リンの行方
まずは、現状の確認からだ。
「忽然と消えたって、守護騎士は??」
『守護騎士もいない』
「二人して消えたってことか。
音声通信も出来ないのか??」
『試してはいるが、電波のないとこにいるか、通信自体を切ってる可能性がある』
そうなると、考察厨から連絡も出来ないだろう。
「……なるほど。
リン達の直前の行動はわかるか??」
『緊急で用意された診療所……まぁ、市民体育館なんだが。
そこで、他の治癒士や紋章無しの聖女たちとバタバタしてて、俺が面会したいって言って、確認した時には居なくなってたらしい』
「ふむ」
攫われたのか、あるいは順番待ちができない者に請われて外に出たのか。
はたまた、なにかしら用事が出来て一時的にその場を離れているのか……。
そこにたまたま特定班がやってきた、とか?
さまざまな可能性が考察厨の頭に浮かんでくる。
「トイレじゃないのか?」
『市民体育館のトイレは1箇所しかない。
トイレはもう確認した。
守護騎士がトイレ前で待ってることも無かったし、中も確認したけど、リンはいなかった。
お?
聖女や鑑定士の増援がきた。
あ、治しかたがわかったのか。
良かった良かっ………たぁ!?!!
なんだ??!!』
通話先から、爆撃のような音とノイズが届く。
「どうした?!」
『――…の襲……受け――る!!』
ノイズが酷くなり、何を言ってるのかよく聞き取れない。
辛うじて、【襲撃】という言葉だけは聞き取れた。
「は、はあ?!!!」
いったい何に襲撃されたのか?
確認出来ずに、その通信は途絶えてしまう。
「なにかヤバいこと起きてる感じか??」
スネークに聞かれ、考察厨が頷いた。
今のやり取りを教えようとする。
しかし、それよりも早く彼らがいる建物が魔法の攻撃を受け倒壊した。
※※※
「……おねえちゃん!!携帯使えなくなったんだけど!!」
そうヒステリックに叫ぶ母親の声に、リンの姉であるリコは冷静に返す。
「電波障害が起きてるみたい。
どこにも通信できなくなってるっぽいよー」
言いつつ、自室にある時計とカレンダーを確認した。
「…………」
なにやら考え込んでいるリコへ、さらに母親の声が届く。
「えー?!困るわよ!!
なんとかならない??
リンも帰れなくなってるっぽくて……。
お姉ちゃん、魔法のこと詳しいでしょ??」
「無茶いわないでよ。
それより、リンと守護騎士さんは??」
「お茶飲んでもらってる」
リンと守護騎士は、リコに無理やり呼びつけられて、この実家にいるのだ。
というのも、いきなり祖母を含め、村人たちの間でも体調不良者が続出したため、無理を言って来てもらったのだ。
そして、帰ろうとしたらコレである。
とりあえず、今後のことについて弟と守護騎士、2人と話し合った方がいい。
リコが部屋を出て、二人を呼びに行こうとした時だ。
ガタっ!!
と、キッチンの方からテーブルが激しく叩かれた音がした。
そして、ドタドタと二人がリコの元へとやってくる。
「姉ちゃん姉ちゃん!!
王都がヤバいことに!!
今、キッチンに置いてあるテレビで映像が流れて!!」
その様子に母親が首を傾げる。
そんな母親をキッチンに送り返す。
テレビを見た方が早いからだ。
ただし、リンと守護騎士のタクトはそのまま自室へ招き入れる。
「たぶん、王都は魔族の襲撃を受けてる。
正確には、王都だけじゃないけどね。
で、その関係で転移魔法が使えなくなってる」
リコの説明に、タクトが目を丸くする。
この短時間でそこまで調べあげていることに、驚いたのだ。
「襲撃って、あの爆発炎上が!?」
リンたちが先程テレビで観たものは、それだった。
見知った建物、たしか商業施設やオフィスなんかが入っていたビルが魔法攻撃により、爆発炎上する映像がいきなり流れたのだ。
放送事故で、いきなりそういう映画でも流れたのかと思ったほどだった。
「おばあちゃん達の体調不良、王都で起きてたのと同じだったんでしょ?」
「うん」
「アレね、生贄の儀式の術式が使われてるの」
「そうなの?!
