情報共有のための前準備
「それで、なにがどうなってうちの村が巻き込まれたんですか??」
リコは映像通信で、王子へそう問いかけた。
当然の疑問である。
「もっと言うと、弟は何にまきこまれてるんですか??」
『……それは』
ここで、映像の向こう側から音がした。
アーサーが指でテーブルを軽く弾いたり、滑らせている音だ。
――トンスートントン、トンスー、スートンスー――
「言えないのはわかります。
国防に関することですからね。
でも、うちの村が襲われた。
うちの村の人、強いからなんとかなりましたし。
相手が油断してたのも運が良かったと言えるでしょう。
そちらが衛兵を派遣してくれるのも、別にいいですよ。
守りが固くなるならそれに越したことはない。
でもですね??
だからと言ってなんでもかんでも、守秘義務だと言われて内緒にされたんじゃ、たまったものじゃない。
王都襲撃の際、だ、れ、が、弟をそちらに送り返したかご存知ですか??
そして、だ、れ、が、魔法無効化に対抗する方法を教えたか、ご存知ですか??
ごぞんじでない??
弟は報連相すらしていない、と??」
『いや、その。
リコさんの貢献については、たしかに報告を受けています。
ですが、今回のことは』
また、音がした。
――スートンスートントン――
音は続く。
――トンスートントン――
――スースースー――
――トンスートンスースー――
――トンスー――
――スートンスースートン――
落ち着きなく、指を動かしているのだろう。
「アーサー様?
私はね、別にアーサー様にいちいちこうやって聞かなくても情報は手に入るんです。
でも、アーサー様にも立場があり、未来の弟の家族になるかもしれないことを考慮して、こうして聞いているんです。
私は当事者ですよ??
それでも教えていただけない、と??
先日の、弟が死にかけた件についても、です。
母がたまたま予定を早めてそちらに向かったから事なきを得た。
でも、そうでなかったらどうなっていたか。
わかっていますか??」
将来的に義理の姉になるかもしれない少女は、アーサーを睨んでいる。
『……わかっています。
最悪の事態も有り得た、と』
「なら」
『しかし、言えないものは言えないんです』
リコは苛立ちからか、つま先で苛立たしげに床をコツコツと叩いた。
時折、靴底を床に擦り付ける音も聞こえる
その音は当然、アーサーにも聞こえていた。
コツ、スー
スー、コツ、スースースー
スー、スー、スー、コツ、スー
「わかりました!
通信だけでは埒が明きません。
明日にでも、そちらへ伺いますので。
納得のいく説明をお願いします!!」
リコは感情に任せて乱暴に通信を切った、ように見せた。
ここは、リコの自室である。
防音の魔法をかけているので、誰にも声は聞こえていないはずである。
そんなリコの横から、初代聖女がオロオロと声をかけてきた。
『リコ、どうしたんですか??
せっかくリコにも春が来たと思ったのに』
「族長さんのこと?
春になるか即冬になるかはわかんないけどね。
まぁ、族長さんの件とも繋がってることだよ。
ほら、リンと族長さん――エストさんからも聞いたでしょ?
ニュースにもなってたけど、魔族に襲われたって話。
それと今回の件が繋がってる。
捕まえた魔族も、話が違うとか色々わめいて記憶が自動的に消される魔法を掛けられてたし。
まぁ、いろいろ端折って説明すると。
その中心に、リンがいる。
そして、リンがいるからこそ村が巻き込まれた。
王子様は話したくても話せない。
さっきの会話でも言ってたけど、会話が盗聴されてるみたいだから」
『え?え??
盗聴されてる、なんて言ってましたっけ??』
「ほら、王子様が指でテーブル叩いたり滑らせたりする音、聞こえなかった?
あれ、そういう暗号のやりとりなんだよ。
魔法が使えなくても出来るやつ。
今はほぼ廃れてて、別の暗号を使ったやり取りが主流なんだけどね。
軍でも知ってる人は少ないと思うよ。
だから、まさか王子様があの暗号を知ってるとはおもわなかったけど」
初代聖女メリアが生きた時代にはなかった暗号である。
『そんなことを……。
そういえば、リコも足でトントンやってましたね。
それはもしかして返事だった、とか??』
「そういうこと。
王子様曰く、会話が聞かれている、ってことだった。
たぶん、普通の防音魔法じゃ効果がないんだろうね。
そして、筆談でのやり取りすら警戒している。
だからダメ元で今は廃れてる方法を使ったってところかな。
それで私は、イエスって返した。
そしたら、本当に一瞬だけホッとした顔してた。
だから明日、城までいって王子様と直に話すことにしたの。
それをわざと大きい声で、他の人にも聞こえるように言ったのはそのため。
つまり、罠だよ。
お城の中に忍び込んでるネズミを捕まえる、ネズミ捕り。
それが、私の役目ってわけ」
魔族側の間者が城の中に紛れている。
これは特定班や考察厨から聞いていた情報だ。
王子や上層部も頭を痛めているらしい。
どう対処しても、それらをすり抜けているとのことだ。
今はすんでのところで、なんとかなっている。
しかし特定班からの情報では、リンをあらゆる手で害そうとしている連中がいるとのことだ。
そして、特定班ですらそれが誰なのか、まだ掴めていない。
よほど上手くやっているのだろう。
別にリコが出ていかなくても、そのうち特定班が特定しそうな気はする。
『なるほど』
メリアは感心することしか出来なかった。




