02.
飲み物を買って戻り、暫く喋っていたら薄ら寒さはなくなった。一体何だったのだろうか、と思いもするけれど、良いものではなかったのは当たりだろう。
嫌な気分が残ったままだったけれど、それよりも新たな問題が発生していた。
メグミが戻って来ない
一人頭一○分だと、パンフレットにも、看板にもそう書いてある。それなのに、倍の時間が掛かっていてもメグミは戻って来なかった。
始めの数分は私たちも気にしていなかった。まぁ遅れる場合もあるよね、くらいにしか考えていなかったのもある。けれど流石に一○分オーバーすればおかしいと感じるし、他の二人も困惑し始めた。
お化け屋敷の建物は、まぁ確かに大きい。でも他のお化け屋敷と比べると小さい。二○分も掛かるような規模には思えない。
まだ一○分、と捉えるべきか。それとももう一○分過ぎた、と考えるべきか。
マドカは速い段階からソワソワし始めたし、セイラも次第に軽い雰囲気は消えていった。
驚き過ぎて転んだり、怪我してないだろうか。迷子……はないだろうけど、動けなくなったとか、脱水症状で倒れているなんて事になっていないだろうか。そんな心配が沸いてくる。
いい加減スタッフに相談しに行こう、と話しがまとまった瞬間、焦る私たちを嘲笑うように、お化け屋敷の引き戸がガラリと開いた。
メグミが帰ってきた
戻って来たメグミは若干疲労の色が滲んでおり、顔色も悪かったけれど、それ以外は何の変化もなく、一先ず大丈夫そうだった。
『道草でも食ってたの?』と問うセイラに、メグミは『別に……普通に行って帰って来ただけ』と、首を横に振っていた。
一○分で帰って来られるのに、何事もなく二○分も掛かる?
私は私でメグミの言葉に内心首を傾げたものの、彼女が何もないと言い切ったのもあって聞くに聞けなかった。
そんなやり取りをしていれば、『次はアタシか~』と、マドカが嘆き始めた。
友人が予定より遅れて戻って来た事が気に掛かっているらしい。私自身そうだったし、そもそも彼女はお化けが苦手だ。無理して入らなくても良いと思ったけれど、またしてもセイラがマドカを煽った。
『マドカ顔色悪いね? 大丈夫? ホテルに戻ってプルプル震えて待ってる? そうしたらセイラが優しく抱き締めてあげるよ?』なんて言ったら、素直じゃないマドカはやせ我慢をしてしまうのは目に見えていた。
案の定、煽られて怒りまかせにマドカはお化け屋敷に入って行ってしまった。
何だかそのやり取りが嫌で、機嫌が降下した私は、ドリンクワゴンの隣にあるチュロスワゴンに向かう事にした。正直、少し距離を取りたかった。
この時に、少しでも気に掛けていれば良かったのかもしれないけれど、その時の私には考える余裕はなかった。
そして好きな味のチュロスを買って戻って来た私を待っていたのは、何となく険悪な雰囲気を顔し出すセイラとメグミだった。
この短時間で何が起きたのだろう。様子を見るに、セイラはふて腐れ、メグミが気まずそうにしている。もしかして、マドカに半ば無理矢理入らせた事で揉めたのか? なんて思っていた。
メグミは真面目だ。今までも、セイラの我が儘を注意していた姿を見ている。今回も、怖がるマドカを煽って行かせた事を非難したのかもしれない。対して、セイラが注意されてふて腐れるのも良くある光景だった。
セイラのことで、そんなに我が儘なのによく一緒にいるな、なんて云われた事も過去にはあった。確かに、彼女は我が儘な部分はあるけど、それでも友人想いの面もある。からかい過ぎて怒られる場面は多々あるけれど、友人に何かあれば手を差し出すくらいの情だってちゃんと持っているのを知っている。話しが逸れたけれど、今回もやり過ぎて怒られたのだろう事は容易に想像出来た。
当時の私はそう捉えて、『はいはい、美味しいチュロスの登場だよ』なんて戯けていた。
本当は、もっと別の話をしていたのだけれど、それを知ったのは暫くしてからだったし、それ以降二人はいつも通りだったから、私も直ぐに忘れてしまった。
チュロスを食べながらマドカの帰還を待っていたけれど、なんとマドカは一○分も経たずに戻ってきた。
無事に帰って来たのは嬉しい。けれど妙に速い気もする。セイラもメグミも唖然としていた。
『速かったね? 何かあった?』
『なにもない! ずっと走ってただけ!!』
どうやら怖すぎて、行きも帰りも走っていたらしい。
まるで熊にでも襲われたかのような必死さで出てくるものだから、此方が焦ってしまった。
マドカは私たちの中で一番背が高い。だから突進するように向かって来ると凄い迫力があるのだけれど、プルプル震える様は雨に濡れた子犬のようで、可哀想やら可愛いやらといった感情でいっぱいになった。
それでだと思う。きっと気が抜けていた。まさか次に自分の番が来るとは予想だにしていなかった。
『じゃあ、いってらっしゃい!』
セイラに背を押されて、唖然としてしまった。
結構力強いのと同時に、爪が背に食い込んで痛かったのを覚えている。
『……次、私だっけ?』
別に何番でも良いけれど、一番入りたがっていた本人が先に入らないのも釈然としない。
そう思ってメグミを見れば、彼女は『えっ、あ、うん……そうだった、はず』と、何とも煮え切らない態度で肯定した。
絶対違うのは目に見えているけれど、セイラではなくメグミまでそう云ってしまったのだから仕方ない。それに背中も痛いし、もう入ってしまおうと決意した。
『じゃあ、行ってくるね』
マドカが開けっぱなしにしていた引き戸から中に入った。
この時の光景を思い出すと、今でも背が痛む。