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「わ! やっぱりそうだ! その制服って白蘭女学院のでしょう? グレーっていうことは二年生!」

「あっ……ええ」

 きらきらと瞳を輝かせる女の子に宝稀が頷くと、「えー!」と興奮した様子で頬を赤くした。

「私っ、本間江威子。海原第一高校の二年生。すぐそこにある高校だよ。ほら、緑の奥に校舎が見えるでしょ?」

 本間江威子は宝稀の後ろを指さして言う。宝稀が振り返ると、木立の向こうに確かに学校らしき建物が見えた。

「ここいらの子は大体そこの高校を受験するの。だから幼稚園や小学校からほぼ同じ顔ばっかり! だけど白蘭女学院は違うものね! っていうか、制服可愛い……っ。すっごい可愛い! 近くで見てみたかったんだあ……!」

 はー! と、大袈裟なほどの溜め息を繰り返して、宝稀をしきりに眺めている。

「あっ、ごめんっ。こんな辺鄙なところで白蘭女学院の生徒を見るなんて初めてだったから、つい……」

「あ、いえ。いいの。あの……お隣、宜しかったらどうぞ」

 もう一つのブランコへ促すと、江威子は嬉しそうに肩を弾ませた。

「あっ、ありがとう! へへっ、じゃあ座っちゃおっ」

 ガチャガチャと持ち手の鎖が音を立て、江威子が腰を下ろした。

「ねえ、名前聞いてもいい? あっ、別に変なことするつもりはないからね。ネットに書き込むとかそういうことしないから。っというか、おしゃべりしてもいいの? アタシ、偶然白蘭の制服を目にして興味津々で近づいてきちゃって…………、だから、……怪しくないと言えば嘘になっちゃうけど……そんな感じなんだけど」

 最後はごにょごにょと言葉を濁す江威子に、宝稀は慌ててかぶりを振った。

「いいのっ。私、今すごくホッとしているの。江威子さんに声を掛けられて、さきほどまでの不安が消えてしまったわ。声を掛けて下さりありがとう」

「……っ。いやあ……えへへ」

 江威子は小さく驚いたあと急に照れ臭そうに笑って、急に立ち上がった。

「ジュース飲む? アタシの奢りね! 甘いの平気?」

「あ、ええ…っ」

「じゃあ、苺ミルクね! バナナミルクもあるよ」

 江威子は公園の入り口にある自販機に駆け寄り、紙パックのジュースを二つ買って戻ってきた。

 ピンク色をしたパックを手渡され、宝稀は素直に受け取る。

「これは……ヒロシさんが公園で飲んでいたドリンク……!」

「ん? ヒロシさん?」

「あっ、ええ。ドラマの……ドラマの主人公が公園で飲んでいたんです。どんな味がするんだろうと以前から興味があって……」

 誰かにドラマの話をするなんて初めてのことで、ドキドキする。

 パックの脇に付いたストローを慎重に外し、天井に付いた白い丸にストローの尖った先を刺す。少し力がいるのはドラマで見て覚えている。

 数話前の記憶を辿り辿りストローを刺し、待望の一口目を吸った。

「――っ。まあ、甘いわ。牛乳に苺を潰した味ね」

 牛乳と言うものの薄めてあるようだ。普段飲んでいるものとはまるで濃さが違い、それがかえって苺フレーバーとよく馴染んでいて飲みやすい。

「だから苺ミルク。こっちはバナナミルク。一口飲んでみる?」

 手渡されて一口飲むと、これまた薄い牛乳にバナナを潰した味がする。

「どちらも栄養価の高い味がしているわ。空腹が癒えるのがわかる。ああ、これが胃に沁みるというのかしら……体が喜んでいるのがわかるわ。素晴らしい」

「大袈裟だなあ。でもお口に合ったみたいでよかった」

「ええ。――あ、私は天樹……」

 全能院と、続けようとして止めた。

「天樹宝稀。宝稀と呼んで下さい」

「ほまれちゃん! ほまれちゃんね!」

 江威子は前のめりになって瞳を輝かせながら言った。

 宝稀さんと呼ばれることはあっても、ちゃんと呼ばれるのははじめてのことで、またドキドキしてきた。

「わ、私も江威子ちゃん……と、そうお呼びしてもいいかしら?」

「もちろん! ほまれちゃんかー! 名前も可愛い……っ。すごいっ、白蘭女学院の生徒ってば、何から何まで漫画のキャラみたいだねっ。名前がビカビカしてる! キラッキラっていうか、伝統と格式みたいなのがあるのねっ。格好いい……!」

 江威子は自分自身を抱き締めながら、大きく身を震わせた。

「それは大袈裟よ」

「大袈裟なんかじゃないよ、当然の反応! ああ、でもつい興奮しちゃうから大袈裟になっちゃうよね。あんまり騒いじゃかえって失礼だとわかっているんだけど、この街で育ってきたアタシにとって山の向こうの白蘭女学院といったら、雲の上の名門のお嬢様学校――秘密の園みたいなものだから、ついつい興奮しちゃうんだ。……ごめん」

 へへ…と、苦笑いした江威子は、ちゅとバナナミルクを飲んだ。

「でもこんなところでどうしたの? 白蘭の生徒は車で移動が決まりでしょ? 街中で生徒を見かけるなんて初めて」

「それが、実は……」

 宝稀は数時間前にあった出来事を話していった。

 迎えの車に乗る直前、サミットさんに声を掛けられて足を止めたこと。

 少し話をしていると、運転手の絢辻がドアを閉めてしまったこと。

 呼び止める宝稀を無視して車に乗り込んだ絢辻は、主人を残して勝手に出発してしまったこと。

 一人残された宝稀を気遣い、サミットさんが送ってくれると言ってくれたが、下心に気が付いてしまい断ってしまったこと。

 そしていざ歩いて下校してみたが、帰り道を覚えておらず金銭も持ち合わせていないため、途方にくれて公園いたこと。

 すべてを話すと、また自分の不甲斐なさに大きく呆れ果ててしまったが、江威子は馬鹿にすることもなく「あらー」と驚いた様子でパックのジュースを吸っていた。

「そっかあ。寄り道とかしないんだ。だからお金を持つ必要もないってことだよね」

「……というより、今まで必要に駆られたことがなくて……我ながら恥ずかしいです」

「そんなことないよー! だってさ、そういうふうに育ってきているわけでしょ? 今まで不便を感じなかったってことは、今まではそれでよかったってこと! 別にほまれちゃんが悪いわけじゃないよ」

「……そ、そう……?」

 思ってもみない返答に宝稀は小さく驚いた。

「そうだよー! アタシたちはいくら学生だからって、大人じゃないっての。まだまだ子供なんだよ? 知らないことなんて山ほどあるし、一つ一つ知っていくのが人生ってもんでしょ? ほまれちゃんは今気が付いたんだから、大正解ってこと」

「……江威子ちゃん……あなたって素晴らしい人ね」

 彼女の言葉で、宝稀は肩の荷が下りたような、心が一気に楽になるのを感じていた。



最後まで読んでいただきありがとうございます。


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