リコと綺麗なお姉さんが、何故暗躍してるのか??
※※※
弟との通話を終える。
「なるほど、今回はそっちを先にする、か」
自室にて、リコは初代聖女を見ながら呟いた。
初代聖女メリアは頷く。
《えぇ、今までならもっと後で向かわせていました。
けれど……未来がわかるリコは知っているでしょう?》
リコはそこで一度瞼を閉じた。
未来を見に行くのだ。
リコは未来を知っている。
レアなギフトで【未来予知】というものがある。
なにも知らなければ、【未来予知】と勘違いしたことだろう。
しかし、違うのだ。
もっとずっと稀少なギフトなのだ。
そのギフトとは【時間跳躍】だ。
初めて発現したのは、いつだったか、もう彼女は覚えていない。
ただ、物心着いた頃には使えたのだ。
誰に教えられることもなく、最初から自由に使えたのだ。
最初は他愛ない使い方をしていた。
たとえば、今日の天気は晴れのままなのかとか、明日には世話をしている花が咲くかとか。
自分のためにしかつかっていなかった。
本当にそれだけにしか使っていなかった。
でも、ある日、なんとなく自分の未来が気になった。
将来、どんな大人になっているのか、気になった。
恋人はいるのか?
結婚しているのか??
だとすれば、相手はどんな人だろう??
そんな好奇心が湧き上がり、止められなくなった。
だから、自分が大人になった世界を、未来を見に行ったのだ。
その世界は、地獄だった。
幼い彼女にはトラウマとなるには十分すぎるほどの光景が、広がっていた。
まず目にしたのは、処刑され逆さに吊るされた【聖女紋持ち】と王族の死体だった。
その死体に、明確な悪意と敵意をもって石を投げる人々の光景。
そして未来のリコの記憶も否応なしに叩きつけられた。
革命が起きたのだ。
革命が起きて、そして、王族と聖女紋持ち達が処刑された。
公開処刑だった。
処刑され、吊るされ、辱められている。
その中に、リンの姿もあった。
でも、それは始まりに過ぎなかった。
次々に紋章持ちが狙われ、処刑されていった。
紋章持ちたちは、なぜか能力を無効化され普通の人間と同じかそれ以上に、弱体化されていたのだ。
だから為す術なく、捕まり、殺されていった。
この革命の嵐は、どんどん大きくなっていった。
紋章持ちを産んだ者、輩出した片田舎の村村は襲撃され、住民たちも殺されてしまう。
そんな未来を見てしまった。
知ってしまった。
気づいたら、過去に、その当時の【現在】に戻っていた。
心配そうに覗き込んでいたリンの顔を見て、思わず抱きつき大泣きしたのを覚えている。
怖くて怖くて仕方なかった。
パニックになっていたのだろう。
リンに抱きついたまま、リコは離れることが出来なかった。
説明したくても、まだ上手く説明できない歳だった。
だから家族もリンも、リコが昼寝をしてよほど怖い悪夢を見たのだろうと考えた。
けれど、メリアだけは違った。
メリアはその能力を知っていた。
メリアの伴侶であり、勇者として現代にも語り継がれている青年が持っていたギフトだ。
そのギフトを駆使して、彼は魔王を討伐したのだ。
よりにもよってそのギフトは、王族にではなくリコに遺伝してしまったのだ。
そこから世界に、積極的に関わるようになったのだ。
それまでは、子孫たちの平々凡々な営みを見守り、必要最低限の関わりしか持たなかった彼女だ。
けれど、この一件で動くことにした。
リコが泣かないように。
リコから聞いた未来を回避するために。
そして、リコもあんな世界は見たくないと心の底から思った。
だから、あの世界にしないためにはどうしたらいいかを二人で話し合った。
結論は、【時間跳躍】をつかって、世界を変えることで一致した。
それから、過去と現在と未来を行き来し、失敗を繰り返し続けた。
そうして今に至るのだ。
ようやく、いい流れになってきたのだ。
現在を、少し変えられた。
魔族の襲撃は、本来はもっと悲惨な結末になった。
王家と紋章持ちは、あの一件で国民からの信用と信頼を失い、起死回生の一手として世にも珍しい【男の聖女】を見つけ出してくる。
その先の、ほんの少しだけ先の未来では、そんなリンのお陰で王家は威信を取り戻すことができた。
そんな流れだったのだ。
でも、いまはリンの始まりを変えた。
そのお陰で少しだけ、ほんの少しだけ先の未来も変えられた。
でも、それでも――……。
「いま、未来を見てきた。
うん、変わってない」
リンは処刑され吊るされて、そして石を投げられる。
その未来は、まだ変わっていないのだ。
「さぁ、今回はどうなる?」
この宗教団体が占拠する山へは、もっとずっと後にリンは赴いていた。
そして、リンはそこで悲劇を見るのだ。
己の無力さを叩きつけられるのだ。
歴史は繰り返す。
そんな繰り返した光景を目にする。
でも、今回は悲劇がおこっていない。
まだ、起こっていない。
だから、もしかしたら何かが大きく変わるかもしれない、とリコは考えていた。
では、今までと今回、一体何が違うのか??
今までとの違いを思考しはじめる。
出来事の順番だろうか?
いや、過去にもこの順番で来た。
でも、失敗した。
けれど、今回は上手くいっている。
上手くいき始めた原因があるはずだ。
掲示板か?
否。
何度かリコは掲示板に頼っている。
考察厨達には何度も助けられた。
考察厨達のことは信じられる。
そこで、はたと気付いた。
「あ、そっか、リンだ」
今回だけ、リンが自主的に掲示板を立てているのだ。
リコが立てるより早く、自主的に。
「ねぇ、リンに掲示板を立てるように助言した??」
リコは初代聖女へ問いかける。
《いいえ》
初代聖女メリアではない。
だとすると、何故今回、リンはそんな行動を取ったのか??
取り続けているのか??
少なくともそれは、今までにないことだ。
「無事に帰ってきたら、確認してみよう」
リコが先回りして全ての出来事を解決したこともあった。
でも、それでもやはり未来は変わらないのだ。
リン自身が動くしかないのは、すでに確認している。
「でも、打てる手は一応打っておこう」
リコはメリアと共に暗躍するしかない。
表立って動いたところで、なにも変わらないのはすでに知っているのだから。
わかりやすく説明すると
姉ちゃんだけ、自力でバック・トゥ・ザ・フューチャーしてます。