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異世界でもぎりヤれるっちゃヤれる。(ギリとは言っていない)  作者: ひとよが
始まり

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18/19

ギリの命拾い

【疾風竜 ゲイル・ラプター】


草原の掃除人の異名を持ち、基本的にスカベンジャーである。

全長: 3.5メートル

体高: 1.8メートル

最高速度: 85km/h

鱗は黒曜石のような黒色で、硬く軽い。

前足は短いが器用で、後ろ足は異常発達した筋肉を持つ竜種。

尾は長く、高速旋回時のバランサーとして機能する。外見的には地球のヴェロキラプトルによく似た特徴をしているが、その強さは恐らく比較にならないだろう。その強さを持っていながらスカベンジャーにならざるを得ないのは、この星の生態系の過酷さを物語っていると言える。


骨まで砕く強力な咬合力を持ち、他の肉食獣が残した「骨」を噛み砕いて栄養にする。そのため彼らが通った後には草木一本、骨一片残らない。

執念深いストーカーで、一度目をつけた獲物は何日でも交代で追いかけ回し疲弊して動けなくなったところを襲う陰湿な狩りをする。


どうやら血の匂いを嗅ぎつけてやってきたらしい。俺の獲物を横取りす気満々のようだ、いや、俺すらも獲物として認識されているようだ。まぁしかし、逃げ回る獲物を追いかけるより、こっちの方がよほどやりやすい。こいつらは基本的にスカベンジャーだが戦闘も慣れているようで、俺を取り囲む連携は見事なもんだ。


「キシャアッ!」「ギャウッ!」


「確か……あの黒い鱗は軽量鎧の素材として人気が高いんだっけ。大腿筋はレア食材としていい値段だったと記憶しているが、そっちから来てくれるとは助かるぜほんと」


俺の視線は、完全に「素材屋」のそれだった。 しかし、ラプターたちはそれを「恐怖で固まっている」と誤認したらしい。


「シャアッ!!」


死角である背後から、2体が同時に飛びかかってきた。 速い。確かにこの荒野では脅威だろう。


だが――。


「商品だからって手加減はしてやらないがな」


俺は振り返りもせず親指で鍔を弾いた。


カチリ。


鯉口を切る。と同時にわずかに横に避け、つんのめったラプターの首を落とし、もう一匹は下から逆袈裟に切り上げる。


「ギャッ!?」


飛びかかってきた2体が静止し、その場にくたっと崩れ落ちる。


包囲網がどよめく。ワケではないが、何かしら只ならぬ脅威を感じているのが伝わってきた。 俺はそのままゆっくりと群れの中心へと歩を進めた。


「どうした? ホラかかってこいよ。」


俺の挑発を理解できたのか残りのラプターたちが激昂する。 正面、左右、上空からの跳躍攻撃。全方位からの飽和攻撃だ。 だが、俺には領域内全てを把握できる【絶対音域アブソリュート・ゾーン】がある。半径5メートル以内の空気の振動はすべて俺の支配下だ。


水影を展開し、背後を守らせる。



空気を切り裂く音すらなく、ラプター達の固いはずの自慢の鱗を【竜胆】は事も無げに割いていく。


サクッ! スパッ!


「キャンッ!?」


狙うのは急所――頚動脈だけだ。 噴水のように血が吹き出るが、俺はフォノンで不可視の傘を展開しているため、一滴も浴びない。 むしろ赤い液体は俺の触媒として利用され、目つぶしなどに使わせてもらった。数分もしないうちに俺の周囲には10頭近いラプターの死体が転がっていた。


「大量だな。やっとフィールドデビューを果たせたな。いくら位になるかな…」


俺はブツブツと皮算用をしながら汚れていない愛刀を血振るいをして、カチャリと納刀した。 その納刀音にビクリと震えながらも、群れの奥に控えていた一際巨大な個体が前に出た。 体長4メートル近い、群れのリーダーが臨戦態勢を取っていた。黒い鱗に走る赤いラインがその凶暴さと希少性を物語っている。


「グルルルル……ッ!!」


部下を倒された怒りか、それとも強者への対抗心か。 ボスラプターは低い唸り声を上げ、全身の筋肉を膨張させた。


「お前は特に高く売れそうだ」


俺はニヤリと笑い、再び柄に手をかけた。 ボスラプターが地面を蹴る。土煙が爆発し、黒い弾丸となって俺に迫る。 その推定速度は90キロオーバー。


俺は迎え撃つ構えを取る。 こいつを綺麗に仕留めれば、今日の稼ぎは目標額を超える


――そう思った瞬間だった。


フッ……。


音が消えた。


俺の【絶対音域】が上空からの異様な「静寂」を感知した。 風切り音がない。羽ばたき音もない。 ただ巨大な質量だけが音もなく空から落ちてくる。


「――ッ!?」


俺はとっさにバックステップで回避した。 だが、ボスラプターは気づかなかった。獲物(俺)しか見ていなかった。


ズドォォォォォォンッ!!


