リンと幽霊と王子
声を聞いた。
すすり泣きと、赤ん坊の泣き声だ。
目が覚める。
見ると、リンの目の前に沢山の女性がいた。
赤ちゃんもいた。
視認した瞬間、理解した。
この人たちは、死者だ。
魂だけの存在だ。
まぶたを擦る。
擦りながら、実家にいた時のように声をかける。
リンにとって、このような状況ははじめてではない。
慣れたものだ。
「あー、こんばんわ??」
死者であろうと、挨拶は大事だ。
挨拶をしつつ、周囲を見る。
農業ギルドの建物内にある一室。
そこで、リン以外の者たちが貸し出してもらえた毛布にくるまって雑魚寝をしている。
教祖ちゃん、つまりは女の子を男の雑魚寝に付き合わせるのは、さすがにどうかとなったが、非常事態なので彼女も納得済みである。
全員、起きる気配はない。
《……――》
女性達が、何かを訴える。
その声は、言葉は、リンにしか届かない。聞こえない。
「……ふぁぁあ、はい、はい、了解しました。
あなた達が困っている人達なんですね。
いえ、こっちの話です。
タレコミがあったんですよ。
困ってる人たちがいるから、ここに行けって」
小声で、リンは女性たちにそう説明した。
泣きながら、女性たちはリンに縋りつくように、抱きつくように手を伸ばす。
「大丈夫、大丈夫ですよ。
えぇ、承りました。
元々そのためにここに来たんです。
あぁ、でもそうですね、先に……」
リンは宥めるように、優しく言葉を紡ぐ。
紡ぎながら、指を軽く振るう。
淡い優しい光が、赤ん坊たちを包み込む。
赤ん坊たちが光に包まれ、消えていく。
雑魚寝をしている王子たちは起きる気配は欠片もない。
「赤ちゃん達は、先に神様のもとへ行きました。
もう、大丈夫です。
あなたたちは、すみません。
もうちょっと待ってください」
先に赤ん坊を救った。
赤ん坊たちは、この世界に縛られていなかったから簡単に送り出せたのだ。
でも、女性たちは違う。
鎖のようなものが巻きついて、今はまだ切れそうにないのだ。
これを切らなくてはならない。
でも、直感でリンは理解していた。
いまは、まだ女性たちの鎖は切れないと。
赤ん坊は、鎖が巻きついていなかったのだ。
女性たちは、少しだけ安心した顔になる。
《……――…》
「えぇ、はい。
明日、そちらに行くんで。
水槽に入ってるのはあなた達ってことでいいんですよね?」
女性達の言葉に答えつつ、確認する。
女性達は頷いた。
同時に、王子と特定班、配信者が寝返りをうった。
そちらにリンの意識が向く。
また、女性達へ意識を戻すとその姿は消えていた。
リンは再び、毛布にくるまる。
そして、眠りについた。
直後、王子の瞼が開く。
彼は起きていた。
否、リンの声、呟きで意識が覚醒してしまったのだ。
軽く身動ぎをして、すぐ寝入ってしまったリンの方へ体をむける。
「…………」
しばらく、なにか考えこむようにしていたが、やがて彼も再び眠りについた。




