞬間、河原の空間が赤黒い爆炎に飲み込まれた。  ただの鉄粉が一瞬にして超高温のガスと化して膨張する。  強烈な衝撃波が川面を叩き、水を高く吹き上げ、周囲の草木を根こそぎ薙ぎ払った。


「……うわっ」


俺は慌てて自身の周囲に「サウンド・シェル(防音壁)」を展開し、熱波と爆風をやり過ごす。  土煙が晴れると、そこには直径30センチほどのクレーターが出来上がっていた。地面の石は高熱でドロドロに溶け、ガラス状になっている。


「金属火災の連鎖か。粉塵爆発とは威力が桁違いだな……」


成功だ。いや、大成功すぎて街の近くでは絶対に使えない。  前に荷物持ちで一度見たことがある魔法使いが魔力を消費して放つ「ファイアボール」なんぞが可愛く見える威力。  しかも、コストは「タダ(ゴミ)」だ。


「鉄のチャフを撒いて点火する……か」


俺は黒く焦げた地面を見下ろし、この新技に名前を付けた。


「【チャフイグニッション(金属粉塵爆発)】。これで集団戦も解決だな」


単体にはすべてを断つ高周波の剣。  集団にはすべてを焼き尽くす爆熱の霧。


一週間後、ガンテツの剣が完成すれば俺の戦力は整う。  魔法が優遇されるこの世界で、俺だけが知る「物理法則ロジック」の攻略法。


俺は残りの鉄粉が入った袋を愛おしそうに撫でると、すすけた顔を拭って街への帰路についた。  早く試したくて指先が微かに震えていた。




一週間後。  俺は再びガンテツの店を訪れていた。


「……これだ。持ってみな」


無骨な作業台の上に置かれていたのは、俺の注文通り一切の装飾を廃した一本の「鉄の棒」だった。  鞘から抜いたその剣は、レイピアのように細く、まるでオーケストラのタクトのようで、その切っ先は鋭利で繊細だ。刀身は鏡のように磨き上げられている。


手に取った瞬間、鳥肌が立った。  軽い。まるで指先の延長のように馴染む。  そして何より――。


「……ミスリル銀とアダマンタイトの合金だ。硬さはもちろんだが、何より『振動』を逃がさねぇように打ってある。お前のその奇妙なスキルの為だけにな」


ガンテツの言葉通りだった。  俺が少し指先からフォノンを流しただけで、剣全体が喜ぶように共鳴し、澄んだ音色を奏でる。  今までのボロナイフが「拡声器」なら、これは「ストラディバリウス」だ。


「いい仕事だ、ガンテツさん。ただ、こんなに高価な素材はさすがに…」

「フン、礼なんざいらねぇ。本来なら金貨5枚は貰いたいところだが3枚に負けてやる。こりゃあいずれ名を馳せるおめぇさんへの投資だ。さっさとその『釣り竿』で大物を釣ってきな。」


ニヤリと笑う頑固親父に背を向け、俺は新しい相棒を腰に差した。


            ***


街を出てすぐの森林地帯。  俺は早速、試し斬りの相手を探していた。  運良く現れたのは、硬い甲羅を持つことで知られる中型モンスター【ロック・タートル】だ。  岩石のような甲羅に覆われた亀で、並の剣では傷一つ付けられず、打撃武器メイスで叩き割るのが定石とされる。


「硬い相手か。ちょうどいい」


俺の剣は有機物との相性が抜群に良い。いくら固い甲羅とは言え有機物で有る以上、この亀の防御力は意味を成さない。俺はゆっくりと剣を抜く。  ロック・タートルが俺に気づき、岩の塊となって突進してくる。遅い。  俺は切っ先をだらりと下げたまま、フォノンを流し込んだ。


「……ドライブ」


 キィィィン……。


ボロナイフの時とは違う。  ノイズが一切ない、純粋で鋭利な超高周波。  剣そのものが微振動し、周囲の空気が陽炎のように揺らぐ。  俺の手には、一切の反動が来ていない。すべての振動エネルギーが、逃げることなく刀身に留まっている証拠だ。


目の前に迫る岩の塊。  俺はステップを踏むように、軽く手首を返した。  振るう、という動作ですらない。  ただ、空間に一本の線を描くように、剣閃を走らせた。


 ――斬。


音はなかった。  衝撃も、手応えさえもなかった。  俺が通り過ぎた背後で、突進の勢いのまま数メートル進んだ亀が、突然バランスを崩した。


 ゴロン。


硬度を誇る岩の甲羅が、上下真っ二つに分かれて地面に転がる。  まるで熱したナイフで~この表現もいい加減飽きるので割愛するが、なんせ滑らかすぎる切断面。  


「……凄まじいな」


俺は剣を見つめる。  刃こぼれなどあるはずもない。そもそも、物理的に接触する前に、超振動の層が対象を分子レベルで乖離させているのだ。  ようは触れてすらいない。


「業物には名前が必要だな」


俺はこの美しい凶器を鞘に納め、静かに呟いた。


「【フォノン・フルーレ】。これからよろしく頼むよ」


腰の剣と、懐の鉄粉。  最強の矛と、最悪の爆弾。  準備は整った。  あとは――この力を試すための「舞台」があればいい。


そう思った矢先だった。  森の奥から、複数の悲鳴と爆発音が聞こえてきたのは。

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