色々準備してたら、姉から連絡がきた
※※※
そんなこんなで【龍神の山】へ向かうことになった。
その矢先である。
さすがに、姉ちゃんくらいには連絡入れた方がいいかなーと考えていたのだが。
向こうから映像通信があったのだ。
『え、じゃあそこに行くことになったんだ?』
姉には、綺麗なお姉さんのことは見えていないが、存在自体は知っている。
なぜなら、一度も見えているリンのことを疑ったことがないからだ。
「まぁ、うん」
『で、今は旅の支度中ってわけか』
「そういうこと。
あ、そういえば綺麗なお姉さんからのお告げもあったの言うの忘れてた」
『あんたねぇ』
リコが呆れている。
ちょうどそこに、旅支度を手伝うため守護騎士のタクトがやってきた。
彼はリコへ軽く会釈すると仕事をはじめる。
「というか、お城の人達にはお姉さんのこと言ってなかったかも?
言った方がいいかな??」
はて、お姉さんとは誰のことだろう?
タクトは疑問に思いながらも、作業の手は休めない。
『ホウレンソウは大事だからねぇ。
伝えておいた方がいいんじゃない??
なんか、私たちって初代聖女の直系らしいし。
言っても驚かれないとはおもうけど。
あぁ、でも、その宗教団体の人と顔を合わせる事があるなら、その人たちにはお姉さんのことは言わない方がいいかも』
「なんで??」
リコはそこで、リンをまじまじと見た。
『なんでって、え?
あんた知らないの??
その宗教団体、今は【真聖女教】だっけ?
の前身の宗教団体【ディマス教団】がなにしたのか??』
「知ってるよ。
教えてもらった」
そこでリンは横で、手荷物の確認をしているタクトに話を振る。
「たしか、アレだよな?
40年くらい前に、当時の聖女紋持ちや、大聖女様を連続殺人したとかなんとか」
守護騎士のタクトは首肯してみせる。
映像の向こう側から、リコはタクトを見た。
『お二人さん、その【ディマス教団】の末路については??』
「たしか、実行犯が逮捕されたりして解体されたとかって聞いた」
「俺もそう聞いてます」
『ということは、ちゃんと調べてないのか。
今から、かなり胸糞な話するけど、そっちの守護騎士さんはそういうの大丈夫??』
「へ?
えぇ、大丈夫ですよ」
ちょっとやそっとの胸糞話を聞いたところで、気にすることはないとタクトは考えていた。
実際、今まで生きてきてそこそこの修羅場をくぐって来ているのだ。
『教団は追い詰められて、信者ともども集団自殺したんだよ。
それも、まずは信者である母親が自分の子供に毒を飲ませるよう強要して、本当の意味で逃亡できないようにして自死させた。
その数は1000人にも及んだらしいよ。
生き残ったのは、連続襲撃や殺人をしていた実行犯。
そして、その指示役として逮捕された幹部。
あとは、たまたま難を逃れた信者たち。
集団自殺が起きたことを知ったのは、捜査当局が現場に踏み込んでから。
そして、厄介なことにこの時使われた毒物による死は、聖女紋持ちはおろか大聖女でも蘇生することはできなかった』
リンとタクトは目を丸くする。
『その反応からして、ここまでのことは教えられてないのか。
まあ、それもそうか。
王宮、大聖女側からしたら大失態もいいところだしね。
わざわざ自分たちの失敗談を言いふらすことはしない。
王子様や薔薇ジャムさんが、あんたを派遣することを大反対してたのはこういうこと。
そんなやばい宗教団体の後継組織のところに、しかもマイルール掲げて陣取ってる場所に次代の大聖女候補を行かせるなんて、普通はしないでしょ』
そういえばなんで許可されたの?
とリコは尋ねた。
「あぁ、それは勇者も同行するようにって、そっちにもお告げがあったんだって」
『へぇ、なるほどねぇ。
じゃあ、現代の勇者、つまりは勇者紋持ちの王子様も同行するってわけか』
ここで、タクトが軽く手を上げる。
「俺も同行しますよ」
『おや、ということは。
今の教団のマイルールについては知ってる感じ??』
「マイルール??」
リンがコテン、と首を傾げる。
『男子禁制って説明なかった??』
「あった。
そういや、男子禁制なのに俺含めて男の割合多いんだよなぁ。
いいのかな??
山は元から男子禁制なのに」
『違う違う』
リコの言葉に、リンとタクトは今度は2人して首を傾げる。
『あの山、元々女人禁制なんだよ。
それを【真聖女教】が占拠して、男子禁制っていう真逆のマイルール押しつけたの』
「え、えー??
神様のルールをねじまげた??」
『んーと、でも、女人禁制ってのにも理由があって。
山ってさ、野獣やモンスターそこそこいるでしょ??
で、こいつらって肉食じゃん??
血の匂いに惹き付けられるわけよ。
んで、女性には月のものがあるから。
月経が来た人は、入らないでねっていうルールだったんだよ。
終わったら入ってよしってことだった。
加えて、月経ってめちゃくちゃ体調に出たりするから、山登りしてる途中で倒れたりしたら危ないしねー。
そういうのも考慮されてのルールだったわけ』
「なるほど」
『そんな場所に、基本信者が女性しかいない集団が占領してるってことでもあるわけだけど。
……とりあえず、信者連中には見つからないようにしなさいよ。
つーても、リンの顔はわからないとおもうけど』
「???
なんで??」
『修行と称して、信者たちは自給自足の生活してるの。
しかも、文明の利器は誘惑の種になるからってことで、新聞も見てないし、携帯端末すら持っていないから。
なんなら、世俗との関わりをいっさい断ち切ってる』
「マジ?」
ドン引くリンの横で、タクトは驚いたままポツリとつぶやく。
「よく知ってますね。
王宮側ですら、【真聖女教】の情報が全くなくて困っていたのに」
『でしょうねぇ。
なにせ、情報を集めようにも、そこそこの手練れたちが行方不明になってるんじゃねぇ。
また、その行方不明案件を調べようとしても暗礁に乗り上げるときて諦めてる感じだし』
「いや、なんでそんなことまで知ってるんですか??」
さすがにタクトもドン引きしている。
リコはにこにこと笑って、答えた。
『デマも含めて、電脳世界にはいろいろ情報が転がってるものだから。
とりあえず、くれぐれも、いい?
くれぐれも気をつけて行ってらっしゃい』
「え?」
そうして、通信は終わった。
リンは怪訝そうな顔で、今まで通信画面が出ていた場所を見つめる。
「どうかしましたか??」
「あ、いや、姉ちゃんが念押しするなんて珍しいなって思って」
「そうなんですか?
でも、不思議な方ですよね。
この前の魔族襲撃のことも、今にして思うと、まるでなにが起こるか分かりきってたかのような発言が多くて。
もしかして」
「?」
「お姉さん、【未来予知】のギフト持ちだったりします?」
【未来予知】とは、かなりレアなギフトである。
紋章持ち関係なく発現する能力だが、本当に珍しいギフトだ。
「えー、どうだろ??
たぶん、違うかな」
リンはリコについて思い出してみる。
しかし、今までそのようなギフト所持をうかがわせるようなことは無かった。
だから、断言できる。
「いや、違うな」




