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異世界でもぎりヤれるっちゃヤれる。(ギリとは言っていない)  作者: ひとよが


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16/18

ギリ徒歩移動

「ヒビキ様、折り入ってご相談がございます」


【奈落の霊廟】での一件から数日。冒険者ギルドを通じて俺を指名してきたのは、専属契約を結んでいるマルコ商会の会長、マルコその人だった。


商会の応接室に通された俺の前には、芳醇な香りを放つ紅茶と羊皮紙の束が置かれている。


「単刀直入に申し上げましょう。隣接するバルトロメ伯爵領までの輸送護衛をお願いしたいのです」


マルコの話を要約するとこうだ。 先日、俺が解体に関わった(そして素材の一部を市場に流した)「鉄竜アイアンドラゴニア」の素材。その中でも最高級の部位は王都へ送られたが、加工難易度が高く余剰となった装甲板や牙――いわゆる「余り」を、隣の伯爵領で開催されるオークションに出品することになったらしい。


「余りと言っても、一般の市場に出れば家が一軒建つ代物です。道中の安全を期すため、伯爵家からの私兵団に加え、我が商会からも精鋭を出すのですが……ヒビキ様にも、遊撃としてのバックアップをお願いしたいのです」


報酬は金貨1枚。移動距離は片道徒歩で三日。 悪くない条件だ。俺は紅茶を飲み干し承諾のサインをした。


         ***


翌朝。街の門前に集結したキャラバンを見て俺は早くも憂鬱になった。


荷馬車は三台。それを守るのがバルトロメ伯爵家の私兵団が10名。全身を磨き上げられたプレートアーマーで固めたいかにもといった風体の男たちだ。 そしてマルコ商会が雇った傭兵が10名。こちらは皮鎧やチェーンメイルを組み合わせた実戦仕様だが、柄が悪くすでに昼間から酒臭い奴もいる。


計20名の護衛団。戦力過剰にも思えるがそれだけ積荷の価値が高いということか。


「おい、そこの貧相な兄ちゃん。お前が(二刀流)の冒険者か?」


傭兵の一人がニヤニヤしながら声をかけてきた。俺の装備――軽装のジャケットに剣一本――が、彼らの目には頼りなく映ったのだろう。


「足手まといになるなよ。俺たちの仕事が増えるんだからな」


俺は無視して隊列の最後尾についた。 問題は彼らの態度ではない。「移動手段」だ。


マルコや商会の幹部は屋根付きの馬車に乗る。伯爵家の私兵団のうち隊長格は馬に乗っている。 だが、俺たち傭兵(護衛)は「徒歩」だ。


舗装されていない土の街道。前を行く馬車が巻き上げる砂埃を吸い込みながら、ひたすら歩く。 現代日本で車や電車に慣れきった身としては、この「非効率」極まりない移動が苦痛で仕方がない。


(時速約4キロ。休憩を含めると一日の移動距離はせいぜい30キロか……。遅すぎる)


馬が欲しい。 俺は切実に「機動力」への渇望を抱いた。


         ***


道中、何度か魔物の襲撃があった。 「ゴブリンの群れだ! 蹴散らせ!」 「オークが出たぞ! 前衛、盾を構えろ!」


その度に、伯爵家の私兵たちが大声を上げて突っ込んでいく。彼らは実戦経験こそありそうだが、動きが堅い。教科書通りの陣形を組むことに固執し、個々の判断が遅いのだ。 対して商会の傭兵たちは、連携こそ皆無だが個々の殺傷能力は高い。


俺が出る幕はなかった。 というより、出る必要がなかった。俺は最後尾でアクビを噛み殺しながら、周囲の警戒(ソナー探知)だけを行っていた。


(……反応あり。数が多いな。30……いや、32か)


街道沿いの森の中。木々の反射音が、複数の「人間」の輪郭を描き出していた。 魔物ではない。知性を持った動き。そして殺気。


「敵襲ッ!!盗賊だ! 守れ! 荷馬車を囲め!!」


俺が声を上げると隊列が停止する。しばらくすると先頭の馬車に向けて矢の雨が降り注いだ。

伯爵家の私兵団長が号令を叫ぶ。 森の中から現れたのは薄汚い格好をした盗賊団だった。だが、ただの野盗ではない。動きが統率されている。おそらくどこかの傭兵崩れか、あるいは脱走兵か。


「ヒャハハ! 鉄竜の素材はいただくぜぇ!」


何故積荷を知っているのかは後で答え合わせをするとしよう。 とりあえず号令と共に乱戦が始まった。 戦況は予想外に拮抗……いや、護衛側の劣勢だった。


「ぐあっ!?」  「クソッ、こいつら連携が……!」


伯爵家の兵士たちは、狭い街道での乱戦に慣れていない。長い槍や大剣が味方の邪魔になり思うように動けていないのだ。一方の盗賊たちは、短剣や手斧で懐に入り込み、鎧の隙間を的確に狙ってくる。