あの呪いが??」
「そうなの。
で、アレには罠が仕掛けられてた」
「罠?」
双子の姉弟のやりとりを、タクトは静観している。
「一定数の解呪を行うことで、魔族側にそのことがバレる仕組みになってたの」
「そうなの?!」
魔族のことは、随分前にリコはリンや考察厨達から聞いて知っているのだ。
「そうなの。
魔族の目的は、封印された魔王の復活。
魔王を復活させるには、封印を解くための膨大な生命力と魔力が必要なわけ。
だからこその、生贄魔法――呪いってわけ。
おばあちゃん達の体調不良は、そのせいなの」
「マジか」
「で、その生贄の儀式に邪魔が入ったことが、魔族にバレて、王都含めて大陸のあちこちが襲撃されてる最中。
さっき、あんたがテレビで見た攻撃魔法による爆発炎上はそれ」
「で、でもなんで、いきなりそんなこと」
「邪魔が入った時点で、聖女紋持ち含めた、ほかの紋章持ちが出てくることはわかりきってる。
だから、わざと攻撃して死者とケガ人を両方出して、あえて不安とか恐怖の感情も、封印されてる魔王に捧げることにした。
ついでに邪魔な紋章持ちも片付けられるって寸法」
本当はもっと細かい説明をしたいところだが、リンに理解できるとは思わなかった。
だから、リコはあえてざっくりとしか説明しなかった。
その様子を見て、タクトはただ驚くことしか出来なかった。
一体、いつの間にそこまで調べあげていたのか……。
「で、でも、そんな簡単に王都で破壊活動なんて出来るもんなの??
経験豊富な紋章持ちの人は沢山いるわけだし」
「魔族だって、馬鹿じゃない。
ずっと暗躍してたし、魔法の研究だってやってきた。
それこそ、紋章有無関係なしに魔法やスキルを使えなくする技術だって開発してる。
無力化ってやつね。
いま、一部の通信魔法や転移魔法が使えないのはそのせい。
王都はもっと酷い状態だよ。
こんなド田舎はその対象に入ってないから、魔法は使えるけど、王都を含めた主要都市にいる人たちは魔法が使えない状態になってるはず。
まぁ、でも、それは他種族に関してで、無機物による魔法はその無力化から外れてるみたいだけど。
まぁ、それもいつまでもつか」
「なんでわかるの?
無機物関連の魔法はまだ無力化されてないって」
「テレビ、観たんでしょう?
つまり、そういうこと」
リコが答えるのと、
「おねーちゃーん!!
テレビがこわれたー!!
直せない?!」
キッチンで母が叫ぶのは同時だった。
どうやら、機械の方も無力化されてしまったようだ。
「え、どうしよう、ガチでヤバいじゃん」
リンもようやく現状を理解できた。
顔を真っ青にして、姉をみる。
姉は、簡潔に答えた。
「そう、ガチでヤバいんだよ」
でも、と続ける。
「手は、ある」
リコは真っ直ぐ、しかし、どこか不安に揺れる瞳でリンを見た。
「魔法を無効化する魔法、それを使ってるやつを見つけて倒せばいいんだよ」
口調は自信満々だ。
はたから見たら、そんな不安そうな表情もしていない。
だというのに、リコはどこか自信がなさそうだ。
これに気づいたのは、この場ではリンだけだった。
なんで、どうして、この姉にしては珍しく自信が無いのか。
自信がなさそうに見えるのかわからなかった。
でも、それを確認している暇が惜しかった。
「姉ちゃんなら、見つけられるんだよな?」
「もちろん!」
やはり、微かに自信のなさと不安が入り交じった、リンにしかわからない声で、リコは答える。
でも、リンはリコのことを信じているので、やはりわざわざ指摘したりしない。
「なら、今すぐ見つけてくれ!」
「了解!」
リコはニカッと笑って快諾した。




