状況整理
『まぁ、掲示板を見てるから改めて説明できることは少ないな』
映像通信で、考察厨はリコへそう伝えた。
「いえ、ありがとうございます」
リコも自身が集めた情報を考察厨へ伝える。
現状を把握し、情報のすり合わせをするためだ。
『まだ、掲示板は立ててはいないが、リン達はこれからの方針を決めたみたいだ。
それと、手荷物から発信器や術式は発見されなかった。
鑑定士によって鑑定済みだ
んで、方針だが。
とりあえず、山に入ることにしたらしい』
「は?」
『説明する。説明するから。
あのな、アンタの弟が助けた教祖ちゃんが、山に建てた教団の建物で妙なものを見たって言うんだ』
教祖ちゃん、あの可哀想な子だろう。
本来なら弟に一生消えない心の傷を作ることとなる、哀しい女の子だ。
けれど、流れが変わったからか今回はやはり、あの様なことにはならないみたいだ。
リンが泣きながら、血まみれになりながら、救おうとして救えなかった女の子。
「妙なもの?」
『話を聞く限り、おそらく実験施設っぽいんだな、これが』
考察厨の説明によると、教団の施設の中には教祖でも入れない部屋があるのだという。
その部屋で信者となった女性たちが、とても大きな水槽の中に入れられていたらしいのだ。
『教祖ちゃんは、ヤバいって思って見なかったことにした。
けれど、自分に起きている不可解な症状のこともあって、ヤバさの波状攻撃を受けたわけだ』
「そりゃ、逃げ出したくもなるわ。
話を聞く限り、実験施設か何かっぽいし」
『もっとヤバいのが、そこに入っていた信者たちは、教団から脱退したとされてた者たちで、お腹が大きかったらしいんだ。
で、別の水槽には胎児がいたとか。
なんの実験かはわからない。
でも、ろくな事じゃないのはたしかだ。
で、その話を聞いたリンが、』
言葉の途中だったが、その先はなんとなくわかった。
「なんか、良くない事のような気がする。
その人たちを保護しよう、もしくは助けようって言った??」
『大当たり。
教祖ちゃんのことも乗りかかった舟ってことで助けるって約束してた』
「リンらしい」
『一応、助言としてリンの伝手で王子様には定時報告の内容については気をつけるよう言ってもらった』
そこから話はほかの細々した情報のすり合わせとなった。
それらを終えると、通話を切る。
同時に、ずっと横で話を聞いていたメリアヘリコは話しかけた。
「追加のお告げ、したの?」
メリアは神妙な顔でフルフルと、頭を横に振った。
「ということは……」
《私以外の何者かが、この国へ干渉しているみたいです》
「初代聖女様でも把握出来ていない存在?
心当たりは?」
《……あります》
「あるんだ」
《えぇ、生前のことです。
私が勇者や仲間たちと、世界をめぐり救う旅をしていた頃のことです》
なんでも、人間たちが信仰する神様を騙って、邪神がちょっかいを掛けてきていた国があるというのだ。
その時は邪神を追い払い、最終的には魔王討伐後に封印することに成功したらしい。
「なるほど、封印でも解けたかな?」
《でも、それと今回の件がどう結びつくのか》
「ただの妄想だけど、【無能】組織と魔族は繋がってるみたいだから、それじゃない?
あと、リンと王子様の行動が筒抜けなのも、組織の人間か魔族が上層部に紛れ込んでる可能が高い。
発信器がなかったのがその証拠。
たぶん、考察厨さんは気づいてるみたいだけど」
《どういうことです?》
「下手に発信器を付けて、万が一見つかったらそれはそれでマズイでしょ。
だから、王子様からの定時報告とかで居場所を分かるようにさせておくの。
緊急事態になったら、さすがに定時報告はせず王子様もすぐ手短に現状を伝えるだろうし」
《あぁ、なるほど》
「あとは情報を得たら、暗殺者を派遣すればいい。
行先は元々一部の者には知られているわけだし。
さらに、現地には紋章持ちを憎んでる組織とその組織に飼われてる教団があるわけだから、行方不明か事故死に見せかければいい。
王子様も狙われてるのが、紋章持ちなら殺せって目的にも合致するし」
今回は、まったく違う流れになっている。
このまま流れを見ることにしようと、リコは決めた。
※※※
時は少し戻る。
リンは、宿の受付にて、とある人物と再会していた。
リンからしたら、本当に偶然の再会であった。
王都の農業ギルドから、販路拡大やここでしか取り扱っていない農作物の買い付けのために営業さんが出張に来ていたのだ。
しかも、配信者と同じ宿に泊まっていたのである。
暗殺者騒ぎを聞きつけて野次馬をしに来たところを、お互いがお互いを見つけて目を丸くしたのだった。
「強盗騒ぎがあったけど、君の部屋だったんだ」
「あ、あー、いや、正確には違くて、その……」
どう説明したものか。
言葉に困ってしまう。
彼を巻き込む訳にはいかない。
しかし、営業さんは昔から察しがいい。
リンの様子を見て、何かトラブルに巻き込まれていると見ぬいた。
「こんなことになったからには、ここに泊まるの不安でしょ?
なんなら、話通しておくから農業ギルドの建物に泊めてもらう?」
そこで近くにいた王子をチラと見る。
「雑魚寝になるから、慣れていないとキツいと思うけど」
王子に向けられた言葉であった。
王子の返答は、
「いやありがたい」
という実にシンプルなものだった。
営業さんは、携帯端末を取り出すとすぐに農業ギルドへ電話した。
「はい、はい、えぇ、そんなわけで、はいよろしくお願いします」
事情を説明し、リンたちの目の前で話を通してくれたのだった。
直後、考察厨から特定班が伝言を預かってきたと、現れた。
すでに手荷物は自分たちで調べてある。
しかし、発信器は見つからなかった。
そのことを報告してきたのである。
特定班は王子へ、考察厨からの追加の助言を伝えた。
「定時報告を、するな?」
特定班は、考察厨から聞いたままの説明をそのまま王子へする。
王子は納得した。
「わかった。
とりあえず、表向きはこのままここに泊まると報告しておこう」
王子は言いつつ、営業さんを見た。
営業さんは苦笑しつつ、その視線を受ける。
「お役に立てましたか?」
「えぇ、とても」
王子の視線は、営業さんの手の甲へ注がれている。
仕事中で来たのか、少し汚れた軍手が営業さんの手に嵌められていた。
「それは、よかった」
軍手はしたまま、営業さんはポリポリと頭をかいた。
それからすぐにリン達は宿を出て、農業ギルドへと向かった。
場所は、営業さんから聞いている。
迷うこともなくすぐに着いた。
そうして、なんとか全員が体を休めることが出来たのだった。