次々と血飛沫が舞う。 商会の傭兵たちも善戦しているが数の暴力と地の利が相手にあるので徐々に押され始めている。


(……やれやれ。俺への支払いがなくなるのは困る)


俺は短い溜息をつき、スッと前に出た。


抜刀。フォノンブレード。


俺は盗賊の群れに突っ込むことはしない。ただ、馬車に取り付こうとした数人の足元へ向けて剣を振るう。


キィィィン……


愛刀の魔剣【竜胆】が盗賊たちの足首を撫でた。


「あ?」


ドサッ、ドサッ。 馬車に手をかけた盗賊たちが、一斉に転倒する。足首から先が、まるで最初から繋がっていなかったかのように切断されていた。


「ギャアアアアアッ!?」  「な、なんだ!? 何が起きた!?」


遅れてやってくる激痛と、噴き出す鮮血。 未知の攻撃に、盗賊たちの動きが止まる。 その隙を、傭兵たちは見逃さなかった。


「今だ! 押し返せ!」


体勢を立て直した護衛団が、怯んだ盗賊たちを次々と串刺しにしていく。 俺は血振るいをして納刀し、再び最後尾の定位置に戻った。俺がやったとは誰も気づいていない。ただ「運良く盗賊が転んだ」とでも思っているだろう。その後は水影で戦況をサポート(敵の邪魔)するだけ。


結果として盗賊団は壊滅し、撃退に成功した。 だが被害は小さくなかった。


「いてて……畜生、腕をやられた」 「おい、こっちは足に矢が刺さってるぞ! 回復薬を持ってこい!」


伯爵家の私兵が3名、傭兵が5名。計8名が深手を負い、うめき声を上げている。 死者が出なかったのは幸いだが、我々の戦闘能力は著しく低下した。残りの道程は俺の負担が増えることになりそうだ。


「……やっぱり、馬車か馬が必要だな」


血と土埃の匂いが充満する中、俺は誰にも聞こえない声で呟いた。 自分の足で歩くというのはリスク管理の観点からも、エネルギー効率の観点からも最悪だ。 この仕事が終わったら報酬で何かしらの「足」を確保しよう。そう心に決めた。


         ***


三日目の夕刻。 満身創痍のキャラバンは、ようやくバルトロメ伯爵領に到着した。その街は、俺が拠点としている迷宮都市ラビリンとはまた違った「血と鉄」の匂いがした。ここは地理的に重要な意味を持つ。隣国との国境沿いに位置し、有事に備え常に一定の緊張感がある。巨大な石壁に囲まれた街路を行き交うのは洗練された冒険者というよりは、戦場帰りの傭兵のような荒々しい連中ばかりだ。だが、その殺伐とした空気が今の俺には妙に心地よかった。


「ふぅ……やっと着いたか」


俺は都市の城壁をくぐりながら、足の裏の痛みを覚えた。 が、割と徒歩の旅もロマンかもしれない。


城下町へ足を踏みいれる。多少の被害はあったものの、取り敢えず無事伯爵邸に納品を済ませ、報酬の半分を受け取って新しい街へ繰り出す。



【城塞都市バルドゲート】

城壁をくぐった瞬間、鼻を突いたのは鉄と脂の匂いだった。 石畳は黒ずんでおり、行き交う荷車には今しがた狩られたばかりの巨大な猪のような魔物が山積みにされている。


ダンジョンの魔物は死ぬと塵になり「魔石」か「ドロップ品」を残すが、フィールドの魔物は「死体」がそのまま残る。 そのため、この街には巨大な解体所、なめし革工場、骨加工所が立ち並び、街全体に鉄錆と獣臭、そして薬品の匂いが漂っている。「解体」が主要産業となっているようだ。


しばらく観光がてら街を見て回る。解体が主なだけあってあらゆる肉料理の屋台が腹の虫を刺激した。


「ダンジョンは『ゲーム的』だが、こっちは『現実的』だな。血抜き、皮剥ぎ、保存処理……手間はかかるがその分、特定の素材が高値で取引されるってわけか。なるほど、ダンジョンの『ドロップ品』とは違う生々しい『資源』の街か」


ゲーマーと言うより男としての血が騒ぐ。マルコに話してしばらくこの街に滞在する旨を伝え、帰りの護衛はキャンセルしてもらい、代わりに素材採取の依頼を受けた。この街にもマルコ商会の支店があるらしく、こっちは主に仕入れをしているらしい。


この新たな街、城塞都市バルドゲートでの冒険の始まりだ。

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