賞賛される僕、誰にも知られない彼女
「彼は英雄だ」
僕たちの生活の中心、“通信魔法ネットワーク”はその言葉であふれかえった。
≪弱き者を見捨てなかった勇気ある生徒≫
≪彼こそが正義だ≫
≪教育も捨てたものではないな≫
すべてが、僕に向けられた言葉。
だが――
喜びも、名誉も感じない。
◇ ◇ ◇
僕のクラスには、魔法が使えない子がいた。
魔法は100人中99人が持っている能力と言われていて、逆に1人は使えないのだ。
彼女は、その一人だった。
そして、”周りと違う人”というのは、標的にされやすい。
陰で嘲笑され、なんの理由もなく魔法をかけられた。
教師は見て見ぬふりだ。
もちろん僕も。
僕は加担はしていない。
でも、擁護する余裕もなかったんだ。
学校は厳しく、勉強についていくので精一杯。
おまけに教師の気に入らない行動で評価を下げられてはたまらない。
――それがいいわけにならないことなんてわかっている。
それでも、僕にはこうするしかなかったんだ。
◇ ◇ ◇
ある日、いじめとそれに対する教師の対応が露見した。
どこからわかったのか。それはあかされていない。
少なくとも、僕ではない。
なのに――いつのまにか、僕は「沈黙の勇者」として扱われていた。
沈黙しながらも、彼女を救ったヒーローとして。
教師は手のひらをひっくり返し、僕を褒めた。
一応同じ教室で過ごしたんだから、僕が勇者じゃないことくらいわかっているだろうに。
マスコミは何度も僕を取り上げた。視聴率のために。
通信魔法ネットワークは、#沈黙の勇者 がトレンド入りした。何も知らないくせに。
「ヒーロー鑑定団」とやらからメダルが送られてきた。「弱き者への態度」だそうだ。
そんなとき、魔術放送へと招待された。
要するに、「あなたを全世界に発信したい」ということだ。生放送で。
断った。当たり前だ。僕にはそんな権利はない。
しかし、視聴率にとりつかれた担当は、あきらめなかった。
何度も僕に手紙を送りつけてきた。
それも、脅し文句を加えて。
僕は折れた。
その代わり、生放送ですべて本当のことを言おうと、そう決意した。
◇ ◇ ◇
僕は緊張していた。
なにしろ、全世界への生配信に出る機会なんてそうそうない。
僕は、計画を再び復習した。
――今回は、”沈黙の勇者”様に来ていただきました!それでは、今回の経緯を教えてください
僕は、大きく息を吸った。
「――あれは、新しい学年になったころでした」
それから僕は、あの教室で起こったことを包み隠さず話した。
裏でスタッフが焦っているが、気にしない。
僕は、自分の決意を裏切らない。
「わかっていただけたでしょうか、僕は勇者ではありません。ただ、見ていただけの人間なのです」
気が付くと、周りの人間が僕を冷たい目で見ていた。
――本日の放送はここまでです、ご視聴ありがとうございました!
焦った様子でアナウンサーが放送をしめている。
僕はそっけない様子のスタッフに案内され、放送室を後にした。
◇ ◇ ◇
想定通り、通信は荒れた。
≪偽善者≫
≪よくこんなやつ勇者とか言ってたな≫
≪クラスメイトお前以外退学だぞ、よく通えるな≫
≪共犯じゃん≫
――そうだね、わかってたよ。
僕は、通信を閉じた。
あのとき送られてきたメダルを、床へ落とした。
◇ ◇ ◇
部屋の扉が叩かれた。
久しぶりの来訪者だ。
扉を開けると、魔法が使えない彼女だった。
「え……?」
僕が驚いているうちに、彼女は僕の部屋を見回し、床に散らばったごみの中から一つのものをとりだした。
「メダル、もらってもいい?」
僕が突然のことに目を瞬かせていると、畳みかけるように彼女は言った。
「だって、本当に闘ってたのは私だもん」
彼女は、微笑んだ。僕が知っている彼女よりも、よりいきいきとして。
僕は何も言えず、うなずいた。