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第一章:目覚めたのは、悪役令嬢の身体


「……え?」


 目が覚めた瞬間、私は自分がどこにいるのか分からなかった。

 白い天蓋付きのベッド。

 絨毯に敷かれた薔薇の模様。

 窓の外には、夕焼けに染まる城の尖塔が見える。

 どこかで見たことのある風景。

 けれど、これは……まさか。


「エリアーデ・ノクティア・アルトフォール様、お目覚めですか?」


 声に振り向くと、控えめな笑顔を浮かべたメイドが立っていた。

 銀縁の眼鏡をかけ、黒い制服に白いエプロン。

 髪はきっちりと後ろで結ばれている。

 見たことのある顔だ。


「え、あの……」

「お加減はいかがですか? 昨日、庭園で気を失われたと聞いて、心配しておりました」

「庭園で……?」


 記憶が戻ってくる。

 彼女はゲームのキャラクター、エミリアだ。

 私は、前世で『恋する王太子と運命の乙女』という乙女ゲームをプレイしていた。

 そのゲームのヒロイン、オルガ・ザイツェワのライバル、悪役令嬢エリアーデ・ノクティア・アルトフォール。

 傲慢で高飛車、ヒロインをいじめ、王太子に迫り、最終的には追放される運命のキャラ。

 そして今、私はそのエリアーデの身体に、魂ごと移っていた。


「まさか……リインカーネーション? 転生?」

「……? お体がまだお辛いようですね。お薬をお持ちしましょうか?」

「い、いえ、大丈夫です。ありがとう、エミリア」


 私は慌てて答えた。

 メイドに疑われてはまずい。

 とりあえず、状況を把握しないと。

 ──私は、悪役令嬢エリアーデになった。

 前世では、ゲームオーバーのたびに「またこのルートか……」と嘆いていたキャラだ。

 でも、今なら違う。

 記憶がある。

 未来が見える。

 そして、何より──


「庭園……ハーブ園があるって、ゲームの設定にあったわよね……」


 私はベッドから起き上がり、窓の外を見つめた。

 夕暮れの中、城の裏手に広がる小さな庭。

 そこには、薄紫色のラベンダー、青いセージ、白いカモミールが風に揺れている。


「……ああ、好きだったな」


 前世、私は小さなアパートのベランダでハーブを育てていた。

 仕事に追われ、疲れた心を癒すために、ティーハーブを育て、アロマを作っていた。

 それが唯一の癒しで、小さな幸せだった。

 それが、ここにある。


「……もう、悪役なんかやりたくない。いじめも、王太子の気を引くのも、全部やめる。ただ、ハーブを育てて、静かに暮らしたい」


 私は心に決めた。

 ──大好きなハーブを育てて、平和に暮らす。



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