第五章:災いの薔薇
ある日、城に異変が起きた。
「エリアーデ様! 南の村に、謎の病が広がっています!」
「病?」
「発熱、幻覚、そして昏睡……医者も手を焼いています」
私はハッとした。
──黒い薔薇の毒。
ゲームの隠しイベントにあった。
悪役令嬢が、ヒロインを陥れるために使った毒。
だが、今回は、誰かが意図せず、その植物を育ててしまったのかもしれない。
「アーロンさん! 黒い薔薇って、この城にありますか?」
「いえ、見たことは……でも、古い温室の奥に、手入れされていない区画があります。もしかしたら……」
私はすぐに温室へ向かった。
埃とカビのにおい。
朽ちた木の棚。
そして──奥の暗がりに、黒く光る薔薇が咲いていた。
「……『夜の嘆き』……伝説の毒薔薇」
私は慎重にそれを掘り起こし、鉛の箱に封じる。
これ以上、広めないために。
そして、村へ向かった。
村人たちは恐怖に怯えている。
子どもが倒れ、大人も動けない。
私はハーブを駆使して、解毒のスプレーを作った。
「ラベンダーで神経を鎮め、セージで炎症を抑え、カモミールで体を休ませる……これで、少しは楽になるはず」
村人にスプレーを配り、部屋に香りを広げる。
三日後、熱は下がり、意識も戻った。
村長が涙を流して私に言う。
「あなたは……悪役令嬢だと聞いたが、まるで聖女だ」
「いえ……ただ、ハーブが好きなだけです」