第三章:ヒロインとの出会い
ある朝、ハーブ園に見知らぬ少女が立っていた。
白いドレスに、栗色の髪をふわりと結んだ、可憐な少女。
大きな瞳に、どこか物憂げな表情。
──オルガ・ザイツェワ。
ゲームのヒロイン。
王太子の婚約者候補。
そして、私の「敵」。
「……こんにちは」
彼女が小さく声をかけてきた。
「あ、こんにちは」
「あの……このハーブ園は……」
「ここは私のハーブ園よ。良かったら近くで見てみる?」
「いいのですか? お邪魔しないかしら……」
「大丈夫よ。香りを楽しんで」
オルガはゆっくりと園内に入り、ラベンダーに手を伸ばす。
「……いい香りね。癒されるわ」
「ラベンダーは、不安や怒りを静めてくれるの。あと、虫除けにもなるし、お茶にしても美味しいよ」
「本当にハーブ好きなのね」
「大好き。前世でも、育てていたくらい」
「前世……?」
「あ、ごめん。変なこと言った」
オルガは私に笑いかける。
「でも、あなた、思ってたより……優しそうね」
「え?」
「だって、みんながあなたのことを怖がってる。高慢で、誰にも頭を下げないって。でも、こんな風に、植物と向き合ってるあなたを見たら……違う気がする」
私は胸が熱くなった。
──この子は、悪役令嬢のレッテルを剥がそうとしている。
「……ありがとう。でも、私は、本当に変わろうとしてるの。だから、これからも、この園で、静かに暮らしたい」
「それなら……私も、時々、お邪魔してもいい?」
「もちろん、いつでも来てね」
オルガが去った後、私は空を見上げた。
「……もしかして、未来って、変えられる?」