最終章:平和な日々
十年後。
私は、城を出て、小さな村の外れに家を建てた。
庭には、広大なハーブ園。
ラベンダーの丘、ローズマリーの小道、カモミールの草原。
村の人々は、私のことを「香りの魔女」と呼ぶ。
悪い意味ではなく、慈しみを込めて。
ある日、白髪のロドリゴが訪れた。
今は国王だ。
「エリアーデ。また、カモミールを届けに来たよ」
「王様が、わざわざ?」
「いや、今はただのロドリゴだ。母の思い出も、君の香りで、やさしくなれた」
「私も、ただのエリアーデよ」
悪役令嬢でも、ヒロインでもない。
ただ、ハーブが好きな、普通の女。
夕暮れの中、二人でティータイムを過ごす。
風がラベンダーの香りを運んだ。
「……平和だな」
「うん。ずっと、これでいい」
前世の自分も、きっと微笑んでいるだろう。
──悪役令嬢だけど、大好きなハーブを育てて、平和に暮らしたい。
その願いは、叶った。
「レッテル」を超えて、自分らしく生きる勇気。
私は前世の記憶を持ち、運命を知っていたからこそ、選択を変えられた。
でも、本当に変わったのは、ハーブを通じて人とかかわった瞬間だった。
癒しは、力ではない。
でも、静かに、確実に、心を変えていく。
──あなたにも、何か「大好きなこと」がありますか?
──それが、世界を変える鍵になるかもしれません。
──香りとともに、今日も、平和な一日を。
THE END