音のない落雷のような衝撃。 俺とアルファの間に、巨大な土煙が舞い上がる。


「ギャアアアアアッ!?」


土煙の中から聞こえたのはボスラプターの断末魔だった。 そして、『グチャリ』という湿った破砕音。骨が、肉が、一瞬で圧し潰される音。


「……な、なんだ?」


俺は目を細める。 土煙が風に流され、その全貌が明らかになる。



体長5メートル。広げた翼は10メートルを超えるだろうか。 頭部は白い羽毛に覆われ、嘴は金属的な黒色。鶏冠が興奮によって王冠のように逆立っている。 その瞳は銀色で感情のない冷徹な捕食者の目。 上半身は巨大な鷲、下半身は強靭な獅子。


鷲獅子グリフォン】。


その左足の鉤爪は、ついさっきまで俺が値踏みしていたアルファの胴体を、まるで枯れ枝のように握り潰していた。 鋼鉄並みに硬いはずのラプターの黒い鱗が紙くずのように砕け散っている。


「……おいおい」


俺は呆れ、そして舌打ちした。


グリフォンは死に絶えたアルファを握りながらギロリと俺を見た。 その威圧感は、ラプターの比ではない。


「横取りの横取りとはいい度胸だ」


俺の脳内で、瞬時に計算(スペック比較)が走る。 ラプターはただの雑魚だった。だが、こいつは違う。 あの握力。あの消音飛行。そして何より、この圧倒的な存在感。


「……訂正だ」


俺は口角を吊り上げ、愛刀【竜胆】を握り直した。


「そこのトカゲよりも、お前の方が遥かに『イイ素材』になりそうだ」


その鉤爪、その翼、その筋肉。多分相当な市場価値 と見た。俺はターゲットを地上から天空へと変更し、最強の獣を見上げ不敵に笑った。


「勝負だ」


俺は全身の細胞を起こすように深く息を吸い込み、脳内のスイッチを切り替える。 相手は空の王者。生半可な出力では傷一つつけられないだろう。ならばこちらもスペックを全開にするまで。


フォノン・ドライブ、最大出力。


「展開」


――【水影】が噴き上がる。 それは俺の意志に呼応して形を変え、全面を覆う漆黒の盾へと変化した。さらにその表面に微細な振動を与える。


キィィィン……


超高周波によるナノ・パターニング。 【音響メタマテリアル】による光学迷彩だ。 俺の姿が陽炎のように揺らぎ、次の瞬間、フッと景色に溶け込んで消失する。


同時に足音は【逆位相キャンセル】で無音化。


視覚、嗅覚、聴覚。 生物が敵を認識するための「三大センサー」を、物理法則ごとハッキングして遮断した。


今の俺は、この草原にぽっかりと空いた「無」だ。


「……!」


その異常を敏感に感じ取ったらしい。 グリフォンの動きがピタリと止まる。 銀色の瞳が左右に忙しなく動き、目の前から突然消えた「獲物」を探している。 だが、見つかるはずがない。俺は既に、奴の懐――死角である左翼の下に潜り込んでいるのだから。


(距離5メートル。まもなく竜胆の間合い)


俺は愛刀【竜胆】に、超高速振動を乗せる。 切れ味を極限まで高めたその刃で狙うは翼の付け根。 まずは機動力を奪い、地に這わせてからゆっくりと首を落とす。


(……チェックメイトだ)


俺が踏み込み、不可視の一撃を放とうとしたその刹那だった。


「キィィィエエエエエッ!!!」


グリフォンが金切り声を上げて全身の毛を逆立てた。 俺を見たのではない。 「何も感じない空間」が迫ってくるという生物としての根源的な恐怖に反応したのだ。


風圧。 それは、ただの羽ばたきではなかった。


ドォォォォンッ!!


爆発的なダウンバースト。 グリフォンが翼を叩きつけた瞬間、俺の周囲の空気が圧縮され、物理的な衝撃波となって俺を押し戻した。


「チッ……!」


俺はとっさに水影をシールドに変え、衝撃を受け流す。 目隠しが剥がれ、俺の姿が再び現れる。


だがグリフォンに戦う意思はなかった。 奴は俺を「餌」ではなく「得体のしれない敵」と認識したのだ。 賢い獣だ。危険な喧嘩はしない主義らしい。


「逃がすかよ!」


俺は地を蹴り、跳躍する。 だが、王者の逃げ足は俺の想定を上回っていた。


グリフォンは離陸と同時に、足元の死体を鷲掴みにした。 先ほど俺が殺したボスラプター(推定重量300キロ)。 さらに、まだ息があった手近なラプター2匹も、器用に両足の指で分厚く掴み取る。


計3体。総重量1トン近い荷物を抱えながらグリフォンは垂直に空へと舞い上がった。


「なっ……!?」


俺の刃が、虚しく空を切る。 速い。そして、なんというパワーだ。 重力など存在しないかのように奴は一瞬で上空50メートルへと到達していた。


「グルルルゥ……」


空の安全圏へ逃れたグリフォンは、俺を見下ろしながら一度だけ鳴いた。


バサッ、バサッ。


巨大な翼が風を掴み、あっという間に山岳地帯の方角へと飛び去っていく。 掴まれた2匹のラプターが、空中で悲痛な叫びを上げていたが、すぐに小さくなって聞こえなくなった。


「……ははっ」


俺は刀を下げ、呆然と空を見上げた。 悔しいが完敗だ。 ステルスを見破った勘の良さ、 即座に撤退を選んだ判断力。 そして、あの重量物を抱えて尚、俺の初速を上回る上昇性能。


「逃げられたか。……だが、いいものが見れたな」


俺は納刀し、奴が消えた岩山の方角を眺めた。


素材としては逃したが、あそこまでの性能を見せつけられては、もう「素材」として見ることはできない。 あれだけのペイロードがあれば、俺と荷物を乗せて大陸横断すら可能だろう。


「待ってろよ、このヤロー」


俺はニヤリと笑った。

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