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異世界でもぎりヤれるっちゃヤれる。(ギリとは言っていない)  作者: ひとよが


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ギリ転生成功

「今日のニュースです。本日未明、八王子市にある国立物理科学研究所で爆発事故が発生しました。建物の一部が空間ごと抉られたように消失し、夜間巡回中の警備員一名が現在も行方不明となっています」


            ***


音羽おとわ ひびき。39歳、独身。研究所の警備員……ふむ、巻き込まれたのは貴方一人ですね」


目の前でぼんやりしたかすみのようなモノが事務的に話しかけてくる。  神様か? それとも仏様?  いや、そもそも俺自身の体、ぼんやりとした光のモヤになっている。なんだこりゃ。


「あの研究所、局地的な極小ブラックホールの生成実験をしてたんですよ。文明レベル3.3の惑星にしてはですが…頑張りましたが…まあ、0.0002秒で蒸発しましたしラッキーパンチですけどね」


(もしかして高度文明を持つ宇宙人……?)


「で、どうします? 貴方、肉体は消滅しましたが、そのブラックホールの特異点効果で『思念体』として進化しちゃったんですよ。文明レベル3.3本来ならあと5万年は進化にかかる『精神生命体』の領域です」


(へぇ……)


「『へぇ』って……もっと驚いてくださいよ。ただ問題なのは貴方のレベルが低すぎて我々の集合精神(ハイヴ)には接続できないことです。なので、別の肉体に押し込んで転生させますね。元の地球の座標は分からなくなったので似たような環境の星に送りますね」


(なんか、警察24時の酔っ払いを処理する警官みたいな手際だな……)


「じゃ、あとは一人で頑張ってください。言葉は通じるようにしておきますから。あ、もうブラックホールは作らないでくださいね?」


俺のツッコミも虚しく目の前に再び黒い穴が現れる。  吸い込まれる直前、俺は走馬灯のように最後の記憶を思い出していた。  あの日、警報が鳴り響く研究所で、逃げ遅れた所員がいないか確認に戻ったんだ。そこで俺はあのおぞましくも美しい黒い光に飲み込まれた。    ……ま、39年、特にいいこともない人生だった。  次はもう少しマシな人生だといいんだが。


            ***


意識が戻ると俺は森の中にいた。  結論から言おう。  異世界転生、身体の再構築(若返りと身長アップのイケメン化)、言語サービス、中世レベルの剣と魔法の世界(モンスター付き)  男の夢がすべて揃ったこの世界で、俺は唯一【スキル】選びに失敗した。


身体が再構築される際、顔の造形や身長の微調整というキャラメイクに凝りすぎて、肝心のスキル設定時間をタイムオーバーしてしまったのだ。  結果、ブラックホールに飲まれた時に近くにあった実験機材の特性がそのまま俺のスキルとして定着してしまった。


その能力の名は【音響操作】。 掌から「ブゥン」とか「キィィィン」とか音が出る。それだけだ。


この世界において音が出るだけの人間など売れない吟遊詩人以下だ。  魔法も使えない、剣を買う金もない。  冒険者ギルドで「プッ、音が出るだけ? 宴会芸にはいいかもな!」と嘲笑されながら、俺は今日までの一週間、朝から晩まで薬草採取と薪拾いで食いつないできた。


「はぁ……なんか思ってたのと違う……」


現代知識で無双しようにも、水車や揚水技術は「水魔法」がすべて解決してしまう。知識も通用しない。  安宿に泊まる金もなく、馬小屋の隅にある干し草が俺のベッドだ(有料)。  疲れた身体を横たえ、月明かりに照らされた自分の掌を見つめる。


「音響、か……。あの研究所にあった機械って数百億するのが4~5個有るって聞いてたけど……」


それが本当ならなんか物凄い能力になりそうなもんだが。そんな物思いにふけながら床に就く。その夜、あの霞のような宇宙人が夢枕に立った。  見るに見かねたのかもしれない。


『あのね、音響じゃなくて【音響量子フォノン】だってば。暇つぶしに読んでた説明書、思い出しなよ』


(いや〜、難しすぎて覚えてないんだよね……)


『はぁ……いい? よく聞いて』


彼(?)はまるで理科の先生のように語りだした。


『光の正体は小さな粒、光子(フォトン)だ。同じ様に音や振動も小さな粒として扱える。それを【音響量子フォノン】と言うんだ』 『エネルギーとは原子の動き。つまり、音と熱は兄弟なんだよ。今のキミにとって、「大声で叫ぶ」ことと「お湯を沸かす」ことは、同じカテゴリの作業だ』 『後は自分で試しなよ。じゃ、もう二度と会わないと思うけど、頑張って』


「……んはっ!」


バサッ、と起き上がると、馬たちが驚いてこちらを見ていた。  夢じゃない。あの感覚、頭の中に数式が流れ込んでくるような感覚は本物だ。


「フォノン……音と熱は、兄弟……」


俺は実験を始めた。  掌を干し草に向け、イメージする。ただの音じゃない、分子を揺らす振動としての音を。


高周波、超音波、そしてその逆の位相。  試行錯誤を繰り返していると――


「ボッ!」


突然、干し草が発火した。  慌てて叩き消したが俺の心臓は早鐘を打っていた。魔法石も火打石も使わず、ただ「音」だけで熱が生まれたのだ。原因はそこに落ちていた真っ赤になった小さな小さな金属片。


それからの生活は激変した。  火を起こせれば生の木の実だけでなく、肉や魚が焼ける。  罠にかかった角ウサギの肉を焼いて食った時、身体の底から力がみなぎるのを感じた。文明社会という檻で忘れていた、オスの本能が目覚めるような感覚。


そして数日後の夜。俺は焚き火の前でふと思いついた。  

――振動を与えて熱が生まれるなら、逆に「熱エネルギーの塊」である炎に音をぶつけたらどうなる?


俺はだらりと下げた右手を掌だけ燃え盛る焚き火に向けた。  前に何かの動画で見た『音で火を消す』のに最適とされる「重低音」。  掌をスピーカー(指向性デバイス)に見立て、喉から発する声に重低音を乗せて撃ち出すイメージ。


「……消えろ」


ドゥン。  短く、低く、空気が震えた。


――次の瞬間。  炎が風に吹かれたように暴れ、薪の根元から強引に引き剥がされ――フッと虚空へ消え失せた。    風など吹いていない。  俺が、俺のスキル(フォノン)で、目の前の物理現象をねじ伏せたのだ。


「間違いない……!」


暗闇の中で俺はニヤリと笑った。  魔法が常識の世界で、魔法を凌駕する物理法則(チート)を手に入れた確信。    俺の異世界生活は、ここから始まる。


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